第200話 おいしくなった

 水龍ちゃんとトラ丸は、今日もいつもどおりダンジョンへ行って各種ポーションを生産し、商業ギルドへヒールポーションの納品を終えて帰ってきました。


「ただいまー!」

「なー!」


 水龍ちゃんとトラ丸は、玄関ドアを開けて、嬉しそうな笑顔で元気よくただいまを言って家の中へと入ると、一目散にリビングへと向かいました。


「お帰り」

「ばばさま、あのね、高額請求されちゃったお金が返ってくるんだって!」

「なー!」


 お帰りを言うおばばさまに、水龍ちゃんとトラ丸は、とても嬉しそうに、しかし、少し言葉足らずに報告しました。


「高額請求というと、薬師ギルドの件じゃな」

「うん! さっき、シュリさんが言ってたの。裁判所から正式に返金するように令状が発行されたってね!」

「なー!」


 おばばさまの確認の言葉に、水龍ちゃんは、とても嬉しそうに言いました。トラ丸も水龍ちゃんと一緒に嬉しさをアピールしています。


「そうかい、そうかい。今、お茶を入れるから、詳しい話を聞かせておくれ」

「あ、昨日作った錬成焙煎ばいせん白樺茶があるの。ばばさまにも味をみてもらいたいわ」


「ほうほう、それじゃぁ、その白樺茶を頂こうかのう」

「うん、準備するから待っててね」


 水龍ちゃんは、仕事用の大きなバックパックを片付けてから、昨日作った錬成焙煎白樺茶で一番美味しかった茶葉を使って、お茶を入れました。


「ほほう、この前作ったものより美味いのう」

「えへへ、温度を少し高めにしたの。そしたら、香りも良くなっておいしくなったのよ」


 おばばさまが、お茶をひと口飲んで素直な感想を述べると、水龍ちゃんは嬉しそうに工夫した点を話しました。トラ丸はテーブルの上でドヤ顔です。


 水龍ちゃんは、シュリさんからの情報として、薬師ギルドに支払っていた特許侵害の賠償金について再審議が終わり、薬師ギルドによる特許侵害の訴え自体が無効と判断されたことを話しました。


 そして、裁判所が薬師ギルドへ結果を通達し、正当な異議申し立ての申請がなされなかったため裁判所による賠償金返還の令状が発行されて、今朝シュリさんが裁判所へ出向いた際に通達書と令状の写しを受け取ってきてくれたことを話しました。


「これが、通達書と令状の写しよ」


 水龍ちゃんが、シュリさんから受け取った書類をおばばさまへ見せました。


 シュリさんは、水龍ちゃんの代理人として裁判所とのやり取りを行っていて、裁判所からの情報や書類は、すべてシュリさんを経由しています。


「ふむ、10日後に裁判所にて賠償金返還手続きがなされるのじゃな」

「そうよ。シュリさんがね、金額が大きいから青龍銀行へ手続きに同行するようにお願いしてくれるそうよ。手数料はかかるけど安心だからって」


「そうじゃな、金額が大き過ぎて、わしなんぞ、手が震えてしまうからのう」

「うふふ、ばばさまったら、面白い冗談を言うわね」


 そんな話を楽しそうにしながら、錬成焙煎ばいせん白樺茶を美味しく頂いたのでした。





 お茶の後、水龍ちゃんは調合室で錬成焙煎の実験を行います。白樺茶ノ木の葉は、ダンジョンの帰りに摘んできたので素材は十分です。


「ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪」

「なぅな~、なぅな~、なぅなぅな~♪」


 水龍ちゃんは、錬成焙煎の実験にもすっかり慣れてしまい、鼻歌を歌いながら次々と実験を進めます。トラ丸も体をゆらゆら揺らしながら歌います。


「さて、大雑把だけど、温度の違いによるデータは取れたわね。味の違いは後でじっくり確認するとして、次は、どこを攻めようかしら」


 ちょうど、切りが良いところまで実験を終えたようで、水龍ちゃんは、ノートを見ながら次なる実験をどのようなものにしようかと考えます。


「なー?」

「ん? 青色掻き混ぜ棒は使わないのかって? そうね、試しに使ってみるのもいいわよね」


 トラ丸の鶴の一声ならぬ子猫の一声で、水龍ちゃんは、青色掻き混ぜ棒を使った錬成焙煎ばいせんを行ってみることにしました。


 水龍ちゃんは、一度テーブルの上を綺麗に片付けてから、新たに白樺茶ノ木の葉っぱを量って錬金釜へと入れました。


「うふふ、おいしくなるといいわね」

「なー」


 水龍ちゃんは、魔導コンロのスイッチを入れると、青色掻き混ぜ棒を手に温度計を見ながらワクワク顔で軽く葉っぱを掻き混ぜます。


 錬金釜の温度が程よく上がっていくと、香ばしい香りが立ち始めました。水龍ちゃんは、温度計を確認しながら魔導コンロの温度を調節しつつ、青色掻き混ぜ棒に魔力を流して錬成焙煎を行います。


「あら? 香りが変わってきた感じ?」

「なー?」


 錬成焙煎ばいせんの効果が表れたのでしょうか、水龍ちゃんとトラ丸は、香りが変わったことに気付きました。


「なんか紅茶っぽくなってきた?」

「ぅな?」


 錬金釜の中をよくよく観察してみれば、ぽわぽわと淡い光に包まれた茶葉が赤みを帯びてきたように見えます。トラ丸も水龍ちゃんの肩の上から覗き見て、小首を傾げてみせました。


 水龍ちゃんは、ちょっと違った反応にワクワクしながら錬成焙煎ばいせんを続けて白樺茶を作り上げました。


「やっぱり紅茶みたいな香りね」

「なー」


「ばばさまを誘って、飲んでみよっか」

「なー!」


 水龍ちゃんは、おばばさまを誘って、青色掻き混ぜ棒を使って作った錬成焙煎白樺茶を飲んでみることにしました。試しに紅茶と同じように入れてみました。


「ふむ、紅茶のようじゃのう」

「まさか、こうなるとは思ってもみなかったわ」


 おばばさまと水龍ちゃんは、錬成焙煎白樺紅茶?の入ったカップを見つめながら感想を述べました。


「どれ、飲んでみようかの」

「そうね」

「なー」


 みんな一斉に錬成焙煎白樺紅茶?をひと口飲みました。


「ふむ、味も紅茶そのものじゃ」

「なかなか おいしいわね」

「な~♪」


 水龍ちゃんとおばばさま、そしてトラ丸が、錬成焙煎白樺紅茶?を飲んでみた感想を述べるのでした。

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