第183話 イベント会場移転

 猫の手カップ3日目。


 水龍ちゃんは、ヒールポーション作りをお休みにして、トラ丸と一緒に朝からハンターギルドを訪れました。


「あれ? 特設ブースも屋台も無くなってる……」

「ぅな?」


 ハンターギルドの1階に昨日まであった猫の手カップ関連のものが無くなっていました。


 そして、猫の手カップ特設ブースのあった場所には看板が立てられていて『猫の手カップ特設会場変更のお知らせ』と書かれた移転先を示す簡易地図付きの張り紙が貼られていました。


「あー、ギルドの訓練場へ移動したんだ」

「なー」


「そういえば、屋台が増えるけど場所が無いって言ってたもんね」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、お知らせの張り紙を見て移転したことを知ると、新たに設けられた特設会場へと向かいました。


 新たに特設会場となったハンターギルドの訓練場には、昨日の倍ほどの屋台が立ち並んでいて、多くの人々で賑わっていました。


「なんか、すごいわねぇ」

「なー!」


 特設会場のようすに驚く水龍ちゃんの肩の上では、トラ丸が、瞳をキラキラ輝かせて喜んでいます。


 水龍ちゃんとトラ丸は、さまざまな屋台を見ながら訓練場の中央に設けられた猫の手カップ特設ブースへと向かいました。


 特設会場内を行きかう人々は、ハンターばかりではなく一般の人達も多いです。子供やお年寄りの姿もあり、老若男女問わずに楽しんでいるようす。


「アーニャさん、おはようございます」

「なー!」

「おはよう、水龍ちゃん、トラ丸」


 水龍ちゃんとトラ丸は、アーニャさんを見つけると、陽気に挨拶を交わしました。


「たくさん屋台が増えましたね」

「そうなのよ。昨日の夜に、急遽会場の移設を始めちゃって、どうなることかと思ったんだけど、商業ギルドの職員達を筆頭に商人達がノリノリでね、人海戦術で特設ブースを移設して、次々と屋台を建ててしまったわ」


 水龍ちゃんが屋台のことを話題に出すと、アーニャさんが、頬に手を当てて移設した時のようすを聞かせてくれました。なんだか、プリンちゃんがノリノリで商人達の陣頭指揮を取っている姿が目に浮かんできます。


「それに、ハンター以外の人達も呼び込もうって言いだしてね。まぁ、それはいいんだけど、昨日の今日だというのに、もう一般の人達が、かなり来ているのよ? いったいどうなっているのかしら……」


 アーニャさんは、一夜にして街の人達がこれほど集まってきたことを不思議そうに話してくれました。


 もともと、ハンター以外の街の人が来てくれても構わなかったのですが、ハンターギルド側は街の人達へ向けての宣伝はしておらず、昨日までは一般の人はほとんど見かけなかったのです。


 アーニャさんも、商人達の仕業だとは思っているのでしょうが、どんな手を使えばこうなるのか不思議なようです。


「ノリノリのプリンちゃんが見えるわ……」

「あー……」


 水龍ちゃんが呟くと、アーニャさんが、プリンちゃんの姿を想像したようで、遠い目をして声を漏らしました。


 そして、噂をすればなんとやら。プリンちゃんが現れました。


「水龍ちゃんに商談だぞー!」

「えっ? 私に?」


 挨拶もそこそこに、プリンちゃんが商談話だと切り出してきて、水龍ちゃんは、目をぱちくりさせて驚きの声を漏らしました。


「商人達はなー! 新しい猫の手グッズを作って販売したいと言ってるのだー!」

「えっ? 今から? 間に合うの?」


「猫の手シールを貼り付けて売るって言ってるけどなー! どうするかは水龍ちゃん次第だぞー!」

「あー、そういうことか」


 プリンちゃんの説明を聞いて、水龍ちゃんも商人達の考えを理解したようです。


「とりあえず、候補の商品を集めてあるから見てみるのだー!」

「既に流れが出来ているのね……」


 プリンちゃんから既に対象商品を集めてあると聞いて、その段取りの良さに水龍ちゃんは苦笑いです。


 そして、プリンちゃんに連れられて、水龍ちゃんとトラ丸はハンターギルドの会議室へと入りました。


 会議室には多くの商品が集まっていて、シュリさんとミリアさんがリストを手に整然と管理していました。


「なんか、食べ物が多いわね……」

「ふははははははー! 新しく商品を作る時間はないからなー! 手っ取り早く既存の商品に猫の手シールを貼り付けて売ろうってことだなー!」


 水龍ちゃんの言うとおり、お菓子などの食品類が多く集まっていて、プリンちゃんが商人達の考えを代弁してくれました。


 さらに、シュリさんとミリアさんが作ってくれたリストには、粗悪な商品に注意マークを入れてあって、ある程度より分けてくれていました。


「この中から、イベントグッズとして良さそうなものを選べってことね」

「そうだぞー! 気に入らないものは、どんどん蹴落としていいぞー!」


 水龍ちゃんは、プリンちゃんからアドバイス?をもらい、トラ丸やミリアさんの意見も聞いて、新たなイベントグッズを選んでゆきました。


 結果、猫の手の形をした手作りクッキーや手作りせんべい、べっこう飴など、ほぼほぼ手作りのお菓子や食べ物になったのは、まぁ、仕方がないことでしょう。


 水龍ちゃんによる新たな猫の手グッズの選定が終わると、あとのことはプリンちゃんたち商業ギルドに任せて、水龍ちゃんとトラ丸は、猫の手カップ特設ブースへと戻りました。


「さて、新しいイベントグッズも決まったことだし、今日もハントラリーに出かけるわよ!」

「なー!」


 水龍ちゃんとトラ丸は、新たなハントラリーの紙をもらうと、楽しそうに素材集めに出かけるのでした。

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