第3話 【ノーシス】定番のレベル上げ

 ロイーザは部屋の扉を開けて、下の階へと向かう。


 下の階は酒場となっていた。もう少し粗雑なイメージをしていたが、窓も大きく、石畳も奇麗、木のテーブルはゴミ一つなく清潔だった。


 酒場には色々な人種がいた。小人のような可愛らしい人から、定番にして至高、期待を裏切らないエルフの男性など。


 男性エルフが給仕しているだけで、高級店に来てしまったのではないか、とロイーザは思うのだった。


 見るもの全てが珍しく、あたりをきょろきょろするロイーザ。


「プレイヤーとNPCの違いは、私達がいるかどうかです」

 チロが言った。


 なるほど、とロイーザは思った。

 プレイヤーにはナビシステムが必ず近くにいる。ナビシステムのスキンをMCで購入できるので、姿は同じとは限らないが、必ず一緒にいるのだ。


 テーブルを囲っている人や働いている人に、ナビはついていないので、ここにいる人達は全てNPCだと分かった。


 ロイーザは、食事、とも思ったが、大して腹はすいていない。


「プレイヤーも食事が必要?」


 死後の世界で食事というのも変な話だが、食事が必要ない生活は嫌だ、と料理が得意なロイーザは思った。


 プレイヤーがここに居ないのも、もしかしたら食事が必要ないからかもしれない。


「食事は必要です。疲労によって、ステータスがダウンします。最悪、餓死もあり得ます」


「味覚は?」


「ありますよ」


「良かった……」


 空腹ではないので、とりあえず他のプレイヤーを求めて、宿屋を出た。


 目の前の大通りには、馬か牛か、分からない動物がゆっくりと馬車を引いていたり、トカゲ頭の人々の往来し、翼がある人々も居て、ロイーザは思わず、「わぁ」と声がでた。


 おしゃれなテラス席のカフェもあり、新鮮な食料品が並ぶ市場など、何も不自由はなさそうに思えた。


 そして、何よりも容姿が整った事で、ロイーザの街を歩く足取りも軽い。服を見たり、街並みを見たり、買い物も現世よりも楽しく感じられた。


 チロの言うとおりに、MCを通貨コルに変える。1MC、10,000コル。ロイーザは計算する。


(大体、100ドルで1MCかな。100コルが1ドル)


 10,000コルから紙幣のようだ。ロイーザは紙切れ一枚を袋の中にいれる。――財布とバッグを見に行こう。


 買い物をしていると、ロイーザは後ろから声をかけられた。


「こんにちは。初心者の人かな?」


 髭の生えた、長身の男性が立って居た。金属の鎧を身に着け、剣を腰に下げている。その雰囲気が非常に合っていて、いかにも熟練剣士、という様相だった。


 そんな剣士が、爽やかにロイーザを見て微笑んでいる。


「こんにちは。初心者の人です。もしかして、経験者……って、可笑しいか……」


「先輩、が正しいかな」


「そっかぁ、先輩かぁ」


「僕は、ジョンって言うんだ。貴女は?」


「私はさ……ロイーザです。よろしく。」


「ロイーザさんは、ここへ来たばかり?」


「そうなんです」


「一人でこの世界って心細くないかな?よかったら、僕が色々教えてあげるよ」


 多少、迷うような仕草をするロイーザ。


「じゃ、お願いしようかな……」


 教えてもらえる内容は、チロさんから学ぶ事が出来る、とロイーザは思った。が、

この世界で一人の自分にとっては、誰か一人でも知り合いが必要ではないか、と考え、ジョンの誘いに乗った。



 しばらく雑談しながら、城壁を目指す。


 非常に立派な城壁を見上げ、門番の兵士NPCに頭を下げて、城壁をくぐる。


 城壁つたいに歩き、空き地があった。そこにネズミのような丸い、げっ歯類の群れが居た。


 群れから外れた一匹を標的に、ロイーザは短剣を振るう。


「こんな…こんなに可愛いのに……」


「沢山いるから大丈夫だよ。さあ、剣を振ってみて」


(沢山いるから大丈夫っていうわけではないんだけどなぁ)


 振り回してみると重たく、大振りばかりしてしまうロイーザ。それでも、低レベルモンスターともあって簡単に当たり、ネズミはひっくり返ってしまう。そして、消えてしまった。


「やったね」


「やりましたぁ」


 システム:ジャンプラットを倒しました。

 システム:ロイーザのレベルが上がりました。


「レベルが上がりました」


「短剣振ってみて」


 大振りではなく、小ぶりでしっかりと短剣を制御できた。以前より、少しだけ軽く感じる。


「レベルがあがると補助的ステータスが上がるんだよ。自前の筋力を上げてくれるんだ。あとはスキルポイントを使ってスキルを覚える事が出来るよ」


 ジョンの話によると、レベルアップでは自分の基礎身体能力に、レベルアップした分のステータスが追加される、との事。


 ロイーザの基礎筋力は3だった。それがレベルアップで+1される、という仕様。


 筋トレをすれば基礎ステータスはレベルに関係なく上がる。身体能力とレベルの両方上げる事が、強くなる秘訣なのだそうだ。


「レベルが上がると、スキルを習得できるよ」

 ジョンは言う。


「スキルは後で考えます。この武器スキルっていうのを教えてほしいです」


「その短剣にスキルが付いているんだね。その短剣をもって、剣回避って念じてみて」


 ロイーザは剣を装備して、剣回避、と念じてみると、身体が勝手に反応する。半身になり、短剣を前に構え始めた。


「回避技だから、構えるだけだね。スキルのレベルが上がると、より正確に回避してくれる」


「装備のスキル上げって、どうすればいいんですか?」


「同じ武器を合成するんだ。街の鍛冶屋に預けて数日で完成」


 装備品のダブりは、合成して装備スキルに使う、とロイーザは記憶した。


 ジャンプラットは、剣は持っていない為、ソードブレイカーの回避スキルの効果はない。


 しかし、回避スキル発動タイミングの練習相手にはなるようだった。飛び跳ねて

体当たりをしてくるモンスター相手に、回避スキルを使用し続ける。


 武器スキルはMPのようなものを消費するものではない、という事をロイーザは学んだ。

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