学年末狂騒曲第四章
「よっし、出来たわよ!これで葵の赤点回避ができる、自信作!」
百華はそう言い放って、いくつかの紙束を机の上に置いた。…いや、正確には投げつけた、と言ったほうが正しいのかもしれない。多分効果音入れるとしたら「バァンッ!」だし、実際にそんな音がしたし。
「テスト対策に自信作ってのも変な話だけど…百華が言うからには信じていいんだよね?ね?」
「当たり前よ!自ら信じて作った、と書いて自信作、これを解けるようになれば赤点回避は確実!…まぁ、本当に全部理解してほしいのが実情だけど、今は目の前の壁をぶち壊さないといけないんだから!」
私のすがるような眼に、百華は得意満面な笑顔で返す。今までの参考書の山はどこへやら、月曜の図書室、目の前にあるのは数枚のプリントの束がいくつか、だけだ。
これにはほかのメンバーも目を丸くした。ついこの前までわちゃわちゃしていた会話が、図書室にふさわしいくらいシーンとなった。
「…え?百華さん、これだけですか…?」
「…マジ…?要点だけ抜き出した、とか…?」
「佑助にしては目の付け所がいいじゃない。そう、これは葵の赤点回避だけに特化した対策プリントよ。今回の範囲の中でも葵が間違えたところだけを抜き出して、さらにその中でも基礎中の基礎に焦点を当てて作ったの。本当に赤点をぎりぎりで回避できるようにね。ほら、記述問題なんて時間のかかる問題はないでしょ?」
「…うわぁ、これは確かに間違えたら「授業をちゃんと聞いてたのか!教科書に書いてあるだろ!よく読め!」って先生たちに怒られそうな内容だわ…」
佑助がプリントをしげしげと見ながら呟く。ということは、本当に必要最低限の内容だけを抜粋したんだろう。一緒に勉強を受ける側だった佑助ですらそれを見抜けるくらいなんだから。
「よし、じゃ頑張って取り組むわよ!葵の、私たちの戦争はここから始まるの!」
「…百華さん、ちょっと声が大きいですよ…」
知音がたしなむような声で注意したのが、果たして百華に届いたのかはわからないけど、私の赤点回避対策が改めて始まった。補講の日まであと3日、くしくも一教科一日で理解すればつじつまが合う日程だった。
そこから先は佑助も教える側に回り、3VS1の勉強の日々が始まった。初日は数学、二日目はそれをベースにした化学、最終日は暗記内容も多い物理。百華の立てたプログラムはぐうの音も出ないほど完璧だった。実際、私の記憶の片隅に眠っていた当時の授業の記憶が呼び覚まされるようで、私の予想を超えて理解が進んでいった。それぞれの日々の終わりの確認テストはほぼほぼ満点を取れるほど、確実に私の脳細胞に内容が染み込んでいった。
そして補講当日、勉強会を始めてからちょうど一週間経った日。百華、佑助、知音が教室に向かう私をわざわざ見舞いに来てくれた。
「この一週間の成果、ばっちりと全力全開で出してきなさい!」
「俺たちの努力、無駄にしてくれんなよな。グループ解散なんてまっぴらごめんだからな、俺は。」
「葵さんの頑張りは絶対に点数になって戻ってきます、改めてになりますが、頑張ってくださいね。」
三者三様、いろんな励まし方があるんだな、なんてぼーっと思っていたら、百華に肩をやや強めに叩かれた。
「さぁ、行ってらっしゃい。私たちの集大成、目に物言わせてやりなさい!」
「…みんな、ありがとう…。うん、頑張ってテスト攻略してくるね!」
私はそう答えると、教室に入っていった。…まあ、そもそも補講の人数なんて片手で数えられるほどしかいないのだが、その中に私が入ってしまったのだ。ここから抜け出さないことにはすべて終わってしまうし、それはきっと誰も望んでいない結末だろう。その結末を良い方向にもっていくのが、私の今年一番の使命なのだ。
「…笑って入って行ったわね、葵。」
「まぁ、あれなら大丈夫だろ、もう俺たちにできることはやりつくしたと思うぜ?」
「えぇ、笑顔で葵さんが戻ってくるのを待ちましょう。葵さんに悔し涙なんて似合いませんし。」
「それはそうと知音、今回のことをまとめて詞にしてみたから、佑助と一緒に曲にしてくれない?」
「それはそうと、って別に言い方あんだろ…」
「まあまあ。今回のこと、って言うと葵さんのために一丸となって頑張ったこと、ですね。では、私がいつものようにピアノで曲にしてみますので、佑助さんは編曲をお願いしますね。百華さん、どんな感じがいい、とかありますか?」
「まぁ歌詞を見てから言いなさい。バラードなんてしんみりした感じじゃないのはみんなわかってるでしょ?いつもの私たちでいいのよ。こっちはこっちでこの一年の集大成、作らないとね。」
「ま、いつも通り、が俺たちのポリシーみたいなもんだもんな。肩肘張らず、観客にストレートに届くような曲、作って出迎えようじゃないか。…まぁ、二年生になるのに俺らも時間がないけど、な。」
「それなら学年末に合わせなくても、新入生歓迎会に合わせて作るのも一つの手ではありますよ。葵さんも曲に合わせるの大変でしょうし。」
「やー、そこは一年の集大成、って言ったじゃない?どうしても今年度中にやりたいのよねー。葵には、ほら、そこは勉強料ってとこで頑張ってもらって。」
「…あいつ、あれこれ詰め込みすぎて二年になる前にパンクしねぇかな…。」
「編曲は佑助さんに一任しますよ。葵さんが今回はメインになるような感じで作りますけど、葵さんが無理しないように編曲してもらえれば大丈夫じゃないですか?」
「じゃ、これでいきましょう。タイトルは「学年末狂騒曲」、今の私たちにぴったりな歌詞にしたからよろしくね!」
「狂想曲、ねぇ…百華らしいと言えば百華らしいタイトルだな。」
「はい、私たちももうちょっと頑張っていきましょう!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます