第174話 化粧水の発売準備

 今日も仕事を終えたお姉さん達が集まってきて、美発部の活動が始まりました。


「そうそう、化粧水用の瓶が入って来てのう、調合室に置いてあるのじゃ」

「えっ? ほんと?」

「ちょっと取ってくる!」


 おばばさまが、思い出したように瓶の納品の話をすると、すぐにお姉さんたちが喰いつき、すぐに2人が調合室へと向かいました。


 2人を見送ると、残ったお姉さん達は話を続けます。


「品質確認用の魔道具も完成したし、これで本格的に生産に入れるわね」

「いよいよなのね」

「うふふっ、楽しみだわー」


 以前、ソレイユ工房へと頼んでいた成分計測の魔道具が出来上がり、化粧水の品質確認用の魔道具として調整も完了したのが、つい先日のことで、あとは化粧品を入れる瓶の納品を待つばかりだったのです。


 2人のお姉さん達が両手に瓶を持って調合室から戻ってきました。


「見て、見て! さっそくシールを貼ってみたわよ」

「化粧水も入れてきたわ」


 2人が嬉しそうに掲げた化粧水の瓶には、商品名である『ウルつや化粧水』と書かれたシールと、水龍ちゃんの猫の手シール、そして、美発部のロゴシールが貼られています。


 なんだかんだで、商品名は『ウルつや化粧水』と命名され、美発部のシンボルマークは、『美発部』の文字を可愛らしくデザインしたロゴマークを採用することになったのです。


「うんうん、いい出来だわ」

「フローラルのピンクとハーブのグリーン、どっちもいい感じね」

「「「うんうん」」」


 お姉さんたちは、2種類ある色違いの商品名シールを見て、良い出来だと満足そうです。2つの違いは、化粧水にほんのり付けた香りの違いです。


 ピンクの下地に赤色で商品名を書いたシールを貼った方は、フローラル系の心を穏やかにして幸せな気分にさせてくれる香りをつけた化粧水です。


 淡いグリーンの下地に濃い緑色で商品名を書いたシールを貼った方は、ハーブ系の香りをつけた化粧水で清涼感や爽快感を感じられます。


 ちなみに、香りが決まるまでに、お姉さん達は、何度も何度も香料をブレンドして満足のいく香りを追及していました。


「さっそく、明日からでも売りに出しましょう!」

「「「うんうん」」」


 気をよくしたお姉さん達は、さっそく売り出す算段です。


「ちょっと待って! 発売日だけど、もう少し後にしない?」

「「「「えっ?」」」」


 満場一致で決まりかけた発売日ですが、お姉さんの1人から待ったが掛かり、みんな驚きの声を上げました。


「もうすぐ、ハンターギルドで猫の手カップが開催されるから、そこに合わせて発売するといいと思うの」

「「「「あー」」」」


 そして、待ったを掛けた理由を話すと、みんな納得の声を上げました。


「いいアイデアだわ! 猫の手シールも貼ってあるし、化粧水をアピールするのに持って来いの場ね!」

「「「うんうん」」」


「それじゃ、発売へ向けて化粧水を準備しなくちゃね」

「どれくらい作ればいいの?」

「ありったけ作りましょう!」

「瓶がなくなるまでってことね」


「頑張るわよ!」

「「「「「おー!!」」」」」


 ということで、ウルつや化粧水の発売日が決まり、お姉さん達は、ひとしきり盛り上がると、手分けをして化粧水の生産に取り掛かるのでした。


 ちなみに、お姉さん達は、調合室とポーション生産部屋を使って適度に交代で生産をすることにしています。美肌ポーションを薄めて香り付けするだけなので、美発部の活動時間だけでも結構生産が出来るのです。


「水龍、ちょっといいか?」

「ん? なんですか?」

「ぅな?」


 ミランダさんから声を掛けられ、水龍ちゃんとトラ丸はミランダさんの方を向きました。


「化粧水の価格を決めるために、まず、原料である美肌ポーションの仕入れ価格を決めなくてはな」

「ん? 別に無料でいいですよ。たいした量じゃないし、ダンジョンで作ってくるから素材もただみたいなもんですから」


 ミランダさんは、美肌ポーションの購入価格を決めたいようですが、水龍ちゃんは無料で良いと即答しました。


「いや、そういうわけにはいかないだろ。こういうことはきっちりしておかないとダメだぞ。後々問題になりかねないからな」

「そうですか? 化粧水が売れた利益の分配金で十分なんですけど……。はっ!? まさか、あとで高額請求されることになるとか!?」


 ミランダさんが、少し呆れ顔で苦言を呈すると、水龍ちゃんは、素直に無欲なことを言ってから、はっとして、なぜか高額請求を想像してしまったようです。


「いや、高額請求はないと思うが、金銭問題にはなりかねないぞ」

「それは大変だわ!」

「ぅなー!」


 ミランダさんの金銭問題発言に、水龍ちゃんとトラ丸が、かなり危機感を抱いたようです。


「それで、化粧水の販売計画を立てて、いろいろ試算してみたんだ」


 ミランダさんは、そう言って、1枚の書面を見せてくれました。そして、書面について一から説明してくれました。


 書面は化粧水の販売計画資料で、販売数や各種費用、利益などが試算されていて、ちょっと難しいですが、ミランダさんの丁寧な説明に、水龍ちゃんはふむふむと理解を深めてゆきました。


 もちろん、美肌ポーションの購入費用も書かれていて、いろいろ試算した結果から仮に決めたのだそうです。


「なるほど、美肌ポーションの値段が化粧水の価格に直結するということね」

「まぁ、そういうことだが……」


 水龍ちゃんの言いように、ミランダさんが、何か嫌な予感がするのか眉根を寄せて答えました。


「それじゃぁ、もっと安くしましょう!」

「安くって、これより安くするのもなぁ……。ってか、普通は、もっと高く売ろうとするもんだぞ?」


「でも、化粧水が安く買えれば、お姉さん達も喜ぶわ」

「いや、そうだけど、そうじゃない。そこはだな、――」


 水龍ちゃんが、美肌ポーションを安くして化粧水を安く売ろうと言い出すと、ミランダさんは、よくわからないことを口走りながらも説明を続けました。


 ミランダさんが言うには、美肌ポーションの価値に対して、提示した金額でも十分に安いくらいだとのことで、何とか水龍ちゃんを説得するのでした。

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