第194話 白樺茶

 ダンジョンで作ったヒールポーションを商業ギルドへ納品して帰宅した水龍ちゃんとトラ丸は、おばばさまと一緒にリビングでハーブティーを嗜んでいました。


「でね、お茶を作ってみようと思って、白樺茶ノ木の葉を摘んできたの」


 水龍ちゃんは、ほっこりとハーブティーを飲みながら、おばばさまにお茶づくりをしてみるのだと意気込みます。


「白樺茶とは懐かしいのう。昔は、よく作って飲んでおったものじゃ」

「そうなの? ばばさま、詳しい作り方を教えて!」


「田舎の雑な作り方なのじゃが、それで良いかの?」

「もちろんよ! ふふっ、楽しくなりそうだわ」

「なー!」


 昔を懐かしむおばばさまに頼んで、水龍ちゃんは、白樺茶づくりの手ほどきを受けることになりました。


 さっそく、水龍ちゃんは、おばばさまと一緒に台所で白樺茶づくりを始めます。


 おばばさまの指示で、まずは、採って来た白樺茶ノ木の葉を水洗いして、水気は拭き取らずにそのまま片手鍋へと入れました。


「葉っぱが水浸しだけど、いいのかしら?」

「田舎の茶づくりでは、そんなもんじゃよ。さぁ、魔導コンロで加熱じゃ」


 水龍ちゃんの疑問の声に、おばばさまは微笑みながら答えると、次の作業を促しました。


 水龍ちゃんは、魔導コンロのスイッチを入れて温度調節つまみを回しました。熱量は、おばばさまの指示で中程度です。


 水龍ちゃんは、加熱しながら木べらで白樺茶ノ木の葉を混ぜていると、水気が飛んだところでおばばさまから指示があり、魔導コンロの熱量を弱めました。


「そのまま、焦がさないように乾煎りをするのじゃ」

「ふんふん、どれくらい乾煎りするの?」


「香ばしい香りが出てくるからのう。それから3分くらい乾煎りを続けるのじゃ」

「わかったわ」


 おばばさまに見守られながら、水龍ちゃんが白樺茶ノ木の葉を乾煎りしていると、ほんのり香ばしい香りがしてきました。


「なんか、いい香りがしてきたわ」

「うむ、そのまま焦がさないように気を付けながら、3分ほど続けるのじゃぞ」

「なー」


 水龍ちゃんが、嬉しそうに香りについて述べると、おばばさまは、注意を促しつつ再び乾煎り時間を述べました。すると、トラ丸が、まかせてー、と台所の時計を見上げながら声を上げました。


 水龍ちゃんは、乾煎りする白樺茶ノ木の葉を焦がさないように真剣に木べらで混ぜ続けます。


「なー!」

「うむ、そろそろいいじゃろう。加熱を止めるのじゃ」


 トラ丸とおばばさまの声で、水龍ちゃんは、魔導コンロのスイッチを切りました。


「ふぅ、こんな感じになるのね」

「なー」

「お疲れさまじゃのう。粗熱が取れるまで少し待つのじゃ」


 水龍ちゃんが、まじまじと乾煎りした白樺茶ノ木の葉を眺めて感想を述べると、トラ丸とおばばさまが労いの声を掛けてくれました。


「うふふっ、どんな味のお茶になるのかしら? 楽しみね」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸が、乾煎りされて丸くなった白樺茶ノ木の葉を眺めながら話していると、おばばさまが真っ白な布を持ってきました。


「この布の上に、乾煎りした茶葉をのせるのじゃ」

「分かったわ」


 おばばさまが持ってきた綺麗な布の上に、水龍ちゃんは、乾煎りした茶葉をのせました。


「粗熱が取れたところで、こうして、茶葉を軽く揉みほぐすのじゃ」


 おばばさまは、茶葉を布に包んで持ち上げると、布の上から手で揉みほぐしてみせてから、水龍ちゃんに布ごと手渡しました。


「こんな感じかしら?」

「うむ、いい感じじゃ。こうすると、お茶の成分が溶け出しやすくなるのじゃよ」


 水龍ちゃんが揉みほぐし加減を探っていると、おばばさまは、そんなものだとアドバイスをして揉みほぐす理由を話してくれました。


「なるほど、おもしろいわね」

「適度に揉んだら、再び乾煎りして揉みほぐすのを3度ほど繰り返すのじゃ」


 水龍ちゃんが、なるほどと頷きながら揉みほぐし作業を続けると、おばばさまが3度繰り返すのだと告げました。


 水龍ちゃんは、おばばさまとトラ丸に見守られながら、乾煎りと揉みほぐしを3度繰り返しました。


「うむ、最後にもう一度、乾煎りをして冷ませば、わしが昔作っておった白樺茶の出来上がりじゃ」

「よーし、最後の仕上げ、頑張るわ!」

「なー!」


 おばばさまに、最後の作業だと聞いて、水龍ちゃんは、フンスとやる気を漲らせます。トラ丸も、がんばれー! と応援してくれました。


 水龍ちゃんは、真剣な顔つきで3分間の乾煎りを行うと、魔導コンロを切り、やり切った感の溢れる清々しい笑顔を見せました。


「あとは、冷めるまで待つだけね」

「なー」

「すぐに冷めるじゃろうから、お茶を入れる用意をしておこうかの」


 にっこり笑顔の水龍ちゃんに、トラ丸が、おつかれー、と声を上げると、おばばさまが、お茶の準備を始めました。水龍ちゃんは、パパっと後片付けをして、おばばさまのお手伝いです。


「おいしい~♪」

「な~♪」


 水龍ちゃんが、初めて作った白樺茶を飲んで感嘆の声を上げると、トラ丸も嬉しそうに声を上げます。そんな姿に、おばばさまは微笑みながら白樺茶を口にします。


「さて、お茶づくりについてじゃが、1つ良いことを教えてやろうかの」

「ん? なぁに?」

「ぅな?」


 おばばさまは、お茶づくりに関して何か教えてくれるようです。水龍ちゃんとトラ丸は、興味深げに注目します。


「普通の鍋ではなく、錬金釜を使って魔力を込めながら、じっくり乾煎りして作ると風味が良くなるのじゃよ」

「そうなのね」


「うむ、錬金焙煎ばいせんもしくは錬成焙煎ばいせんと言ってのう、高級茶として売り出されているのじゃ」

「この白樺茶も、もっとおいしくなるのかしら?」


「どうかのう。一度、試してみてはどうじゃ?」

「そうね。おいしくなるのなら、試してみたいわね」


 おばばさまから錬成焙煎の話を聞いて、水龍ちゃんは、興味津々に試してみようと決意するのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る