第187話 エンジェルパック発売

 楽しい猫の手カップもおよそ半分の日程が過ぎたころのことです。


「今日は、エンジェルパックの発売日ね。マーサお姉さんが、とっても張り切っていたし、たくさん売れるといいわね」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、そんな話をしながらハンターギルドの訓練場に設けられた猫の手カップ特設会場へと向かいます。


 マーサさんが開発したエンジェルパックがようやく発売となり、今日から美発部のブースで売り出すのです。


 昨日、マーサさんは、何とか猫の手カップ開催中に間に合ったと言って、今日は病院の仕事を休んで自ら売り出すのだと鼻息荒く語っていました。


 水龍ちゃんとトラ丸が、特設会場の美発部ブースへ向かうと、そこでは真っ赤なフリフリの勝負服?を着用したマーサさんが、大きな身振り手振りでお客さんの相手をしていました。


「マーサお姉さん、頑張ってるようね」

「なー」


 生き生きとしたマーサさんのようすを見ながら、水龍ちゃんとトラ丸は、マーサさんの下へとトコトコと近づいて行きました。


「まぁ♡ 天使ちゃんにトラ丸ちゃん♡ 来てくれたのねん♡ 嬉しいわぁん♡」

「おはようございまーす。エンジェルパックの売れ行きはどうですか?」

「なー」


 マーサさんが、水龍ちゃんたちに気付いて嬉しそうに声を掛けてくると、水龍ちゃんとトラ丸は、マーサさんを含め、売り場のみんなに向けて挨拶をして、さっそくエンジェルパックについて尋ねました。


「今のところは順調よん♡ 開店からずっと、お客様が興味を示してくれてるわん♡ これも猫の手ブランドのおかげねん♡」

「ドロくさパックを作っていたマーサお姉さんの名前も影響していると思うわ」


 マーサさんの快い言葉に、水龍ちゃんも快く返します。


「あらん♡ 嬉しいこと言ってくれるわねん♡ でも、猫の手シールを見て興味を持ってくれる女性達も多いわよん♡ ほんと、猫の手シールを貼って良かったわん♡」

「なー」


 マーサさんが、とても嬉しそうに猫の手シールの話をすると、いつの間にやらカウンターの上に乗っていたトラ丸が、ここぞとばかりにドヤ顔で鳴きました。


 そこへプリンちゃんが現れました。


「おはよー! マーサのフェイスパックもようやく発売だなー!」

「んまっ♡ プリンちゃんも来てくれたのねん♡ 感謝するわぁん♡」


「じゃんじゃん売って、早く借金を減らすのだー!」

「もちろんよん♡ 次の商品開発も始めてるから、期待しててねん♡」


 プリンちゃんに借金返済を催促?されるも、マーサさんは動じることもなく、自信満々に答えます。


 マーサさんは、商業ギルドにかなりの額の借金があり、美肌ポーションを使ったフェイスパックを開発、販売することで返済することになっていたので、これでようやく借金返済に向けて1歩を踏み出したことになります。


 そして、早くも次の商品開発に着手しているようで、最近のマーサさんは、いつにも増して生き生きしているように感じます。




 仕事をお休みにして朝から来ていた水龍ちゃんとトラ丸は、マーサさんたちへ挨拶を済ませると、朝食にグルメラリーを始めることにしました。プリンちゃんも朝食はまだだというので、仲良く一緒に食べることにしました。


「グルメラリーも種類が増えたわね」

「全部で12種類だなー! 商人達が、次から次と、いろんな組み合わせを提案してくるからなー! 特定の屋台に偏らないように選定するも大変なのだー!」


 12と大きく番号の書かれたピンク色のグルメラリー用紙を手に、水龍ちゃんとプリンちゃんが楽しそうに話します。


「さすが商人達ね。だけど、管理するのが大変そうだわ」

「ふはははははー! そこは、商人達の得意とするところだから問題ないのだー!」


 水龍ちゃんの心配も杞憂のようで、プリンちゃんは、商人達の管理能力の高さをどこか誇らしげに語りました。


 水龍ちゃんもプリンちゃんも慣れたようすで、目当ての屋台でグルメラリーの対象グルメを購入すると、先日商人達が共同で用意したトレーに乗せて次の屋台へ向かいます。商人達もトレーがあると便利だと気づいたのでしょう。


 2人は、屋台の位置も把握していて迷うことなく次々とグルメを購入すると、整備されたフードコートの空きテーブルへと陣取りました。


「「いただきます」なのだー!」

「なー!」


 さっそくみんなでいただきますをして食べ始めました。


 水龍ちゃんのトレーには、照り焼きチキンのバゲットサンド、フィッシュフライ、具沢山スープカレー、野菜サラダ、ポテトフライ、お茶がのっています。


 プリンちゃんのトレーは、厚切りハム玉のバゲットサンド、イカフライ、具沢山スープカレー、野菜サラダ、ポテトフライ、ウーロン茶です。


 もちろん、トラ丸は、2人からいろいろ分けてもらってご機嫌です。


「昨日、はた迷惑な薬師ギルドの者が来たんだってなー!」

「うん、それがね、――」


 プリンちゃんが、昨日の事件?の話題を出すと、水龍ちゃんは、その時のことを話して聞かせました。


「なるほどなー! 断って正解だぞー! あいつら何か企んでそうだしなー!」

「そうね。また高額請求されたら大変だわ」


「商業ギルドはいつでも相談にのるからなー!」

「ありがとう、助かるわ」


 プリンちゃんの言葉に、水龍ちゃんは、笑顔でお礼を述べました。


 そのあと、猫の手カップやマーサさんの話をしながら、水龍ちゃんとプリンちゃんとトラ丸は、楽しく朝食を食べるのでした。

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