第179話 商人達の参入

 プリンちゃんに手を引かれ、水龍ちゃんが向かった先には、ハンターギルドマスターがいました。


「ヒゲマス見つけたぞー!」

「うおっ!? なんだ、プリンじゃないか! はっはっは、猫の手カップを見に来たのだな。どうだ、この賑わい。すごいだろう」


 プリンちゃんが声を掛けると、ギルマスは、ちょっと驚いた後、イベントの賑わいを自慢げに語りました。


「そうだなー! そこでだー! この賑わいをもっともっと盛り上げよーじゃないかー!」


 対して、プリンちゃんは、猫の手カップをさらに盛り上げようと言い出しました。プリンちゃんの狙いはこれだったようです。


「えっ? どういうことだ?」

「それはだなー! ――」


 ギルマスが、ちょっと驚いた顔で、予期せぬ話に対して問い返すと、プリンちゃんは自身の考えを説明しました。


 プリンちゃんの説明では、これほどハンター達が集まるイベントの存在を知った商人達が、黙って商機を見過ごすことなどありえないといい、彼らは無差別テロのごとく周辺で勝手に商売を始めてしまうだろうというのです。


 そんな無法状態の商人達を放置してしまうと、主催者側の利益を奪われかねないとのことで、プリンちゃんとしては、そんなことになる前に商人達を取り込んでしまうのが得策だというのです。


 具体的には、猫の手カップ開催記念として通常価格よりお得な価格やボリュームなどのサービスを提供するとか、何かしら猫の手カップと絡めた商売をすることを条件に、主催者側が公然と商人達の商い参入を認めるということを提案してきたのです。


「むむぅ……」

「さっさと決めた方がいいぞー!」


 眉間に皺を寄せて悩みこんでしまったギルマスに、プリンちゃんは、さっさとしろと煽り立てます。

 そこへ現れたのがアーニャさんです。


「何かあったのですか?」

「おう、それがな、――」


 アーニャさんの問いに、ギルマスが商人達の商い参入について話しました。


「なるほど。それなら商業ギルドマスターの提案を受け入れる前提で、ハンターギルドとしては場所代を取りましょう。そうすれば主催者側の利益にもなるし、商人達とも上手くやれるでしょう」

「そ、そうだな……」


 アーニャさんがあっさりと答えると、ギルマスは悩んでいた自分は何だったんだろうという感じで同意しました。


「ようし! そーと決まれば、さっそく通達だー!」

「あ、プリンちゃん!?」


 元気に飛び出して行くプリンちゃんの背中に、水龍ちゃんが声を掛けましたが、プリンちゃんは、すいすいと人ごみの合間を縫って行ってしまいました。


 残された水龍ちゃんは、私を引っ張って来たのはなんで? と頭にはてなを浮かべてしまい、アーニャさんは、相変わらずね、と苦笑いでした。


 そんなことをしている間に、ハンター達の数も減ってきました。多くのハンター達が仕事に向かったのでしょう。


 水龍ちゃんとトラ丸が、猫の手カップ特設ブースへと戻ると、サラさんが来ていて軽く挨拶を交わしました。


「結構、人が集まっているもんだねぇ」

「開会式の時は、もっと多かったんですよ」


「そうか。ふふっ、さっそく注文が入っていたよ。うちわも随分と売れたようだし、思ってた以上に忙しくなりそうだ」

「そうなんですね。良かったわ」


 イベントグッズの注文も入っていたようで、サラさんも嬉しそうです。


 うちわについては、もう在庫が心許ないということなので、水龍ちゃんはサラさんと相談して追加で生産することにしました。


 サラさんは、さっそくうちわの生産に入ると言って帰って行きました。


 一方、美発部のブースでは、ミランダさんがハンターギルドの職員達と忙しそうに働いていました。


 美発部のお姉さん達は、昼間は薬師ギルドで働いているため、ここでの販売はミランダさんをリーダーとして、スタッフはハンターギルドの職員達にお願いしているのです。もちろん相応の費用は払う取り決めです。


「ミランダさん、化粧水の評判はどうですか?」

「なー」

「おう、水龍か。思った以上の反響だよ。みんな猫の手シールを見て、解毒効果がありそう、とか言って興味を示してくれる。猫の手ブランドさまさまだな」


 水龍ちゃんが問いかけると、ミランダさんが嬉しそうに答えてくれました。猫の手ブランドが解毒と結びつくのは、以前、赤毒ポーション不足の時に毒消しサンドを販売していたおかげでしょうか、もしくは猫の手印の飲みやすい赤毒ポーション、青毒ポーションのイメージがあるのでしょう。


「たくさん売れるといいですね」

「ああ、初日の目標は達成できそうだな。ハンターギルドの女性職員達も買ってくれるそうだ」


 ミランダさんの話に、販売スタッフとして働いてくれているハンターギルドの女性職員達が、にっこり笑顔をみせてくれました。


「ところで、水龍はハンター登録をしているんだよな?」

「もちろん。だからダンジョンにだって入れるのよ」


「なら、水龍もイベントに参加したらどうだ?」

「ん? 私は主催者側だから参加できないわ。自分で用意した賞品をもらうのはダメでしょ?」


 ミランダさんに参加を促され、すぐに水龍ちゃんは自分の立場を示します。


「まぁ、本戦はそうだろうが、あれならいいんじゃないか?」

「ん?」

「ぅな?」


 ミランダさんが、指し示した先には、『ハントラリー』と書かれた大きなのぼりが掲げられていました。

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