第181話 ハントラリーの狙い
スライムマリモを採集した水龍ちゃんとトラ丸は、ハンターギルドへと戻ると集めた素材の納品を行いました。
納品受付の職員には、「もう4種類も集めたの!?」と驚かれてしまいましたが、ちゃんとスタンプを押してもらい、水龍ちゃんとトラ丸は満足顔です。
「次は、えーっと、ダンジョン方面ね」
「なー」
水龍ちゃんは、新人ハンター向けハントラリーの紙を見ながら、次の素材の採取場所を確認します。トラ丸も水龍ちゃんの肩の上から紙を覗き見て、一緒に確認しています。
そこへ、アーニャさんがやってきました。
「水龍ちゃん、調子はどう?」
「えへへ、ようやく半分ってところかな」
「さすが、水龍ちゃんね。新人ハンターならコンプリートするのに数日かかるくらいなんだけど、今日中に達成してしまいそうね」
「素材の採取場所とか、探し方とか、詳しく書いてあるから苦労しなかったわ」
アーニャさんに褒められると、水龍ちゃんは、ハントラリーの紙を示して、簡単に集められた理由を述べました。
「ふふっ、新人ハンター達に、もっと身近に採れる素材があることを知ってもらいたいからって、ギルドの職員達が頑張って作ったのよ」
「それで、こんなに詳しい情報が書かれているんですね」
「そうよ。身近だけど、意外と知られていない素材を選んで載せているの」
「もしかして、ほかのハントラリーも?」
「そうよ。多くのハンター達が見逃しがちな素材を選んであるわ」
アーニャさんが、ハントラリーの対象素材の選定について教えてくれました。遊びの中に知識の幅を広げる要素を盛り込むなんて、ハンターギルドもさすがです。
「それなら、ほかのランクのハントラリーもやってみたいわ」
「今、やっているハントラリーをコンプリートしたなら、次のハントラリーに参加出来るわよ。まぁ、上のランクを受けるときは十分気を付けるように促すのだけど、水龍ちゃんなら心配いらないわね」
ほかのハントラリーにも興味を示した水龍ちゃんに、アーニャさんが、にっこり笑顔で順番にトライできることを教えてくれました。
水龍ちゃんとトラ丸は、次の素材を採取するため、ダンジョンへと向かいました。
ダンジョンへ向かう幅広の石畳の道の途中で、水龍ちゃんは立ち止まり、ハントラリーの紙を確認します。
「うーんと、あそこの並木の向こう側に生えているらしいわ」
「なー!」
水龍ちゃんが、石畳の道から少し離れた並木を指さすと、トラ丸が元気に駆け出しました。すぐに水龍ちゃんもトラ丸の後を追いかけます。
並木の先には、草原が広がっていて、ところどころに大きなモコモコした花穂をつけた草がそよ風に吹かれて揺れていました。
「あれが、ジャンボ猫じゃらしね。根っこの部分が素材になるようね」
「なー!」
水龍ちゃんが呟く傍らで、トラ丸が、わーい! とジャンボ猫じゃらしへと駆け寄り、ぴょいぴょいと飛び跳ねながらモコモコ花穂にペシッ、ペシッと猫パンチをして遊び始めました。
水龍ちゃんは、遊んでいるトラ丸を微笑ましく見ながらジャンボ猫じゃらしが数株生えているところへ足を運ぶと、両手を前にかざして魔法で水の玉を作り出し、ジャンボ猫じゃらしの根元へとしみこませて根元の土壌を緩めてゆきました。
水龍ちゃんは、水流操作で根元の土を適度に緩めたジャンボ猫じゃらしの茎を掴むと、スポン、スポンと引き抜いて、あっという間に納品数の5本を集めてしまいました。
素材の根っこの部分はきれいに洗い、茎より上はナイフで切り捨て、根っこについた水分を水流操作で取り除いてバックパックへ入れました。
「トラ丸、次へ行くわよ」
「なー?」
「次はダンジョンよ」
「なー!」
水龍ちゃんが声を掛けると、トラ丸は、もう? と少し遊び足りないようでしが、ダンジョンと聞くと嬉しそうに声を上げるのでした。
ダンジョンへ入った水龍ちゃんとトラ丸は、1階層のとある森を抜けた池の畔へ着くと、トラ丸が池の上を水上歩行でパシャパシャと駆け回って遊び始めました。
水龍ちゃんは、池の畔のくらくら草を根っこごとスポン、スポンと引っこ抜きました。くらくら草も根っこが素材なのです。
次の素材は、同じ1階層に生えている白樺茶ノ木の葉です。茶ノ木とは言っても普通に大きな白樺の木で、青々とした若葉は、お茶にすると美味しいのですが、今回採るのは、青々とした葉に紛れてポツポツと生える白い葉です。
「ところどころに生えている白い葉っぱがハントラリーの素材なのよ」
「なー!」
白樺茶ノ木の前で、水龍ちゃんが話すと、トラ丸が、まかせてー! と、するすると白樺茶ノ木へ登り、白い葉を選んでスパスパと切り落としてゆきました。
「トラ丸ー、もう十分よー! 10枚あればいいのー!」
「なー?」
水龍ちゃんが木の下から大きな声で叫ぶと、トラ丸は、もういいのー? と少し物足りなさそうな顔で木から降りてきました。水龍ちゃんは、トラ丸が落とした白い葉を束ねてバックパックへ入れました。
「さて、あとは、おなじみのチトマールよ」
水龍ちゃんは、にっこり笑顔で言うと、辺りを見回しながらダンジョン出口へと向かって歩き出しました。
チトマールは、ダンジョンのあちこちに生えていて、治癒ポーションに使われる薬草です。しかし、薬草園で大量に栽培されるため採集しても金額は知れています。
ハントラリーの紙には、チトマールの豆知識として、採りたての葉をもみほぐして出血部に押し当てると止血効果があるとして、もしもの時の応急処置にと記されていました。
水龍ちゃんとトラ丸は、難なくチトマールの葉を10枚集めてハンターギルドへと戻り、集めた素材を納品して新人ハンター向けのハントラリーをコンプリートしました。
そして、水龍ちゃんとトラ丸は、嬉しそうにバゲットサンドの屋台へ向かい、コンプリートしたハントラリーの紙を猫の手焼きと引き換えると、仲良く半分こして美味しくいただいたのでした。
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