いいわけのあいて
水円 岳
☆
まず、最初に言っておこう。言い訳ってのは自己保身だ。確定している不都合な事実が己の思考や行動に起因、関与していることを認めた上で、外圧に対して自己正当化で対抗するのが言い訳である。
それに対し、『いいわけ』ってのは自身が受け入れられない事実や事象に対して否定的に使われる用語だ。「それでいいわけ?」「いいわけないだろ!」のように。
発音が同じでありながら真逆の意味で使われている言葉のように見えるが、どちらも自身を守るために用いられるという点では同じなのだ。
言い訳は、押し込まれる批判や批難の刃を止めるために言葉の鎧を重ねること。『いいわけ』は体表に棘を立て並べて相手を威嚇し、下がらせること。どちらも言葉を用いて自我を保つためのツールという点では違いがない。そして、相手から歓迎されないツールであるのも共通している。
だが。言い訳をするなという恫喝は御免被る。言葉を尽くして相手に説明をするのは、コミュニケーションの基本中の基本だ。そこから言い訳だけを外せというのは、問答無用だ黙ってろという強制遮断と何も変わらない。
『いいわけ』を使うなというのも同様だ。反語的な表現はにべもない拒絶や反論よりむしろ柔らかいのだ。『いいわけ』によって生まれる押したり引いたりの余地。そいつをあえてむしり取る意味がどこにある?
私は声高に言い訳をしたい。降りる停留所でもないのに降車ボタンをうっかり押してしまったのは、確かに私のミスだ。だが、降車ボタンの印字を見落としたのは仕方ないだろう? 普通は『次とまります』としか書かれていないのだから。
それをなんだ! こんなことがあっていいわけ? いいわけないだろ! なんでバスの降車ボタンに『核弾道ミサイル発射します』って印字されてるんだ!
……って、誰も聞いてないか。相手がいないと言い訳も『いいわけ』も意味ないんだよなー。ちぇ。
【おしまい】
いいわけのあいて 水円 岳 @mizomer
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