連載作家と担当の話

黒片大豆

「今回も落としたら、次は無いですよ!」

 吾輩は作家である。原稿はまだない。

 などと、戯れている時間すら惜しい。本当に原稿が真っ白なのだ。

 私は週刊誌で連載をもっている、売れっ子作家(自称)なのだが、最近は、特に酷いスランプに陥ってしまっていた。連載中の話の、最初の切り出しすら決まらんのだ。

 これはいかん。メンタル的に追い込まれているな、と思い立ち、担当には内緒で、気分転換に熱海へ小旅行にいったり(三泊四日)、ゲン担ぎにと、偉大な文豪にあやかり生活費を切り詰めたギャンブルに勤しんでみたのだが(マイナス7万円の負け)、しかし目の前には、未だ、真っ白なパソコンの画面が映し出されていた。なぜなのだ。


 実は、締め切りはに過ぎている。今現在、私の担当が死に物狂いで各方面に行脚し、時間稼ぎをしてくれている。

 担当にはいつも頭が下がる思いだ。足を向けて眠ることはできないくらいに世話になっている。今回も、私のために奔走してくれている。

 必死な彼の行動を無下にできない。今の私ができる唯一の行動で、彼を労ってあげたい。


 初心に返ろう、基本に立ち返ろう。あまり奇をてらう必要はない。今まで積み上げてきた私の実力と、自身の経験を信じるのだ。

 私は、意を決してパソコンのキーボードを叩き始めた。なんだかんだ言っているが、ひとたび覚悟を決め筆を走らせれば、すらすらと言葉が湧き出てくるものだ。

 私は思いの丈を……零れるほど溢れんばかりの気持ちと、担当への感謝を込めて、誠心誠意、文章を紡いだのだった。



『拝啓、担当殿。

 パソコン故障のため作品を仕上げることができず、多大なるご迷惑、ご心配をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。全ては私のパソコン及びキーボードの不調が招いたことであり……』



 後日、担当から『PC不調でどうやってこのメール書いたんですかね』といった怒りのメールを頂戴し、併せて、私の連載は打ち切りが決定した。



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連載作家と担当の話 黒片大豆 @kuropenn

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