口は災いの元

蒼雪 玲楓

見られてしまったものは

 口は災いの元、とはよく言ったものだ。

 思いがけずこぼれた言葉というものは刹那の瞬間にしか存在しないにも関わらず、その後長時間に渡って多大な影響を残すことが多々ある。

 それがいい影響か悪い影響であるか、どちらであるかは関わらずだ。


 そしてここにもその影響に悩まされている少女が一人。


「うわぁ~!やっちゃった!やっちゃった!やっちゃった!なんであんな油断しちゃったかなぁ!!」


 その少女はベッドの上で顔を抑え、ゴロゴロと転がっている。そのせいか、元々置かれていたであろう布団や服、ぬいぐるみといったものが部屋中に散乱している。

 しかし、そのことには気がついていないのかあるいは気にする余裕も残ってはいないのか。どちらにせよ少女の思考は一つのことに完全に占領されてしまっていた。

 その視線の先にあるものはスマートフォンと手帳、そして数枚の写真だった。


「よりにもよって!なんで本人にバレるかなぁ……」


 写真に映っているのは一人の男性。その姿は学制服なのだがその視線は写真を撮ったであろうカメラには向けられていない。これが修学旅行や文化祭のようなイベントで撮られていると明確にわかればなんともないだろう。

 しかし、少女の見ている写真はそうではなかった。

 明らかに昼休みや授業の合間の休憩時間に撮られたとわかる写真ばかり、それが全部だった。


「うぅ……こっそり撮った写真だってこともばれたかな?すぐに隠したからそこまで気づかれてないと思いたいんだけど……一人で抱えるのやっぱり無理!!」


 考えが固まってからの少女の行動は早かった。

 近くに放り出されていたスマートフォンを手に取るとメッセージアプリを起動し、彼女にとっての親友のような存在へとメッセージを送る。


『お願い、助けて!というか愚痴聞いて!!』

『えー、いつもみたいに壁打ちしといてよ。適当にスタンプ送ってるから』

『やだ!せめて無言でもいいから直接話聞いて!』

『じゃあ今度何か奢って』

『……わかった。だから今から掛けるからね!』


 少女はそこまで送信すると相手の返事を待つこともなく通話を掛ける。


「ねえ、せめて返事くらい待ってからにしない?私が出れない状況だったらどうするのさ」

「それはー……その時に考える?すぐにが無理なら着信拒絶してからチャット送るくらいするでしょ?」

「まあ、それはそうだけどー。で、用件は?」

「そう!それ!!大問題が起きたの!!!」


 そこからしばらく少女の口は止まることを知らなかった。

 たしかに無言でもいいとは言っていたが、相槌すら聞かないのはどうなんだと親友が思っていることなどつゆ知らず少女は話し続ける。


「だいたいこんな感じなんだけど!私どうすればいいかな!?」

「はぁ……」


 結局少女は満足いくところまで、というよりも最初から最後まで自分の言いたかったことを言い切ったところでようやく一息つく。


「え、なんでため息ついてるのさ!」

「勝手に最初から最後まで私の反応も気にせず全部話したことへのため息と、話された内容のバカさ加減へのため息?」

「えー、ひどいって!」


 そんな反応に、また親友の少女はため息をつく。


「あのね。こっそり好きな人の写真を撮ってそれを印刷して手帳に挟んで持ち歩いた挙句、それがよりにもよって本人にばれて?」

「うぐっ……」

「で、そのことの言い訳をしようとしてほぼほぼ告白まがいなことを言ったんでしょ?そして走って逃げた」

「わー!わー!そんな言い方」

「どこがバカじゃないって?」

「……はい、私はバカです。隠し撮り写真を好きな人に見られた大バカ者です」

「で、話したから満足?」

「ひどいってばー!助けてよー!」

「正直に全部言って告白でもしてこい、親友からは以上」


 そしてそのまま通話が切られる。

 少女が通話を掛けなおすもそのたびに拒絶され、送られてきたのはこんなメッセージ。


『振られた愚痴ならいくらでも聞くから寝かせて。このまま付き合ったらどうせ寝れない』


 そして、よくわからない動物が手を振るスタンプが送られてきていた。


「うわーん!!バーカ!やってやるもん!」



 その後、彼女の告白がどうなったかは今はまだ不明な話だ。

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口は災いの元 蒼雪 玲楓 @_Yuki

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