第182話 狩りだー!

 猫の手カップ開催2日目。


 水龍ちゃんは、朝からトラ丸を連れてダンジョンへ入り、ポーション作りに励みました。ヒールポーションの売れ行きが順調なので、そう何日も休んでいるわけにはいかないだろうと、張り切って働いています。


 水くらげ草の泉で美肌ポーションを作り、ヒール草のお花畑でヒールポーションを作ると、すぐにダンジョンを出るのかと思いきや、水龍ちゃんとトラ丸は、ダンジョンの奥へと爆走して行きました。


「なー!」

「ふふっ、張り切ってるわね、トラ丸。さて、今日は、何を捕まえようかな」


 鼻息荒く、かりだー! と叫ぶトラ丸に、水龍ちゃんは微笑ましく声を掛けます。

 そうです。今日は、魔獣や魔物を捕らえて魔物ショップに売る日なのです。


 水龍ちゃんとトラ丸は、とある階層の荒野で獲物を探します。


「あれなんかどう?」

「なー!」


 水龍ちゃんが、遠目に見つけた獲物を指さして尋ねると、トラ丸が わーい! と嬉しそうに飛び出しました。


「逃げ足が速そうだから、左右から挟み撃ちにしましょ」

「なー!」


 水龍ちゃんがトラ丸と並走しながら作戦を伝えると、トラ丸は、わかったー! と元気に答え、2手に別れました。


 のんきにどすどすと歩くケルベロスに、水龍ちゃんとトラ丸は、気配を殺して近づきます。


 しかし、さすがはケルベロスです。嫌な予感がしたのでしょうか、3つ首の1つがおもむろに水龍ちゃんの方を向き、水龍ちゃんの姿をその目で捉えると、ケルベロスは顔面蒼白にして飛び上がり、毛を逆立てて反対側へ駆け出しました。


「なー!」

「「「ぅが!?」」」


 しかし、反対側から迫るトラ丸の雄叫び?に、3つ首はそろって驚きの声を上げて急に立ち止まりました。


 前門にトラ丸、後門に水龍ちゃんと、追い詰められたケルベロスは、汗だくで両者を見ながら、どっちへ逃げようかと戸惑うようにうろうろします。股の間に挟む尻尾がその恐怖心を明確に示していました。


「なー!!」

「「「キャイン、キャイン!」」」


 再びトラ丸が可愛らしい雄叫び?を上げて迫ると、ケルベロスは甲高い悲鳴?を上げて横方向へ逃げ出しました。


 しかし、トラ丸のスピードは速く、一気にケルベロスの背後から距離を詰めて勢いよく襲い掛かると、ケルベロスへバリバリッと強烈な電撃を浴びせました。


 さすがのケルベロスも全身が硬直し、ゴロゴロと転がるように倒れると、意識を失いピクピクと痙攣していました。


「トラ丸、お見事!」

「なー!!」


 水龍ちゃんがほめそやすと、トラ丸は、ケルベロスに乗って誇らしげに勝鬨?の声を上げるのでした。




 水龍ちゃんとトラ丸は、ダンジョンを出て魔物ショップへケルベロスを売却し、商業ギルドにヒールポーションを納品すると、一度、帰宅してバックパックを小さいものにかえてからハンターギルドへと向かいました。


「あら? 屋台の数が増えてるわね」

「なー!」


 ハンターギルド1階に開設した猫の手カップ特設ブースの周りには、所狭しと屋台が立ち並んでいました。トラ丸は、水龍ちゃんの肩の上で瞳をキラキラさせて嬉しそうに鳴きました。


「アーニャさん、なんだか屋台が増えましたね」

「そうなのよ。昨日、商業ギルドマスターから話があったばかりなのだけど、今朝早くから商人達が押し寄せて来てね、あれよあれよという間にこんなに屋台を並べてしまったのよ。まさか、昨日の今日で、こんなことになるなんて驚きだわ」


 アーニャさんを見つけた水龍ちゃんは、挨拶がてらに屋台の話を切り出すと、アーニャさんは、頬に手を当てて昨夜からの経緯を教えてくれました。


「もしかして、まだ増えるとか?」

「そうなのよ。だけど、もう場所がないからどうしようかってことで、この後、商業ギルドと打ち合わせることになっているの」


 水龍ちゃんの問いに、アーニャさんは、ちょっと困り顔で答えてくれました。

 商人達の勢いは、まだまだ止まらないようです。


 水龍ちゃんとトラ丸は、新しく増えた屋台を見て回ります。

 どれも食べ物屋さんで、『猫の手カップ特別割引』とか『猫の手カップ限定』とか大々的に宣伝しています。


「なー!」

「うん、どれもおいしそうねぇ、どれを食べようか」


 トラ丸と水龍ちゃんは、サンドイッチやホットドック、おにぎりなどの屋台をきょろきょろと見回して、どれにしようか悩んでいます。ほかにも、うどんやそばを出す屋台、たこ焼き、おでん、かき氷の屋台もありました。


 水龍ちゃんとトラ丸は、いろいろ悩んだ結果、熱々のたこ焼きを購入して、はふはふと美味しく頂きながら特設ブースへと向かいました。


「あれ? 売り切れなの?」

「ぅな?」


 美発部の化粧水売り場には『本日分、売れ切れました』の張り紙が貼られ、スタッフがお客さんに事情を説明している姿がありました。


「おう、水龍、ちょうど良いところへ来てくれたな」


 ミランダさんが、いち早く水龍ちゃんを見つけて声を掛けてきました。


「ミランダさん、化粧水、売り切れちゃったんですか?」

「そうなんだよ。開店からずっと客が途切れなくてな、どんどん売れて行って、お昼前には用意していた化粧水がすべて売り切れてしまったよ」


 水龍ちゃんの問いに、ミランダさんは、嬉しそうな困ったような微妙な顔つきで話してくれました。


「発売2日目にして、すごいですねぇ」

「ああ、私も驚きだよ。それでだ、化粧水を増産したいんだが、美肌ポーションの購入を増やしても大丈夫か?」


「もちろんです。今日も作って来ましたから在庫も十分ありますよ」

「そうか、ありがたい。瓶の方もトーマスさんが追加で手配してくれているから何とかなるだろう」


 美肌ポーションの在庫も十分と聞いて、ミランダさんは少しほっとしたようです。

 追加の化粧水の瓶は、夕方には届くとのことで、今日の美発部の活動はとても忙しくなりそうです。

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