第195話 錬成焙煎

 初めて白樺茶を作った翌日、水龍ちゃんは、トラ丸と共にダンジョンへ入り、パパっと白樺茶ノ木の葉を摘んで帰宅しました。


「さぁ、錬成焙煎ばいせんで白樺茶づくりよ!」

「なー!」


 水龍ちゃんが台所に立ち、山盛りの白樺茶ノ木の葉を前にしてフンスと気合を入れると、トラ丸が楽し気に、がんばれー! と声援を送りました。


「ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪」

「なぅな~、なぅな~、なぅなぅな~♪」


 水龍ちゃんは、ボウルに魔法で水を張って鼻歌交じりに白樺茶ノ木の葉をバシャバシャと洗ってゆきます。トラ丸も楽し気に体を揺らしながら歌います。


 洗い終えた葉っぱは、一度ざるに取って水流操作で水気を落とし、綺麗なボウルに移してゆきました。


 すべての葉っぱを洗い終えた水龍ちゃんは、水洗い用のボウルを片付けて、洗い終わった白樺茶ノ木の葉を入れたボウルを持って、ポーション生産部屋へと場所を移しました。


 水龍ちゃんは、特大錬金釜へドバっと白樺茶ノ木の葉を入れました。バケツほどの大きな特大錬金釜の半分ほどが葉っぱで埋まりました。


「お茶の葉を錬成焙煎するわよ。ふふっ、どんなふうになるのか楽しみね」

「なー!」


 水龍ちゃんは、トラ丸の応援の中、魔導コンロのスイッチを入れて特大錬金釜を加熱すると、ミスリル製の掻き混ぜ棒に魔力を流して白樺茶ノ木の葉を掻き混ぜ始めました。


 錬金釜の中の白樺茶ノ木の葉っぱが、ぽわわと淡い光に包まれて、しばらくすると香ばしい香りが立ち込めてきました。


「うん、いい香りね。ここから3分ほど錬成焙煎ばいせんね。トラ丸、時計を見ていてちょうだい」

「なー!」


 水龍ちゃんが時計係を頼むと、トラ丸は、まかせてー! と元気良く答えました。


 そのまま掻き混ぜ続けてゆくと、白樺茶ノ木の葉っぱは、ぽわわと淡い光に包まれながら、ゆっくりと色を変えて徐々に丸まってゆきました。


「なー!」

「あら? もう3分経ったのね。ありがと、トラ丸」


 時計係のトラ丸が、じかんだよー! と知らせてくれたので、水龍ちゃんは、お礼を言って魔導コンロのスイッチを切りました。


 錬金釜の半分くらいあった白樺茶ノ木の葉っぱは、乾燥して縮んでしまい、元の3分の1くらいの量になってしまいました。


「ずいぶんと少なくなっちゃったわね」

「なー」


 水龍ちゃんが、錬金釜の中をのぞいて呟くと、トラ丸も専用椅子の上から覗き込んで、そだねー、と相槌を打ちました。


 水龍ちゃんは、用意しておいた大きな布をテーブルの上へ広げると、錬金釜を持ち上げて中身を布の上へざざっとのせました。そして、粗熱が取れたころあいをみて、布に包んだ白樺茶ノ木の葉っぱを揉みほぐしてゆきます。


「うん、こんなものかしら」

「なー」


 水龍ちゃんは、揉みほぐした白樺茶の木の葉っぱを再び特大錬金釜へと戻すと、2度目の錬成焙煎を始めます。


「ふふふん、ふふふん、ふふふのふん♪」

「なぅな~、なぅな~、なぅなぅな~♪」


 水龍ちゃんが鼻歌を歌い出すと、トラ丸も一緒に歌い出しました。水龍ちゃんは、もう錬成焙煎ばいせんに慣れてしまったようです。


 2度目、3度目と錬成焙煎と揉みほぐしを行い、最後にもう一度、錬成焙煎をしてお茶づくりは完了です。


「完成したわ。どんな違いが出ているのか、楽しみね」

「なー」


 完成したお茶っぱをテーブルに広げた大きな布の上にのせて冷ましている間に、水龍ちゃんは後片付けをしました。


 ほどよく冷えたお茶っぱを空いた薬草保管用の缶に入れて日付と錬成焙煎白樺茶と書いたラベルを張り付けて、大きな布をたためばすべて完了です。


「さっそく、飲んでみましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんは、掃除をしていたおばばさまをお茶に誘って台所へ向かうと、お湯を沸かしてテキパキとお茶を入れました。湯呑が3つあるのは、マーサさんの分も入れたからです。もちろんトラ丸の分は、専用の小さなお椀に入れました。


 お茶菓子のかりんとうを盛ったお皿と一緒に、お茶をトレーにのせてリビングへ運ぶと、ちょうどマーサさんがリビングへ入ってきました。マーサさんは、研究室でエンジェルパック作りをしていて、おばばさまが声を掛けてくれたのです。


 ちなみに、研究室とは、マーサさんのフェイスパック開発研究時から少しずつ整備してきたマーサさん専用の調合室で、今ではポーション錬成に必要な設備がほぼほぼそろっています。


「んまぁ♡ いい香りねん♡」

「白樺茶ノ木の葉を錬成焙煎ばいせんしてみたの」


 マーサさんが、とっても嬉しそうに声を上げると、水龍ちゃんが、軽く説明しながらお茶を配ります。


「うむ、より香りが引き立っておるようじゃの」

「そうなのよ。どんな味になったか楽しみだわ」


 おばばさまが、湯呑を持って微笑みながら香りの感想を述べると、水龍ちゃんは、嬉しそうに話しながらテーブルにかりんとうのお皿を置きました。


 そして、どこか示し合わせたかのように、皆一斉にお茶へ口を付けました。


「ほほう」

「んまぁ♡」

「な~♪」

「うん!」


 おばばさま、マーサさん、トラ丸、水龍ちゃんが、それぞれ感嘆の声を漏らしました。


「甘みとまろやかさが増しておるようじゃな」

「美味しいわぁん♡」

「なー!」


 おばばさまとマーサさんが、微笑みながら感想を述べて、トラ丸は、喜びの声を上げました。


「こんなにも違いが出るものなのね!」


 そして、水龍ちゃんは、嬉しそうに錬成焙煎ばいせんの効果を実感するのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る