第178話 猫の手カップ開催

 今日は、猫の手カップ開催の日です。水龍ちゃんとトラ丸は、開会式の時間に合わせてハンターギルドへとやって来ました。


 ハンターギルドの周辺は、既にハンター達が集まっていて、やんややんやと賑わっていました。ハンター達の中には、猫の手印の入ったうちわを手にしてパタパタと仰いでいる姿が見られます。


「あ、あのうちわ、イベント用に作ったものだわ」

「な~♪」


 水龍ちゃんが、うちわを持つハンターの姿を見て呟くと、水龍ちゃんの肩の上に乗っているトラ丸が、嬉しそうに鳴き声を上げました。


 うちわはイベントグッズの1つで、比較的作りが簡単でそれほどお金が掛からないのと宣伝文句が書けるということで、初日からガンガン販売できるようにまとまった数を作っておいたものです。


「水龍ちゃん、こっちこっち」

「アーニャさん、おはようございます」

「なー!」


 アーニャさんが、目ざとく水龍ちゃんを見つけて声を掛けて来たので、水龍ちゃんとトラ丸は、元気に挨拶をしました。


「良かったわ。予想以上にハンター達が集まっていて、ギルドの1階はハンター達で溢れているのよ」

「大盛況ですね」

「なー!」


 アーニャさんが、状況を説明してくれて、水龍ちゃんとトラ丸は嬉しそうです。


「水龍ちゃんとトラ丸が、ハンター達に押し潰されないかと心配で探しにきたの」

「ん? 私は大丈夫ですよ」


「ふふっ、そうかもしれないけど、ギルド職員達はみんな心配しているわ。特にギルマスがね」

「あはははは……」


 アーニャさんから話を聞いて、水龍ちゃんは、ギルマスの様子を想像したのでしょうか、苦笑いしていました。


 アーニャさんに連れられて、水龍ちゃんはトラ丸を肩に乗せたままハンターギルドの通用口を通って中に入り、壁際に設けられた物品搬入用の通路を通って猫の手カップ特設ブースへと向かいました。


 特設ブース裏側からみると、ブース前は大勢のハンター達で大賑わいでした。


 よくよく見ると、まだ開会式の前なのですが、ハンター達はイベントグッズや化粧水売り場へ集まって盛り上がっています。


「うわぁ、ハンター達がいっぱいだわ」

「凄いでしょう。たくさん用意していたうちわも足りなくなりそうだし、トーマスさんのお店も繁盛しているみたいよ」


「美発部の方もすごいですね」

「女性ハンター達が、ものすごく喰いついているようね」


 水龍ちゃんが、ハンター達の多さに目を丸くしていると、アーニャさんが、お店の繁盛具合を教えてくれました。人が集まると、やはりお店も繁盛するのです。


 そんな様子を見ている間に、猫の手カップの開会式が始まりました。やいのやいのと賑やかな中、猫の手カップ特設ブースの中央にギルマスが立ちました。


「お前らー! ハンターチャンピオンを決める頂上決戦を始めるぞー!」

「「「「「「おおー!!!!」」」」」」


 ギルマスが、気合の入った大声で開会宣言?をすると、ハンター達が呼応して大歓声を上げました。ハンターキングはどこ行った? などと野暮なことは言わないのがお約束のようです。


 ギルマスからの開会宣言に続いて、アーニャさんから、ごくごく簡単かつ手短にルールの説明と投票券の発売について話がありました。


 ハンター達は、ギャンブル好きの者も多く、投票券販売の話の時は、しっかりと聞いている者、どのパーティーが勝つだなどと予想に入る者など、さまざまでした。


 最後に、主要なレア素材に対するポイントを発表し、納品開始の宣言をすると、エントリーパーティー達は、一斉に納品窓口へと殺到しました。


 開会式も終わり、ハンター達は、入れ替わり立ち代わり特設ブースやバゲットサンドの屋台をのぞいてゆきます。


「おはよー! 水龍ちゃんもトラ丸も元気そうだなー!」

「プリンちゃん、おはよう!」

「なー!」


 特設ブースにはプリンちゃんも来ていて、軽く挨拶を交わすと、プリンちゃんはスタッフ側にいる水龍ちゃんの方へと入ってきました。


 スタッフサイドは関係者以外立ち入り禁止なので、ギルド職員が止めようとしましたが、すぐにプリンちゃんだと分かったようで苦笑いで通してくれました。


「なかなか盛況だなー!」

「ほんと、すごい数の人達ね。盛り上がってくれて嬉しいわ」


 プリンちゃんの感想に、水龍ちゃんも同意します。


 それから、水龍ちゃんはプリンちゃんと一緒にバゲットサンドの屋台へと向かいました。もちろんトラ丸も肩に乗せて連れて行きます。


「トーマスさーん」

「なー!」

「これはこれは、商業ギルドマスターに水龍ちゃん、私どもの屋台へお越し頂きましてありがとうございます」


 水龍ちゃんとトラ丸が挨拶をすると、トーマスさんは、得意の揉み手で快く歓迎してくれました。


「なかなか繁盛しているようだなー!」

「おかげさまで、予想以上の売れ行きですよ」


 プリンちゃんの声に、トーマスさんは、ほくほく顔で答えます。


「あ、お饅頭も売ってる!」

「猫の手焼きもあるなー!」

「なー!」

「猫の手饅頭に、猫の手焼きですよ。どちらも美味しいですよ」


 水龍ちゃんとプリンちゃん、そしてトラ丸が、お菓子を見つけてテンションを上げると、トーマスさんが、ここぞとばかりに揉み手で商品を勧めてきます。


 さっそく水龍ちゃんは猫の手饅頭を買い、プリンちゃんは鯛焼きならぬ猫の手焼きを買って美味しそうに頂きました。トラ丸は、両方を分けてもらってご満悦です。


「これだけ人が集まると、商人達も黙っていないだろうなー!」

「ん? どういうこと?」


「イベントに乗っかりたいって商会がわんさか現れるのだー!」

「さすが、商人、たくましいわね」


 プリンちゃんの話に、水龍ちゃんは商人達に感心しました。


「と、いうことでだー! 水龍ちゃん、行くぞー!」

「えっ? なに? どこ行くのー???」


 猫の手焼きを食べ終えたプリンちゃんは、水龍ちゃんの手を引いて、人ごみの中を掻き分けながら進むのでした。

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