第176話 素材探索

 今日も水龍ちゃんはトラ丸をお供に、水くらげ草の生える泉へとやって来て、せっせと美肌ポーションを作っていました。


「う~ん、ここの水くらげ草だけじゃ、今後、化粧水とかドロくさパックの生産が増えてきたら足りなくなりそうね」

「なー?」


 本日の生産を終えて一息ついた水龍ちゃんは、水くらげ草の不足を懸念します。トラ丸は、そうなの? とのんきなものです。


 実際、この泉には、そこそこの数の水くらげ草が生えていて、しばらくは問題なさそうなのですが、水龍ちゃんは心配なようです。


「よし! ほかに水くらげ草の生えている場所を探すわよ!」

「なー!」


 水龍ちゃんは、ふんすと気合を入れると、小さな拳をきゅっと握りしめて、新たな水くらげ草の探索を宣言しました。もちろん、トラ丸は大賛成です。


 さっそく水龍ちゃんは、トラ丸と共に周辺を駆け巡り、水場を見つけては水くらげ草が生えていないかを確認して回ります。


「う~ん、なかなか見つからないわねぇ……」

「なー?」


 山間部を流れる清流を前に立ち止まり、水龍ちゃんがため息交じりに呟きますが、トラ丸は、そう? とのんきな声を上げて、ぴちゃぴちゃと水面を叩いて遊び出しました。


 確かに山間部を流れる清流は澄んでいて綺麗なものですが、なかなかどうして、水くらげ草が生えている場所は見つかりません。


「まぁ、気長に探せば、そのうち見つかるわよね」

「なー」


 水龍ちゃんの言葉に、トラ丸も、そだねー、とのんきな返事です。


 かくして、今日の水くらげ草探索は終了となり、水龍ちゃんとトラ丸は、ヒール草のお花畑へと向かうのでした。





 ヒールポーションを作ってからダンジョンを出た水龍ちゃんとトラ丸は、商業ギルドで納品を済ませてからハンターギルドへ向かいました。水くらげ草の探索をしていたため、もう夕方になっていました。


 ハンターギルドの1階に作った猫の手カップ特設ブースでアーニャさんの姿を見つけました。


「アーニャさん、こんにちは」

「なー!」

「あら、水龍ちゃんにトラ丸じゃない。今日は遅かったわね。何かあったの?」


 元気に挨拶をする水龍ちゃんとトラ丸に、アーニャさんが問いかけてきました。


「えへへ、ダンジョンで素材を探していたら遅くなっちゃって。それよりイベントの準備はどうですか?」

「ふふっ、やっぱり気になるわよね」


 水龍ちゃんが、はにかみながら理由を話し、すぐに話題を切り替えると、アーニャさんは、にっこり笑顔で返しました。


 イベント開始まで、あと数日と迫り、水龍ちゃんとトラ丸は、ここのところ毎日のように顔を出していたくらいには気になっているのです。


「今日でほぼ準備は完了したわ。美発部のブースも整えたから見て行ってね」

「はーい」

「なー」


 アーニャさんに促され、水龍ちゃんとトラ丸は、特設ブースを見て回ります。毎日来ているので、見慣れたものなのですが、それでも気になるのです。


 特設ブースは、中央に参加パーティーの獲得ポイント状況が分かるようにと順位ボードが設置されています。獲得ポイントの多い順にボードが並べられ、順位が入れ替わるとボードを入れ替えて運用する予定です。


「予想通り、上級パーティーのほとんどが、参加してくれているわ」

「順調ですね」


 アーニャさんが、パーティー名の書かれたボードを見ながら嬉しそうに言うと、水龍ちゃんも嬉しそうに返しました。現在、ボードの並び順はエントリー順となっていて、ポイントは全て0ポイントです。


「嬉しいことにね、ちょっと厳しいかなぁっていう中堅どころのパーティーもエントリーしてくれているのよ」

「へぇー、そうなんですね」


「彼らは、スタートダッシュが大事だって言ってね、既に素材を集めにダンジョンに籠っているそうよ」

「あれ? イベント開始は明後日ですけど、スタート前に素材を採りに行くのってありなんですか?」


 アーニャさんの話を聞いて、水龍ちゃんが、あれっと疑問に思ったことを尋ねました。確かにイベント開始前に素材を集めるのはどうかなって思います。


「問題ないわよ。むしろ、ギルドとして推奨しているくらいなの」

「そうなんですか?」


「どうせ、ダメって言っても見つからなければいいやって連中が現れるし、取り締まることも出来ないわ。それなら、堂々とやってもらおうってことよ。ギルドとしてはレア素材を集めるのが目的だからね」

「なるほど」


 アーニャさんの説明に、水龍ちゃんも納得顔です。

 ただし、素材ごとの獲得ポイントはイベント開始日に発表されるそうです。レア素材が高得点だろうと推測できるでしょうが、どの素材をスタート前に採集するかはパーティー毎に意見が分かれそうです。


 さて、順位ボードの左右にはカウンターテーブルが設置されていて、その1つが美発部のブースになっています。ちゃんと美発部のロゴがカウンターテーブルに描かれているので一目で分かります。


 そして、もう1つのカウンターテーブルでは、イベントグッズの紹介と販売、そして優勝パーティーや上位パーティーを予想して当てる投票券を販売する予定となっています。


「今日、優勝カップと一緒にイベントグッズの見本も届いたわよ」

「本当ですか?」


「ええ、明日になる物もあるそうだけどね」

「うふふっ、明日は、みんなで飾り付けね」

「なー」


 アーニャさんから、イベントグッズが届いたと聞いて、水龍ちゃんとトラ丸は、なんだか嬉しそうに微笑むのでした。

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