2.水龍ちゃん、錬成焙煎にはまる

第198話 いろいろ試してみる

 この日、お仕事のヒールポーション作りとその納品を終えた水龍ちゃんは、午後から錬成焙煎ばいせんをいろいろ試してみることにしました。


 まずは定番、いつも飲んでいるお茶っ葉です。市販されているものなので、既にお茶としては完成しているのですが、深り茶になるかな? という軽いノリで試すことにしたのです。


 水龍ちゃんは、調合室で錬成焙煎の準備をします。穴のあいた台を魔導コンロに被せるように置いて、その穴へ1号錬金釜をすっぽりとはめました。


「ふふっ、こんな道具があったのね。これなら錬金釜が倒れることはないわね」

「なー」


 水龍ちゃんが、穴のあいた錬金釜固定用の台を見て呟くと、トラ丸も、そだねー、と声を上げました。


 この錬金釜固定用の台は、やけどをしないようにと、おばばさまから使うように言われていたものです。熱を通しにくく燃えにくい材質で出来ているため、錬金釜がかなり高温になっても台の方は手で触ってもなんでもないくらいだそうです。


 水龍ちゃんは、1号錬金釜にお茶っ葉をザパッと適当に入れると、魔導コンロのスイッチを入れて加熱を始めました。


「おいしい深煎り茶を作るつもりだけど、どうなるか楽しみね」

「なー!」


 水龍ちゃんは、トラ丸の応援を受けながら楽しそうにミスリル製の掻き混ぜ棒に魔力を込めて、錬金釜の中のお茶っ葉を掻き混ぜ始めました。


 ぽわぽわと淡い光に包まれたお茶っ葉が、ほどよく加熱されてきた頃合いで香ばしい香りが立ち込めてきました。


「ふふっ、いい香りがしてきたわ。トラ丸、3分経ったら教えてね」

「なー!」


 水龍ちゃんが、錬成焙煎ばいせん時間を告げて時計を見ているように頼むと、トラ丸は嬉しそうに声を上げました。


 水龍ちゃんは、お茶っ葉を焦がさないようにと魔導コンロの加熱量を下げて、じっくりと錬成焙煎を進めます。


「なー!」

「3分経ったのね。ありがと、トラ丸」


 トラ丸の声に、水龍ちゃんはお礼を言うと、錬成焙煎を止めて魔導コンロのスイッチを切りました。


「あまり焦がさずに焙煎ばいせん出来たわね。冷めたら軽く揉みほぐして、そうね、あと3回くらい錬成焙煎してみましょうか」

「なー」


 水龍ちゃんが、焙煎プランを口に出すと、トラ丸は、そだねー、と賛成してくれました。既に完成しているお茶っ葉に、さらに揉みほぐしが必要なのかは、素人の水龍ちゃんには分かりません。


「ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪」

「なぅな~、なぅな~、なぅなぅな~♪」


 水龍ちゃんとトラ丸は、鼻歌交じりに錬成焙煎を進めます。繰り返し作業なので焦がし過ぎないように注意するだけで、すんなりと作業は終わりました。


 水龍ちゃんは、出来上がった深り錬成焙煎茶?の粗熱が取れたところでお茶缶(再利用)に入れて、日付と深煎り錬成焙煎茶と書き入れたラベルを貼りました。


 綺麗に後片付けをしてから、さっそくお茶を入れました。おばばさまにもと思うのですが、あいにくおばばさまは出かけていたので、水龍ちゃんとトラ丸だけで試し飲みです。


「うん、ほうじ茶になったわね」

「なー」


 水龍ちゃんの感想に、トラ丸も同意です。


「だけど、ちょっと高級なほうじ茶になった気がするわ」

「ぅな?」


 しかし、高級になったかどうかについては、トラ丸は小首を傾げてしまいました。どうやら微妙なところのようですが、不味くはならなかったようで何よりです。


「よし、今度は錬成焙煎ばいせん麦茶を作ってみましょ」

「なー」


 ほうじ茶っぽくなった深煎り錬成焙煎茶?を飲み終えた水龍ちゃんは、麦茶づくりを試してみるようです。


 水龍ちゃんは、ときどきスープに使われる押し麦を調合室へ持ち込むと、さっそく錬成焙煎麦茶づくりを始めました。


「ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪」

「なぅな~、なぅな~、なぅなぅな~♪」


 水龍ちゃんは、楽しそうに鼻歌交じりで錬成焙煎を進めてゆきます。もちろんトラ丸も楽しそうに体を揺らしながら歌います。


 お茶と同様に、香ばしい香りが出てから3分ほど焦がし過ぎないように錬成焙煎ばいせんを続けて、冷却、揉みほぐしを行うことを3度繰り返します。


 お茶と違って揉みほぐしは必要なのか分かりませんが、水龍ちゃんは全く気にしていないようです。


「よし、出来たわ。さっそく煮出して飲んでみましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんは、作った錬成焙煎麦茶を空いた薬草缶に入れると、あと片付けをして台所へと向かいました。


 片手鍋に適当な量の錬成焙煎麦茶と水を入れて、魔導コンロに掛けてじっくりと煮出しました。


「う~ん、なんだか色が薄い気がするけど、錬成焙煎ばいせんしたからかしら?」

「なー?」


 水龍ちゃんは、十分な時間をかけて煮出した麦茶の色の薄さに、トラ丸と共に小首を傾げましたが、とりあえず冷まして飲んでみることにしました。


「薄いわね……」

「なー……」


 見た目のとおり、やっぱり薄かったようです。


「麦茶は、もっと焙煎時間を長くしなきゃならないのかしら? ……そもそも押し麦を使って麦茶にしようとしたのが間違いとか? う~ん、麦茶づくりもなかなか奥が深そうね」


 水龍ちゃんは、薄い麦茶をちびちびと飲みながら、麦茶についてあれこれ考えてみましたが、麦茶づくりの経験などないので、さっぱりなのでした。


「次はコーヒーを錬成焙煎ばいせんしてみたいところだけど、残念ながらコーヒー豆はないのよね。ってことで、ハーブティーの錬成焙煎を試してみましょ」


 水龍ちゃんは、まだまだ試してみるつもりです。


「なー?」

「薬草茶は試さないのかって? そうね、薬草茶も錬成焙煎してみましょうか」


 トラ丸に尋ねられて、水龍ちゃんは、薬草茶も錬成焙煎してみることにしました。


 その後、水龍ちゃんは、さまざまなハーブティーや薬草茶を錬成焙煎してみて味や風味の変化を確認してゆきました。微妙な感じのものが多かったようですが、水龍ちゃんもトラ丸もとても楽しそうでした。

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