第199話 白樺茶の研究

「いろいろ試してみたんだけど、錬成焙煎ばいせんするときの温度とか時間とかを変えてみると結構違いが出てくると思うのよね」


 水龍ちゃんは、帰宅したおばばさまに、試しに作った錬成焙煎茶(ほうじ茶味?)を披露しながら自身の考えを話します。


「まぁ、そうじゃろうな。お茶づくりの職人たちも良い味や風味を出すために、その辺りは、とことんこだわっておるじゃろうからのう」


 おばばさまも、ちょうど良いお茶休憩といった感じで、水龍ちゃんの作った錬成焙煎茶を飲みながら、ほっこりと応じました。


 そんな会話を聞いているのかいないのか、トラ丸は水龍ちゃんの膝の上で大きなあくびをしてから丸くなり、気持ちよさそうに目を閉じました。


「そうよねぇ。お茶づくりの職人さん達は、もっとおいしいお茶を作るために研究を続けているわよね」

「茶の道もなかなか奥が深いというからのう。わしら素人のにわか仕込みでは太刀打ち出来んじゃろ」


 水龍ちゃんが、お茶づくり職人さん達のことへ考えを巡らせると、おばばさまが、餅は餅屋と言わんばかりに茶の道にも奥深さがあるだろうとの考えを述べました。


「それじゃぁ、お茶職人さんが扱っていない白樺茶の研究をしてみようかしら」

「ほう、茶の道に目覚めたかの?」


「ううん、お茶というより錬成焙煎ばいせんについて興味があるわ。突き詰めていけば、お茶やコーヒー以外でも、おいしいものが出来る気がするの」

「ふはははははは、錬成焙煎を突き詰めると来たか、なかなか面白そうじゃのう。好きにやってみるとええ、わしも応援するのじゃ」


 水龍ちゃんが、錬成焙煎の方に興味があると言うと、おばばさまは快活な笑い声を上げて応援してくれるのでした。





 翌日、水龍ちゃんとトラ丸は、ダンジョンへ入って白樺茶ノ木の葉をたくさん摘んできました。


「まずは分量を決めておきましょ。1号錬金釜に入るくらいの量にすると……」


 水龍ちゃんは、一番小さな錬金釜に8割程度の白樺茶ノ木の葉を入れてから取り出して重さを量りました。これから行う数々の実験を比較するために、分量を決めたのです。


 水龍ちゃんは、表紙に猫の手印が可愛らしく描かれたノートを開いて、量った重量を記録しておきました。ちなみに、このノートは猫の手カップの福引で当たった景品で、水龍ちゃんは何冊も持っています。


「それと、錬成焙煎ばいせんの温度を調べないとね。焦げないくらいの温度がどれくらいなのか、ちゃんと測ってみなくちゃ」


 水龍ちゃんは、昨日のうちにノートにメモしておいたことを見返して、温度をちゃんと測ろうと決めました。


 それから、水龍ちゃんは、錬金釜固定用の台に取り付けた高温用の温度計を確認しました。昨日のうちに、おばばさまが取り付けてくれたもので、ポーションの温度を測る温度計と違い、錬金釜の表面温度を測るものです。メモリも20度単位で刻まれていて1000度まで測ることが出来るようになっています。


「まずは、この前と同じ感じで錬成焙煎して、温度を確認しましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんは、前回作った時のように香りが立ち込めてきたところで温度を確認して、温度計を見ながら錬成焙煎を行いました。もちろん錬成焙煎が終わるとすぐに温度をノートに書き込みます。


「次は、もう少し温度を上げてみようかな」

「なー!」


 こんな調子で、水龍ちゃんは、温度を変えて焦げ付かない温度がどれくらいなのか探ってゆきました。




「天使ちゃん♡ トラ丸ちゃん♡ 休憩にしましょ♡」

「ん? もうそんな時間なの?」

「なー」


 マーサさんが休憩に誘いにくると、水龍ちゃんは、結構時間が経っていたことに少し驚きました。トラ丸は休憩と聞いて嬉しそうです。


「うふふ♡ いい香りねん♡」

「えへへ、まだ研究を始めたばかりだけど、もっともっとおいしい白樺茶を作ってみせるわ」


 マーサさんが、調合室に広がる白樺茶の香りについて感想を述べると、水龍ちゃんは、少しはにかみながら当面の目標を語りました。


 水龍ちゃんは、切りの良いところで実験を中断して、みんなでリビングへ向かいました。


 リビングでは、既にお茶菓子としてマカロンが用意されていて、世話好きのマーサさんが、すぐに紅茶を入れてくれました。


 みんなでほっこり紅茶を飲みながら雑談をしていると、ピンポ~ン♪と玄関のチャイムが鳴りました。


「こんちはー! エメラルド商会でーす!」


 エメラルド商会の陽気な配達人が、エンジェルパックやウルつや化粧水などの商品の受け取りと各種素材や瓶などの配達にやって来ました。


 猫の手カップ終了後、エンジェルパックとウルつや化粧水は、エメラルド商会を通じて化粧品を扱う店へ販売されているのです。


 ちなみに今日は、水龍ちゃんの赤毒、青毒ポーション、赤毒、青毒マヨネーズも受け取ってゆく予定になっています。


「エンジェルパックとウルつや化粧水の売れ行きはどうかしらん?♡」

「そっすねぇ、好調な売れ行きって聞いてるっすよ。もう少し生産数を増やしてもらおうかなってトーマスさんが言ってたっす」


 マーサさんの問いに、配達人のお兄さんは、にこやかに答えました。


「あらん♡ すてき♡ そろそろ病院勤務を辞めないといけなそうだわん♡」

「その辺は、プリンと相談することじゃな。勝手に辞めてくるでないぞ」


 マーサさんが、とっても嬉しそうな笑顔をみせて、すぐにでも病院側へ行って勝手に退職の話を押し付けてきそうでしたが、おばばさまに釘を刺されて、マーサさんは残念そうに口を尖らせていました。


 素材の配達と商品の受け取りを済ませたお兄さんが、陽気な笑顔で帰って行くと、水龍ちゃん達は、リビングのテーブルをささっと片付けました。


「さぁ、がんばって、おいしい錬成焙煎ばいせん白樺茶を作るわよ!」

「なー!」


 美味しい紅茶とマカロンで英気を養った水龍ちゃんとトラ丸は、再び錬成焙煎の実験を繰り返すのでした。

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