第197話 本を読む

 商業ギルドで帳簿のチェックをしてもらった水龍ちゃんとトラ丸は、プリンちゃんとシュリさんと一緒にお昼ご飯を食べに出かけました。


 シュリさんがよく行くというお店で冷やしラーメンを食べてから、水龍ちゃんとトラ丸はプリンちゃんとシュリさんと別れて図書館へと向かいました。


 図書館は久しぶりな気がしますが、そうでもありません。水龍ちゃんは、お気に入りの本を読むためにちょくちょく図書館通いを続けているのです。


 水龍ちゃんとトラ丸は、いつものように受付のお姉さんに笑顔で挨拶をすると、たくさんの本棚の中から目的の本を探し始めました。


 水龍ちゃんは、数冊の本を取り出してきて読書エリアの一角に陣取ると、さっそく本を開いて読み始めました。


 トラ丸は、いつものように本と水龍ちゃんの間に入って、大人しく一緒に本を眺めています。


「へー、お茶の葉って、摘んだ後、発酵が進むらしいわね」


 水龍ちゃんが小声で呟くと、トラ丸は耳をピクリとさせて、首を捻って水龍ちゃんの顔を見上げますが、鳴き声を上げることはありません。トラ丸は、図書館では静かにするものだと知っているのです。


 水龍ちゃんが読んでいるのは、『お茶百科』というお茶について書かれた本です。お茶づくりについてもざっくりと書かれていたりして、水龍ちゃんは楽しそうにパラパラとページをめくっては、興味を惹かれたところを読んでゆきます。


「う~ん、発酵の度合いでウーロン茶になったり紅茶になったり、お茶づくりって奥が深そうね」


 お茶百科をざっくりと読み終えた水龍ちゃんは、小さく感想を呟きました。


 次に開いた本は、『身近な植物』という本で、いろいろな植物のことが書かれている図鑑のような本です。薬草の本ほど詳しいことは記されていませんが、身近な植物や食用に栽培される植物などが幅広く載っています。


 水龍ちゃんは、索引から白樺茶ノ木を探して該当するページを開きました。白樺茶ノ木は、古くから庶民の間で自家製のお茶として親しまれてきたと記されています。


 しかし、普通に大きく育つためお茶を摘むのがたいへんなこと、発酵が進まず紅茶にならないこと、そして、より美味しく加工できる低木の茶ノ木が普及したため商業用には使われないのだとあります。


「ふむふむ、白樺茶がお店で売っていない理由がわかったわ」


 水龍ちゃんは、小さく呟くと身近な植物の本を閉じました。


 最後に開いた本は、『奥深き焙煎ばいせんの秘密』というタイトルの本で、表紙には『焙煎によりコーヒーの味が飛躍的に変わる!』と謳われています。


 コーヒーの焙煎についてがメインなのですが、ほかにも麦茶などの穀物や豆類、そしてお茶についても焙煎が美味しさを引き立てると紹介されています。


 そして、錬成焙煎ばいせんについても記載がありました。


 錬成焙煎は、手間が掛かるため高額になりますが、ものによっては非常に風味や味わいが良くなるため、高級品として取引されていて、錬成焙煎専門の職人もいると書いてありました。


「なー」

「ん? もうそんな時間? 教えてくれてありがと、トラ丸」


 トラ丸の呼び声に、随分と時間が経っていたことに気付いた水龍ちゃんは、トラ丸にお礼を言って、本を片付けて図書館を後にしました。


「そういえば、本には書いてなかったけど、ハーブティーとか薬草茶は、錬成焙煎ばいせんで何か変わるのかしら?」

「なーなー」


「ん? ばばさまに聞いてみればって? そうね、ばばさまなら試したことがあるかもしれないわね」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、そんな話をしながらトコトコと歩いて帰りました。




「ただいまー」

「なー」

「「お帰りなさい、水龍ちゃん、トラ丸」」


 家に着くと、既に美発部のお姉さん達が集まって来ていて、笑顔で迎えてくれました。お姉さん達は、化粧水作りと料理を分担して行っていました。


 化粧水の売れ行きが好調なため、お姉さん達は美発部の活動時間を延ばして化粧水の生産を行うようになりました。必然的に帰りが遅くなり、晩ご飯は猫の手カップ会場の屋台グルメを購入して来ておばばさまの家で食べていたのです。


 そして、猫の手カップが終わって落ち着いてくると、外でテイクアウトを購入するよりも食材を購入してきておばばさまの家で料理を作る方がお得だという意見で一致し、今日から実践することになったのです。


「おいしそうな匂いね」

「なー」

「野菜たっぷりポトフとミニハンバーグを作っとるそうじゃ」

「うふふ、おばばさま特製のきんぴらごぼうも添えるわよ」


 水龍ちゃんとトラ丸が、料理の匂いに笑顔を見せると、おばばさまとお姉さんが今日の料理を教えてくれました。


 水龍ちゃんも手伝うと言いましたが、お姉さんから、今日は人が余ってるくらいだからと笑顔で休憩しているように言われてしまい、おばばさまとリビングでお茶を飲むことになりました。


「そうだ、ばばさま、ハーブティーとか薬草茶を錬成焙煎ばいせんしたら、おいしくなるのかしら?」

「ふむ、薬草を錬成焙煎したことはあるのじゃが、その時は、お茶にして飲むという発想はなかったのう」


 水龍ちゃんが問いかけると、おばばさまは、落ち着いたようすで昔のことを思い出すように言いました。


「お茶にしないのに錬成焙煎したの?」

「うむ、ポーションの質がよくならんかと思って試してみたのじゃ」


「あー、なるほど」

「じゃがのう、ポーション品質は変わらんかったのじゃよ」


 おばばさまは、薬草を錬成焙煎ばいせんしてみた理由と結果を教えてくれました。それから水龍ちゃんが図書館で調べたお茶やコーヒーなどの焙煎について話していると、食事が出来上がってきました。


「ポトフおいしいわね~♪」

「な~♪」

「うふふっ、たくさん野菜が入っていてヘルシーよね」

「ミニハンバーグも美味しいわよ」


 ポトフの美味しさに大満足の水龍ちゃんとトラ丸に、お姉さん達もほっこり笑顔で食事を楽しみます。


「今日のギルマス、荒れまくってたわね」

「裁判所の人が来てたみたいだけど、関係あるのかしら?」


 お姉さん達の話から、薬師ギルドマスターの機嫌が相当悪かったようです。そんな話も交えながら、楽しい食事の時間を過ごすのでした。

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