第180話 ハントラリー
水龍ちゃんは、ミランダさんが示してくれた『ハントラリー』と書かれたのぼりを見ながら悩ましげな顔をしました。
「う~ん、私が参加してもいいのかしら?」
「なー?」
「参加できるかどうか、聞いてみたらどうだ?」
小首を傾げて悩む水龍ちゃんとトラ丸に、ミランダさんは確認してみればいいと促します。
そこへ、アーニャさんが、ちょうどタイミングよく現れました。水龍ちゃんは、さっそく尋ねてみることにしました。
「アーニャさん、ハントラリーなんだけど、私も参加していいのかな?」
「もちろんよ。だけど、水龍ちゃんは若葉マークの新人ハンターだから、一番簡単なハントラリーになるわね」
水龍ちゃんの問いに、アーニャさんは、にっこり笑顔で即答してくれました。そして、アーニャさんはブースの中から1枚の紙を取り出して来て、水龍ちゃんに手渡してくれました。
紙には『新人ハンター向けハントラリー』と書かれていて、採取する素材名と主な採取場所が番号と共に8つ記されていて、紙の下の方にスタンプを押すための番号付きのマス目がありました。
「なるほど。これらの素材を集めて納品して、スタンプを押してもらうんですね」
「そうよ。8つの素材を納めて、スタンプをコンプリートすれば、猫の手饅頭か猫の手焼きと交換してもらえるのよ」
水龍ちゃんは、ハントラリーのことは知っていましたが、具体的な準備はハンターギルドの方で進めていたので詳しくは知らなかったのです。
ハントラリーは、レア素材を集める猫の手カップに参加できないハンター達のために用意したプチイベントで、ハンター達の実力に合わせてランク別に集める素材を設定してあります。どのランクのハントラリーに参加出来るかは、ハンターギルド側で決めています。
ちなみに、どのハントラリーでスタンプをコンプリートしても、引き換えできるのは猫の手饅頭もしくは猫の手焼きで、バゲットサンドの屋台で交換できます。
「さっそく、ハントしてくるわ!」
「なー!」
水龍ちゃんが、ふんすと小さな拳を握りしめ、ハントラリーの開始を宣言すると、トラ丸も やるぞー! と声を上げました。
アーニャさんとミランダさんに微笑みながら見送られ、水龍ちゃんとトラ丸は最初の素材を集めに向かうのでした。
街の郊外にある森にやって来た水龍ちゃんとトラ丸は、改めてハントラリーの紙を確認します。
「ここの森で採れるのは、ブルーマツボックリとクルミ茸ね。それぞれ5つ納品するとスタンプを押してもらえるわ」
「なー?」
「ん? 魔獣は狩らないのかって? う~ん、魔獣の素材はないわね。新人ハンター向けだからかしら?」
「なー」
魔獣狩りがないと聞いて、トラ丸は、なーんだー、と少しがっかりしたようでしたがすぐに気を取り直したようす。
「さぁて、初めて採取する素材だし、ちょっとワクワクするわね。トラ丸も見つけたら教えてね」
「なー!」
水龍ちゃんとトラ丸は、手分けしてブルーマツボックリとクルミ茸を探し始めました。
ブルーマツボックリは、その名のとおり青色のマツボックリの形をしていて不思議と年中いつでも採れる素材です。クルミ茸はクルミの形をしていますが、きのこの仲間で木の幹や根に寄生して生えています。
「なー!」
「ブルーマツボックリを見つけたのね。私はクルミ茸を見つけたわ」
さっそく、トラ丸はブルーマツボックリを咥えて持って来て、水龍ちゃんは木の根に生えたクルミ茸を見つけたようです。
水龍ちゃんはトラ丸をなでなでして、戦利品のブルーマツボックリとクルミ茸をバックパックへ入れました。ちなみに、今日のバックパックは以前使っていたもので、適度なサイズです。
水龍ちゃんとトラ丸は、鼻歌交じりに素材を探して回り、それぞれ5つずつ集めてコンプリートです。
「よし、ブルーマツボックリとクルミ茸は採れたわね。次へ行きましょ」
「なー!」
水龍ちゃんとトラ丸は、上機嫌で次の採取場所へと向かいます。
次に訪れたのは竹藪です。ここではタケノコ茸というタケノコによく似たきのこを5つ集めてコンプリートしました。
水龍ちゃんとトラ丸は、さらに次の素材を集めに川辺へと向かいました。
川辺に着くと、新人らしきハンター達が数名いて、川の浅瀬の石をひっくり返していました。
「ふふっ、みんなスライムマリモを探しているみたいね」
「なー」
スライムマリモは、見た目がスライムのような藻の塊で、水辺の石や岩などに引っ付いていることが多いため、石をひっくり返すと良いのだとハントラリーの紙にアドバイスが書いてあります。
水龍ちゃんとトラ丸は、新人ハンター達の邪魔にならないように、少し離れた方へ行きました。
「この辺りは、ほとんど探しつくされてるみたいね」
「なー?」
「移動するのかって? 大丈夫よ。まだひっくり返されていない石があるわ」
「なー」
水龍ちゃんは、近くに見える水辺の岩へと歩いて行くと、自分の背丈よりも大きな岩をガポッと持ち上げて、ひっくり返してしまいました。少し離れたところにいる新人ハンター達がびっくりしています。
「ほら、スライムマリモがいっぱいついてるわ」
「なー!」
水龍ちゃんは、岩の裏についているスライムマリモを5つ採って、軽く水で洗ってからハンカチへ包みました。
「う~ん、これをバックパックへ入れるのは良くなさそうだから、いったんハンターギルドへ納品しましょ」
「なー!」
水龍ちゃんは、ハンカチへ包んだスライムマリモを手に持って、トラ丸を連れてハンターギルドへと戻るのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます