第八章 水龍ちゃんのお茶づくり

1.水龍ちゃん、白樺茶を作ってみる

第193話 報告会

 猫の手カップが終わった翌朝、水龍ちゃんとトラ丸が、特設会場が設営されていたハンターギルドの訓練場を訪れると、ハンターギルド職員達や商業ギルド職員達、商人達により特設ブースや屋台の片付けが行われていました。


 一方、訓練場の隅っこには、酔いつぶれたハンター達が死屍累々とした様相で寝転がっていました。おそらく、徹夜で飲んでいたと思われます。


 特設ブースの解体現場で指揮を取っているアーニャさんの姿を見つけて、水龍ちゃんとトラ丸は、彼女の下へと向かいました。


「アーニャさん、おはようございます」

「なー!」

「おはよう、水龍ちゃん、トラ丸」


 水龍ちゃんとトラ丸が元気に挨拶をすると、アーニャさんは、にっこり笑顔で挨拶を返してくれました。


「後片付け、私も手伝います」

「なー!」

「ふふっ、ありがとう。だけど、そろそろ時間だから会議室に行きましょうか。報告会が始まってしまうわ」


 水龍ちゃんとトラ丸が手伝いを申し出ましたが、アーニャさんは、時間だからと会議室へ向かおうと言いました。


 今日は、ハンターギルドで猫の手カップの報告会があるのです。昨日終わったばかりなので、大まかにイベントを総括するような打ち合わせになるそうです。記憶が新しいうちに、反省点や改善点などを洗い出したいということなのでしょう。


 アーニャさんに連れられて、水龍ちゃんとトラ丸が会議室へ入ると、ハンターギルドマスターやイベント運営の指揮を取っていた職員達が集まっていました。


 水龍ちゃんとトラ丸が、みんなと陽気に挨拶を交わしていると、会議室のドアが勢いよくバーンと開け放たれました。


「あたしが商業ギルドのギルドマスター、プリンだー!」


 プリンちゃんは、楽しそうに大声で名乗りを上げて入って来ると、水龍ちゃんの隣の席にドカッと座りました。


 ハンターギルドマスターは苦笑いでしたが、しばらく雑談の後に皆がそろったことを確認すると、報告会が始まりました。


 まず、猫の手カップの一番の目的であるレア素材の納品状況の報告がありました。なんと、想定の2倍を超える納品があったとのことです。これで、滞り気味だったレア素材の流通が一気に解消し、当面は在庫に困らないだろうとの報告に、ハンターギルド職員達は笑顔をみせました。


 次に、猫の手カップ運営の収支報告がありました。詳細は一部集計途中だということですが、美発部および猫の手グッズ販売業務へのスタッフ派遣収入や投票券販売の収益が好調であり、経費を差し引いても大幅な黒字見込みとの報告に、ハンターギルド職員達は、皆嬉しそうに満面の笑みをみせるのでした。


 プリンちゃんからは、各種屋台の売り上げが上々で、商人達もほくほく顔だったと報告があり、次回のイベントでは初日から積極的に参加したいという声が多数寄せられているとのことでした。


 その後、ハントラリーが好評だったことや、一般の人々との交流によってハンターギルドの評判が向上しているようだといった話があった一方で、普段とは違った業務に戸惑う場面があったことや、交代での休憩時間が上手く取れなかった場面があったなど業務の改善点も多々上げられました。


「それで、次回は、いつ頃開催するのだー?」

「えっ? いや、まだ何とも……」


 報告会もそろそろ終わりという雰囲気になったころ、プリンちゃんが唐突に問いかけると、ハンターギルドマスターが意表を突かれたようすで言葉を濁しました。さすがに昨日の今日で次回の話が出るとは思ってもみなかったのでしょう。


「レア素材の売れ行き次第で第2回猫の手カップを開催してもいいと思うけれど、あまり頻繁にやっても飽きられちゃうだろうし、難しいところよね」

「そうだなー! 年に1回か2回が妥当かもなー!」


 アーニャさんが、ハンターギルドマスターをフォローするかのように発言すると、プリンちゃんが、陽気に適当な落としどころを示すのでした。


 そんな感じで報告会が終わった頃には、イベント会場の後片付けはすっかり終わっていました。




 水龍ちゃんとトラ丸は、一度、帰宅してからヒールポーションを作りにダンジョンへ行くことにしました。まだ、午前中なので、余裕で帰ってくることができます。


「いってきまーす」

「なー!」

「いってらっしゃ~い♡」


 大きな特製バックパックを背負った水龍ちゃんは、トラ丸と一緒にマーサさんに見送られてダンジョンへと向かいました。


 ちなみに、マーサさんは、午前中をおばばさまの家でエンジェルパックの生産をして、午後から中央病院へ働きに出る生活をしていて、病院の寮住まいです。しかし、発売したエンジェルパックの売り上げが右肩上がりなため、近いうちに病院を辞めることを見越して引っ越しを考えているそうです。


 ダンジョンへ入った水龍ちゃんは、1階層にある白樺茶ノ木の前で立ち止まりました。


「なー?」

「白樺茶ノ木のお茶って飲んだことないのよね……」


 どうしたのー? と可愛らしく小首を傾げるトラ丸に、水龍ちゃんは、考えていたことを話しました。


「なー」

「簡単に作れるらしいから、帰りに摘んで帰ろうかしら」


 そうなんだー、と言うトラ丸の声に、水龍ちゃんは、白樺茶ノ木の葉を見上げながら考えを述べると、トラ丸を連れてダンジョン奥へと向かうのでした。

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