第175話 記録更新

「シュリさん、こんにちは」

「なー!」

「水龍様にトラ丸様、ようこそお越しくださいました」


 商業ギルドの101番窓口で、水龍ちゃんとトラ丸が元気よく挨拶すると、シュリさんが、丁寧に挨拶を返してくれて、すぐさま納品部屋へと案内されました。


「今日の納品です」


 水龍ちゃんは、バックパックを床に置いて、そう言うと、中からヒールポーションの入った特大瓶を取り出し、テーブルの上へと並べ始めました。


「あたしが商業ギルドのギルドマスター、プリンだー!」


 そこへ、プリンちゃんが、納品部屋の扉をバーンと開けて、元気に名乗りを上げて入ってきました。


「プリンちゃん、こんにちは」

「なー!」

「こんにちはなのだー!」


 水龍ちゃんとトラ丸が、にっこり笑顔で挨拶をすると、プリンちゃんも嬉しそうに挨拶を返してくれました。


「水龍ちゃんのヒールポーションが、今日もすごい事になってたぞー!」

「あはは、また、競売価格が上がったのかしら?」


 プリンちゃんが、嬉しそうにヒールポーションの話を始めると、水龍ちゃんは、バックパックからヒールポーション入りの特大瓶を取り出しながら、ちょっと照れくさそうに尋ねました。


「今日も最高金額を更新したのだー! 連日の記録更新だなー!」

「なんか、金額を見るのが怖くなってきたわ」


 プリンちゃんの言葉に、水龍ちゃんは、ちょっと困惑気味です。トラ丸は、プリンちゃんに抱きかかえられながらドヤ顔です。


「ふはははははー! 薬師ギルドの古狸共も、さぞかし悔しがってるだろうなー!」

「えっ? どうして薬師ギルドが悔しがるの?」


 プリンちゃんの話に、水龍ちゃんは、頭にはてなを浮かべて尋ねました。どうやら薬師ギルドが関係するとは思いもよらなかったようです。


「それはだなー! ――」


 プリンちゃんの説明によると、薬師ギルド会員を退会した水龍ちゃんが、ヒールポーションの製造販売を開始したことから、薬師ギルドの立場がなくなっている状況なのだそうです。


 というのも、これまでポーション類の開発や改良には、必ず薬師ギルドやその会員達が関与していたという事実があり、薬師ギルドは、それを誇りにしていたのだといいます。


 そのため、薬師ギルドのお偉いさん達は、さぞかし悔しがっていることだろうと、プリンちゃんは笑いながら話してくれました。


 ちなみに、1級ポーションがしばらく販売されない状況が続いている中、大手商会の間では、猫の手印の1級ポーションの再販を願う声が囁かれていたそうです。


 そこへ、同じ猫の手印のヒールポーションが発売されたため、大手商会の注目が一気に集まって、あれよあれよという間に争奪戦が繰り広げられて、競売価格の高騰が起きている状況らしいです。


 猫の手印の1級ポーションがなければ、これほどまでに急速にヒールポーション争奪戦が起きることはなかっただろうというのが、プリンちゃんの意見でした。


 そんな話をしている間に、シュリさんがヒールポーションの受け取りを済ませていました。


 そして、話が終わった頃合いを見て、シュリさんが、本日のヒールポーションの受領伝票と一緒に、今朝の競売の明細書を手渡してくれました。


「うわっ!? こんなに振り込まれたの!?」

「すごいだろー! おかげで商業ギルドもウハウハだぞー!」


 明細書を見て驚く水龍ちゃんに、プリンちゃんが嬉しそうに言いました。商業ギルドの競売では、落札価格の数パーセントを手数料として商業ギルドへ納める契約になっているため、ヒールポーションが高値で売れれば売れるほど商業ギルドも儲かることになるのです。



 ヒールポーションの納品も終わり、水龍ちゃんとトラ丸が、プリンちゃんとシュリさんに挨拶をして別れ、家に帰ろうと商業ギルド内をトコトコ歩いていると、トーマスさんの姿が見えました。


「おお、水龍ちゃんじゃありませんか」

「トーマスさん、こんにちは」

「なー」


 トーマスさんが嬉しそうに声を掛けてくると、水龍ちゃんとトラ丸がにっこり笑顔で挨拶をしました。


「こんにちは。大きなカバンを背負っていますね」

「えへへ、荷物がたくさん入って便利ですよ」

「なー」


 トーマスさんは、挨拶がてらに水龍ちゃんのバックパックについて話し始めました。水龍ちゃんは、はにかみながら、お気に入りのカバンについて語ります。そして、トラ丸はドヤ顔です。


「時に、ヒールポーションが、ものすごい高値を付けておりますねぇ」

「おかげさまで。私もびっくりですよ」


「1級治癒ポーションの時のように、うちの商会がお手伝い出来たら良かったのですが、残念です」


 ヒールポーションの話になって、トーマスさんは、苦笑いして、そう言いました。


 実はヒールポーションの販売にあたり、新型治癒ポーションの時のようにエメラルド商会を使う話も上がったのですが、薬師ギルドに睨まれる可能性があるということで断念したという経緯があったのです。


「しかし、化粧水の販売にはしっかりと関わらさせて頂きますよ」

「よろしくお願いします」

「なー」


 トーマスさんは、すぐに気持ちを切り替えて、美発部の化粧水の件へと話題を変えました。水龍ちゃんとトラ丸は、にっこり笑顔でよろしくと伝えます。


「猫の手ブランドのシールも貼っておりますし、かなり売れると期待してますよ」

「美発部のお姉さん達のためにも、たくさん売れると嬉しいです」

「なー!」


 トーマスさんが、ぐっと拳を握りしめてやる気を見せると、水龍ちゃんも笑顔を見せました。そして、トラ丸は、トーマスさんの真似でしょうか、がんばるぞー! とやる気を見せるのでした。

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