第11話 【ノーシス】捜査
翌日、ケインという男は拘留を解かれた。彼がギルド支部を出るところから、ハツメの尾行は始まった。
ハツメの私服は黒レザーのショートパンツ、シアーメッシュ――網目状のタイツのように透けたトップスにブラ、というラフなものだった。忍者の黒装束に近いものを選びがちである。忍者的ファッションと彼女は呼んでいる。
「ニンニン、隠れ身のジツ……(スキル:ハイディング)」
ハイディング――斥候スキル、姿を隠すスキルである。
低レベル : 動けない。持続時間が短い。探知で見つかりやすい。
高レベル : 隠れたまま歩ける、より高レベルであれば走る事が出来る。持続時間が上がる。探知で見つかりづらい。
ハイディングは、攻撃する時と見破られた時、スキルは解ける。ディレイタイム(スキル使用後、全てのスキルが使用できない時間)が存在し、連続で使用できない。見破られた時には、長時間のディレイタイムが発生し、これは減少できない。
すー、と素早く静かに、ハツメの姿が消えていく。
彼女は、願いだった忍者になる為に、忍者のイメージに合うスキルを取っている。
ちなみに、ニンニン、と言うのは、彼女が好きだった子供向けアニメの影響である。
ケインは大通りを抜け、彼は酒場に出る。酒場で、カウンターに座り、マスターと話をしている。
ハツメは一般客に紛れ込み姿を現す。小声で呟く。
「ニンニン、聞き耳のジツ(スキル:イーブズドロップ)」
盗聴スキルを使い、彼とマスターの会話を盗み聞きする。
『ここで、ローカストの名前はださねぇほうがいいな』
と、マスターが言う。同感だとハツメも思う。
『それとも、ローカストに参加する気か?それなら、お前の命はここまでだぜ』
いかつい男性プレイヤーが二人、奥から出てくるが、ケインは物怖じする様子ではなかった。
『助けたい人がするんだ』
と、遠くからでも、その真剣な表情で語るケイン。
彼の話が本当ならば、彼はノーシスに誰かを助けに来たのだ。ハツメは、安堵する。初心者を殺さなくてもいい事にはなった。
『ローカストの情報は無いし、あったとしてもだせねぇな。助けられるといいな。アンタも気をつけるこった』
マスターも硬くなった表情を崩して、ケインを送り出した。
何軒か酒場巡り、なんの成果もあげられなかった。が、彼は落胆しているようには見えなかった。さすが、初心者で3つ都市を回った男、とハツメは賞賛する。この忍耐強さ。忍びを称するに値する。
最後の酒場を出るころには、辺りは暗くなっており、どうやら彼も宿を取ろうとするようだ。今日は、彼の宿の場所、部屋の位置、を確認し、しばらく張り込みをしようか、と思っていた。
が、人気のない場所で、二人の男に絡まれている。どうやら、彼はローカストにたどり着いたらしい。トラブルと共に。
ハツメは、まー、そうなるよねー、と思う。もしかしたら、ロッドはこれとケインの目的を知る為に尾行させたのではないか。ケインが餌なら、あたしはフィッシングロッド?カシラの名前がロッドだけに?
聞き耳立ててみると、
「ローカストに用があるようだな。なんの用だ?」
と、長身でガタイのいい男が凄んで見せた。その姿に、酒場と同じく、ケインはまったく動じていない。度胸は、かなりのものらしい。
「アバドに会いたい。彼はどこにいるんだ?」
ハツメは、衝撃を受け、耳を疑った。
アバド……ビッグネームが出たものだ。アバドと言えばローカストの変態幹部として有名だ。初心者の彼から、そんな名前が出てくるとは思わなかった。
「アバドさんに、なんの用だ?」
突然、幹部の名が出て、その威圧的な表情が、ぎこちなく強張った。
「情報があるんだ。是非ともお会いしたい」
ハツメの現場の判断。
彼は、アバドの知り合いでローカストに参加者のようにも見える。
が、酒場で、助けたい人がいる、と言っていた。どちらが本当か、と思えば、酒場での彼が本当だと、ハツメは思えた。必死さ、が違うし、酒場で嘘をつくなら、もう少しマシな嘘をつくだろう。それにアバドと会う為だけ、情報の為だけに命がけで移動はしないと思われる。
情報、というのがブラフかもしれないが、何かがあるならば是非知りたい。
つまりは、彼が敵だろうが、なんだろうが、一度は話を聞かなくてはならない。
「アバドさんは、どこにいるか誰もわからねぇの、うちの組織じゃ常識だろ。何故、居場所を聞くんだ?なぜ、俺達が知っているなんて思ってんだ?なんか怪しいな、お前」
長身の男が、ケインの腕をつかみ拘束しようとする。
「まぁ、捕まえてしゃべらせればいいだけの事だ」
「同感」
男の耳に、艶やかな女性の声が流れたかと思えば、刃が幾度と煌めき、男の身体を切り裂く。
短剣中位スキル、ライフイーター。
急所を狙い大ダメージ与える短剣技である。命中率は低いものの、ハツメのようにハイディング状態から行えば、その命中率の低さを補える事ができる。
それだけではなく、ハツメは、そのスキルを瞬時に3回放つ。
ライフイーターは、そのスキルの再使用に5秒必要である。その時間は、様々な方法で減少させる事ができるが、ハツメは再使用時間を0秒にできる。ハツメの固有スキルの効果によるものだった。ハツメは、制限があるものの全てのスキル使用後即スキルが使用できる。
多くのプレイヤーのスキルに比べれば地味である。しかし、連続技、連続のハイディング等、非常に有用であり、ハツメはこの固有スキルを気に入っていた。
ハツメの短剣は、喉、脇、胸の人体の急所三か所を一瞬で裂き、突く。ミレミアムでも有数の暗殺者、ハツメの必殺技である。その技は、影襲殺、と名付けてもらって以降、ハツメの代名詞となっていた。
彼女のように、固有スキルと共通スキルの組み合わせを、オリジナルの技としているプレイヤーは多い。
瞬時に、急所を何度と突かれ、男は何が起きたかもわからずに消えていく。
もう一人の男は、突然の出来事に理解ができずにいたが、相方が殺された、と分かると直ぐに逃げようとした。
が、その背中をハツメの手裏剣が襲う。
もう一人の男は、背中に3枚もの手裏剣を受けた。
短いうめき声が、夜道に響く。そうして、男は仰け反り、道に倒れた。ハツメは、瞬時に、倒れた男の背中にとどめを刺す。男の姿が消えた。
ハツメは「ふぅ」と小さく息をついて、短剣を腰の鞘に納める。まるで、作業を終えただけのようだった。
プレイヤー2人を瞬殺し、月の光に照らされるハツメ。凛とした佇まいで立つ彼女は、まぎれもなく忍者だった。
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