4.水龍ちゃん、猫の手カップを楽しみます

第177話 イベント前日

 イベント前日のことです。今朝も朝早くから新たなフェイスパックの研究をするため、マーサさんがやって来ました。


「天使ちゃんにお願いがあるのよん♡」

「ん? なんですか?」

「ぅな?」


 挨拶もそこそこに、マーサさんが、体をくねらせながらお願いがあるのだと言い出して、水龍ちゃんとトラ丸は、頭にはてなを浮かべて問い返しました。


「あのねん♡ 新しく開発中のフェイスパックなんだけどねん♡ とっても良い評価が出そうなのよん♡」

「そうなのね。ふふっ、結果が出るのが楽しみね」

「なー」


 マーサさんが、もじもじ、くねくねしながら開発中のフェイスパックの開発状況について切り出すと、水龍ちゃんとトラ丸は、とても嬉しそうに返しました。


「それでねぇん♡ お願いっていうのはねん♡ 新しいフェイスパックを売り出すときに、天使ちゃんの猫の手シールを貼らせて欲しいのよん♡」


 なんと、マーサさんのお願いとは、猫の手シールを使わせて欲しいということでした。


「えっ? ドロくさパックのシールを貼るんじゃないの?」

「いやぁねぇん♡ 新商品は、もうドロくさパックじゃないのよん♡ だからドロくさパックのマークも使わないわよん♡」


「そうなの? 私、てっきり、『ドロくさパック極み』って名前で売り出すとおもってたわ」

「私は、天使ちゃんのおかげで、すっかり心を入れ替えたのよん♡ だから、心機一転、新しいフェイスパックは、天使ちゃんにちなんで、エンジェルパックと命名したのよん♡」


 てっきり、ドロくさパックシリーズで売り出すと思っていた水龍ちゃんに、マーサさんは、エンジェルパックとして売り出すのだと明かしました。


「でも、なんでまた、猫の手シールを貼りたいの?」

「あらん♡ 美発部のウルつや化粧水に猫の手シールを貼るって聞いて、ジェラシー感じちゃったのよん♡ だから、エンジェルパックにも猫の手シールを貼らせてもらいたいのよん♡ エンジェルパックにだって美肌ポーションをしっかり使っているのだからいいでしょ♡」


 水龍ちゃんの疑問に、マーサさんは、感情いっぱいに身振り手振りを交えながら答えてくれました。


 少し考え込んでいた水龍ちゃんも、お願いモードで瞳をうるうるさせるマーサさんの姿を見て、仕方ないな、と了承するのでした。





 そして、水龍ちゃんは、トラ丸を連れてダンジョンでヒールポーションを作ったりなんだりと、いつもの日常を過ごして美発部の時間がやって来ました。


「さぁ、みんな! いよいよ明日はウルつや化粧水の発売よ! 今日は、みんなでハンターギルドへ行って、販売準備をするわよ!」

「「「「おー!」」」」

「なー!」


 お姉さんの掛け声に、水龍ちゃんとトラ丸も、ほかのお姉さん達と一緒になって声を上げました。一度、おばばさまの家に集まって、しっかりとポーション入りドリンクを飲んでからハンターギルドへ向かうところがお姉さん達らしいです。


 お姉さん達と水龍ちゃん、トラ丸は、販売準備に必要なものを持って、ハンターギルドへと向かいました。


 ハンターギルドへ着いたお姉さん達は、水龍ちゃんとトラ丸の案内で、まっすぐ特設ブースへとやって来ました。


「みなさん、おそろいですね」

「「「「こんばんはー」」」」

「「「お世話になりまーす」」」

「なー」


 特設ブースにいたアーニャさんが、水龍ちゃん達に気付いて声を掛けてくると、お姉さん達と水龍ちゃん、トラ丸は、元気に挨拶をしました。


「化粧水は、あちらに置いてありますよ」

「ありがとうございます」


 アーニャさんから化粧水がカウンターの後ろに置いてあると聞いて、お姉さんの1人がお礼を言って、すぐに確認に向かいました。化粧水は、エメラルド商会に頼んで昼のうちにこちらへ運び込んで貰っていました。


「さぁ、みんな、飾りつけるわよ」

「「「「おー!」」」」


 お姉さん達は、ブースの飾りつけや化粧水等の配置決めなど、てきぱきと販売準備を始めました。


 水龍ちゃんとトラ丸が、イベントグッズの販売準備にかかると、美発部のお姉さん達も数名手伝ってくれます。


「みなさん、準備を手伝ってくれてありがとうございます。私も頑張るわ!」

「なー!」


 水龍ちゃんは、既に見本のイベントグッズを並べていたハンターギルドの職員達へとお礼を言って、ふんすと気合を入れると、ギルドの職員達は笑顔を返してくれました。


 アーニャさんを筆頭にハンターギルドの職員数名が、水龍ちゃん達が来る少し前からイベントグッズの販売準備を始めていました。ここでは投票券の販売も行うため、その準備も兼ねているようです。


 みんなで準備をしたので、あっという間に作業は終わり、販売ブースは、綺麗に飾り付けられました。


 ちょうど準備が終わったところで、トーマスさんが現れました。


「おお、水龍ちゃんも来ておられたのですね」

「トーマスさん。こんばんは」

「なー」


「いよいよ猫の手カップ開催ですね」

「はい。楽しみです」

「なー」


「私どもも、イベント期間中に、サンドパンの新作を披露させてもらいますよ」

「わぁ、それは楽しみだわ」

「なー!」


 トーマスさんからサンドパンの新作と聞いて、水龍ちゃんとトラ丸は、喜びの声を上げました。


「あちらのスペースに、臨時で屋台を開設させて頂きますので、是非ともお越しください」

「屋台!? すごいすごーい!」

「なー!」


 なんと、サンドパンの屋台を出すと聞いて、水龍ちゃんとトラ丸は目をまん丸にして驚きました。


 いつの間に、そんな話が決まったのかは分かりませんが、トーマスさんは、スタッフと共に、これから屋台の準備をするそうです。


「イベントの楽しみが増えたわね」

「なー!」


 水龍ちゃんとトラ丸は、そう言って嬉しそうに微笑むのでした。

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