第188話 ハントラリー番外編

 プリンちゃんとの朝食を楽しんだ後、水龍ちゃんとトラ丸は、ダンジョンへとやって来ました。


「今日は、この階層ね。ついでに新たな水くらげ草の群生地を発見できると嬉しいわね」

「なー!」


 やって来たのは、いつも美肌ポーションを作っている水くらげ草の泉のある階層ですが、今日は普通サイズのバックパックを背負って、ハントラリー番外編の素材を採りにきたのです。


 ハントラリー番外編は、各ランクのハントラリーをすべてコンプリートしてしまった水龍ちゃんのためにと、ハンターギルドマスターが、アーニャさんへこっそり編集するよう指示を出して作られたものなのです。


 番外編の素材達は、ハントラリー作成時に各ランクのハントラリー対象素材の選考から惜しくも漏れて、お蔵入りとなってしまった素材達を丸っと集めたものです。


 難易度的には初心者向けから上級者向けまで幅広くそろっていて、何枚もの紙に分けて書かれるくらいの数があります。


 あくまで番外編なので、残念ながらコンプリートしても猫の手饅頭も猫の手焼きも貰えないのですが、水龍ちゃんとトラ丸は楽しく採取して回っているのです。


「まずは、天狗カエデの実ね。うちわに出来るくらいの大きな葉が付くそうよ。もう少し山の上の方にあるみたい。行ってみましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんは、ハントラリー番外編の1枚に書かれた素材情報を読んで、天狗カエデの木を探しに山を登り始めました。探索好きなトラ丸は、嬉しそうに木々の間を駆け回っていてとても楽しそうです。


 木々の生い茂る山道を登って行くと、やがて水龍ちゃんの顔よりも大きなカエデの葉をつけた木々を見つけました。


「うん、天狗カエデの木だわ。この木の上の方に瓢箪みたいな実がなるそうよ」

「なー!」


 水龍ちゃんが、手にしたハントラリー番外編の紙を手に、天狗カエデの木を仰ぎ見ながら呟くと、トラ丸が、まかせてー! と元気よく天狗カエデの木をスルスルと登って行きました。


「ふふっ、トラ丸は元気ねぇ」


 そう言いながら、水龍ちゃんは、天狗カエデの枝から枝へと、ひょいひょいっと飛び移りながら登って行きます。


 天狗カエデの木の天辺付近まで登った水龍ちゃんとトラ丸は、子猫のトラ丸くらいの大きさの瓢箪みたいな実を見つけました。


「これが、天狗カエデの実ね。熟す前の黄緑色の実が素材になるそうよ」

「なー?」


 水龍ちゃんが、ハントラリー番外編で知りえた知識を披露すると、トラ丸が、そうなのー? と小首を傾げて天狗カエデの実を見つめます。


 瓢箪形の実は、緑色から黄緑色、黄色、橙色、赤色までと色鮮やかなものが揃っていて、なんだか不思議な感じがします。


 水龍ちゃんは、ナイフで黄緑色の実を切り取ると、バックパックへ入れて採取完了です。


「うーんと……。次は洞窟の中だって。その洞窟は……、あった。あの大岩の近くに大きな洞窟があるようね。行ってみましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんが、ハントラリー番外編の紙に書かれた情報から、次なる素材があるという洞窟の方角を木の上から確認すると、トラ丸が、わーい、と元気な声を上げました。


 水龍ちゃんとトラ丸は、ひょいひょいと枝から枝へ飛び降りて行き、あっという間に木から降りると、目印となる大岩を目指して駆け出しました。


 しばらく行くと、目印の大岩が乗っかる小山が見えてきました。大岩は半分が黒色をしていて、その黒色側の小山のふもとに大きな洞窟があるとハントラリー番外編には書いてありました。


「洞窟、洞窟っと……。あ、あそこじゃないかしら」

「なー!」


 どうやら水龍ちゃんが、洞窟らしき場所を発見し、トラ丸と共に元気に駆けて行きました。


 大きく開かれた洞窟は半ドーム状の空間が広がっていて、奥に人が通れる程度の小さな洞窟が続いていました。


「この奥に鍾乳茸っていうきのこが生えているそうよ。行ってみましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんの言葉に、トラ丸は元気に先陣を切って洞窟へと入って行きました。


 トラ丸を先頭に、水龍ちゃん達は、真っ暗な洞窟の中をトコトコと奥へ向かって歩みを進めます。


 普通なら明かりが欲しいところですが、水龍ちゃんもトラ丸も全く問題がないようです。足元を取られる様子もなくトコトコと歩いて行きます。


 夜目が効くというか、なんというか、とにかく真っ暗闇でも辺りのようすが分かるようです。


 しばらく進むと大きな空洞に出ました。真っ暗ですが、大きな鍾乳洞の空間で、ひんやりとしていて奥の方には水場もあり、どこか神秘的な感じがする場所です。


「なー!」


 トラ丸は、広い空間に、わーい! とテンション高く駆け出しました。足元は湿っていて滑りやすいのですが、お構いなしに駆け回ります。


「ふふっ、トラ丸ったらはしゃいじゃって。さて、ここの岩肌に鍾乳茸が生えているらしいわね」


 水龍ちゃんは、トラ丸のようすに笑みを浮かべると、目的の素材を採取すべく辺りを探し始めました。


 水龍ちゃんは、鍾乳石のところどころにちょこんと生えている小さなきのこたちを見つけると、なるべく大きめのものを採取しました。


「鍾乳石に生えるきのこだから鍾乳茸なのね」


 水龍ちゃんは、小さな鍾乳茸を手にのせて呟きました。なんで鍾乳石に生えるかなぁとも思いますが、鍾乳茸にとっては居心地が良いのでしょう。


「なー!」

「ん? トラ丸? どこ行くの?」


 トラ丸の呼び声に、水龍ちゃんはトラ丸の方へと向かいます。


 トラ丸は、奥の水場の上を歩いてさらに奥へと向かっていました。鍾乳石の岩陰に隠れるように細い洞窟が続いていて、水龍ちゃんは、パシャパシャと水の上を歩きながらトラ丸の後を追いかけるのでした。

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