第189話 地底湖

 ハントラリー番外編の素材を採取するため、とある洞窟に入った水龍ちゃんとトラ丸ですが、トラ丸が、水場の上を歩いて奥へ奥へと進んで行ってしまい、水龍ちゃんも後を追って行きました。


 パシャパシャと水の上を歩き、くねくね曲がった細い洞窟を抜けると、大きな空洞へ出ました。


「なー!」

「トラ丸ぅ? って、大きな地底湖ね」


 嬉しそうなトラ丸の声に、追い付いてきた水龍ちゃんが、目の前に広がる地底湖に思わず目をぱちくりさせました。真っ暗なのに、地底湖の大きさが分かるところはさすがです。


「緩やかだけど、水の流れもあるし、澄んだ水ねぇ。はっ!? これだけ綺麗な水ならひょっとして……」


 水龍ちゃんは、地底湖の上を歩きながら水のようすを呟くと、突如はっとして、水の中をきょろきょろと探るように見つめます。ちなみに、真っ暗なので、きょろきょろするのに意味があるのかは不明です……。


「す、すごいわ! この地底湖、水くらげ草の宝庫だわ!」

「なー!」


 水龍ちゃんは少し驚いた顔で呟くと、嬉しそうな笑顔を見せてパシャパシャと地底湖の上を駆け回り始めました。トラ丸も水龍ちゃんのようすに気付いて楽しそうにパシャパシャと後を追いかけます。


「うふふっ、これだけあれば、美肌ポーションが足りなくなることはないわね」

「なー!」


 水龍ちゃんとトラ丸は、しばしの間、真っ暗な地底湖の上を楽しく踊るように駆け回るのでした。


 その後、水龍ちゃんは、トラ丸と一緒に地底湖のようすを調べてから洞窟を出て、ハントラリー番外編の続きの素材を採取に向かいました。


 そして、いくつか新しい素材を採取してハンターギルドへと戻ることにしました。





 水龍ちゃんとトラ丸は、ハンターギルドに戻ると、採集した素材を納品してハントラリー番外編の紙にスタンプを押してもらいました。


「お腹がすいちゃったわね。何か食べよっか」

「なー!」


 水龍ちゃんの提案に、トラ丸は、たべるー! と元気に答えます。素材採取の合間に屋台で買っておいたおにぎりなどを食べたのですが、屋台の美味しそうな匂いには勝てません。


 さっそくドーナツとお茶を買って、水龍ちゃんとトラ丸はフードコートで一息つきます。もちろんドーナツの屋台でグルメラリーのスタンプを押してもらうのは忘れません。


「ドーナツ、おいしいわね~♪」

「な~♪」


 水龍ちゃんとトラ丸は、空いた小腹をドーナツで埋めて満足すると、マーサさんのようすを見に美発部のブースへと向かいました。


「あ、ばばさまが来てるわ。プリンちゃんもいる。なんか楽しそうね」

「なー」


 美発ブースの前には、おばばさまとプリンちゃんが立っていて、マーサさんを含めて何やら話をしていました。


「おー! 水龍ちゃん、ちょうど良いところに来たのだー!」

「ん? 私?」

「なー?」


 プリンちゃんが、水龍ちゃんに気付いて声を掛けてきましたが、ちょうど良いと言われた水龍ちゃんとトラ丸は、頭にはてなを浮かべました。


「天使ちゃん!♡ 美肌ポーションの在庫はまだあるかしらん!!♡」


 続いて、マーサさんが、出てきて必死の形相で尋ねてきました。


「ん? 家にあると思うわよ?」

「ありったけ売ってちょうだい!!♡」


 水龍ちゃんが、頭にはてなを浮かべたまま答えると、マーサさんは、必死過ぎてちょっと怖いくらいの顔つきで迫ってきました。


 そこへ、おばばさまが、どこから取り出したのか、特大ハリセンを握りしめ、マーサさんの背後から素早く振り回しました。


 スパーン!!!

「ほげぇ!!♡」


 特大ハリセンは、マーサさんの側頭部へと吸い込まれるように命中し、良い音が響き渡りました。


「落ち着かんか、マサゴロウ」

「いやん♡ 本名で呼ぶのはやめて欲しいわ、お師匠様ぁん♡」


 おばばさまにハリセンでしばかれて、少し落ち着きを取り戻したマーサさんが、ぶたれた側頭部をさすりながら、困った顔をみせました。


「えーっと、何かあったの?」

「それがなー! ――」


 水龍ちゃんが、目の前の光景に少し戸惑いながら尋ねると、プリンちゃんが説明してくれました。


 プリンちゃんの話によると、本日発売したエンジェルパックが予想以上に好評で、用意していた分が売り切れてしまったそうです。さらには、予約もどんどん増えている状況だといい、マーサさんは、すぐにでも生産量を増やしたいと焦っているのだそうです。


「なるほど。それで? エンジェルパックは、毎日どれくらい作るの?」

「それは、もう、たくさんよん♡ 売れるだけ作らなくちゃだわん♡」


 水龍ちゃんの問いかけに、マーサさんは笑顔で答えてくれましたが、具体的な量を聞きたかった水龍ちゃんは苦笑いです。


「こういうところは、相変わらずポンコツじゃな」

「お師匠様ったら、酷いわん♡」


 おばばさまが、ため息交じりに呟くと、マーサさんが、涙目で抗議の声を上げました。


「素材の在庫確認も必要だしなー! 今からおばばの家へ行って対策会議だなー!」

「あらん♡ 私は接客があるから行けないわよん♡」


 プリンちゃんの提案に、マーサさん本人は、あっけらかんと参加できないと言い出しました。水龍ちゃんは苦笑いで、おばばさまは呆れ顔です。


「そこはミランダとスタッフに任せるのだー!」

「ダメよん♡ 発売初日に来てくれた大事なお客様なんだから、私が直々に接客しなくちゃねん♡」


「いいから来るのだー!」

「痛い!♡ 痛いわぁん!♡」


 プリンちゃんは、言うことを聞かないマーサさんの耳をつまんで引っ張ると、痛いと泣き叫ぶマーサさんを引きずるようにして、強制的に連れて行くのでした。

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