いいわけの儀【KAC2023/いいわけ】

湖ノ上茶屋(コノウエサヤ)

母は今日も数えている




「それでは、始めます」

 母さんが厳かに〈いいわけの儀〉の開始を宣言した。


 この、時間を無駄にする儀式が始まったのは、数日前からだ。

 

 四人家族の我が家は、都度五合の米を炊いていた。

 多少物足りなさを覚える日もあったが、それなりに満足のいく日々だった。

 その日、母さんはエビの背ワタ取りに大苦戦し、イラついていた。

 腹が減っては戦はできないが、腹が減りすぎると攻撃性が高くなる。

 いつもよりも爆発した食欲、しかしその他三名が食いすぎたせいでいつもよりほんのり少なめな米。

 母さんは叫んだ。

「もう! これから米は一人7777粒までよ!」

 居合わせた者たちは困惑した。

 母さんの突沸した怒りにではない。

 米の数に、だ。

 7777粒は、多いのか? 少ないのか。

 いつも米粒を何粒食べているかなど分からない。

 一食一合は食べたい。7777粒は一合以下か、一合以上か。


「調べてみたけど、一合は6500粒くらいって」

「一合ちょいか。それなら、まぁいっか」

「火に油注いでもアレだし」

「ってかさ、7777粒ってどうやって数えんの?」

「確かに」

「……んと、1000粒で20グラムくらいで、グラム×2.2? するとご飯の重さになるって」

「あぁ、計算できるんだ。じゃあ、そんな面倒なことにはならないか」


 皆、楽観視していた。

 しかし現実は――

 母さんは米粒を箸で4つの器に分けていく。

 分けた米粒はもちろんそれぞれ別々に炊く。

 見ているだけでため息が出る。なんという時間泥棒。

 炊けた米を数えて、数えている間に干し飯にしてしまうよりマシか?

 ってか、この一人分の米を数える作業をしている間に、何尾のエビの背ワタを取れるんでしょうかね?

 なんで背ワタ取りではイラつく癖に、米粒数えるのは苦じゃねぇんだよ!


 飯分けを楽にするため、3.5合の米を三人で分けることにした。

 米粒の数を厳密に数えない飯分けは、時々少し物足りないが、楽で美味い。



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いいわけの儀【KAC2023/いいわけ】 湖ノ上茶屋(コノウエサヤ) @konoue_saya

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