第173話 イベント告知

 久しぶりにのんびり休暇を満喫する水龍ちゃんとトラ丸は、午前中は図書館で本を読みふけり、お昼を前にハンターギルドへとやって来ました。


「アーニャさん、こんにちは」

「あら、水龍ちゃん、いらっしゃい」

「なー」

「ふふっ、トラ丸もいらっしゃい」


 お仕事中のアーニャさんを見つけて声を掛けると、アーニャさんはにっこり笑顔を返してくれました。


 アーニャさんの横には丸めたポスターの入った袋が置かれていて、目の前の壁には貼られたばかりのイベントポスターがありました。


「いよいよですね」

「ええ、噂は流れていたようだけど、これで正式に告知したことになるわ」


 水龍ちゃんが、ポスターを見ながら話し掛けると、アーニャさんが、にっこり笑顔で答えてくれました。


 ポスターには、ババーンと大きく猫の手印と『猫の手カップ』のタイトル文字が書かれていて、謳い文句が続いています。


 さらに、『優勝賞品は、話題のヒールポーション1ケース!』と、ヒールポーションの絵と共にバーンと書かれており、その下に猫の手カップの簡単な説明が記されていました。


 また、隣のポスターには、『ハンターキングを当てろ!』の謳い文句で投票券販売のポスターが貼られています。


「今日からエントリー受付を開始して、10日後にイベントスタートよ」

「みんな参加してくれるといいですね」


 アーニャさんが、腰に手を当て、ポスターを見ながらイベントスケジュールを話すと、水龍ちゃんが、にっこり笑顔で多くの参加を期待しました。


 そこへ、背後からどこかで聞いた声が聞こえてきました。


「水龍ちゃんじゃありませんか!」

「ん?」


 ポムさんの声がして、水龍ちゃんが振り向けば、なんだか嬉しそうな顔のポムさんと、なんか申し訳なさそうな顔のフランさんが、近づいてきました。


「ここであったがこんにちは! さっそくですが、ヒールポーションを安く売ってください!」

「えーっと……」

「ぅなぁ……」


 ポムさんが、挨拶からのお願い攻撃?を打ち出すと、水龍ちゃんとトラ丸は苦笑いです。


「もう、ポムったら、急にそんなこと言わないの。水龍ちゃんが困ってるじゃない」

「そんなこととは何ですか? ヒールポーションが発売されたと聞いて、街中のお店を回ってみても、どこにも売ってないのですよ! しかも予約でいっぱいな上に、べらぼうな価格を叩きつけられてしまうのですから、もう水龍ちゃんから直接買うしかないじゃないですか!」


 フランさんが止めに入るも、ポムさんのフラストレーションが爆発してしまったようです。そんな2人の姿に苦笑いの水龍ちゃんとトラ丸の隣から、アーニャさんがすっと一歩前へ出ました。


「そんなポムさんに朗報ですよ。こちらの猫の手カップに参加してみませんか?」

「何ですか? それ……」


 アーニャさんが、にっこり笑顔でポスターを指し示すと、ポムさんは、ちょっと不機嫌そうに問い返しました。


「素材獲得競争イベントですよ。優勝パーティーには、ヒールポーション1ケースが進呈されます」

「な、なんと!? そんな素晴らしいイベントが!?」


 アーニャさんの説明に、ポムさんは目を見開いて食い入るようにポスターを見つめました。フランさんも一緒にポスターを見つめています。


「ようし! 私たちも参加しますよ! 素材を獲得しまくって、優勝商品のヒールポーションを頂くのです!!」

「いや、取り合えずリーダー達と相談しましょうよ」


「そんな必要ありません! さぁ、すぐにエントリーしましょう!」

「ちょ、ちょっと待ってー!!」


 ポムさんとフランさんが、賑やかに受付へと向かって行きました。


「ポムさん、無謀な突撃したりとかしないよね?」

「大丈夫よ。パーティーのリーダーがアイアンクローで止めてくれるわ」


「それはそれで……」

「なー……」


 心配そうに見送りながら呟いた水龍ちゃんに、アーニャさんが、にっこり笑顔で大丈夫だと教えてくれましたが、アイアンクローと聞いて、やっぱり心配そうな水龍ちゃんとトラ丸なのでした。





 それから水龍ちゃんとトラ丸は、アーニャさんを誘ってお昼ご飯を食べに近くのレストランへと入りました。


「やっぱり、ここのチーズハンバーグはおいしいわ」

「メンチカツも美味しいわよ」

「な~♪」


 水龍ちゃんはチーズハンバーグ、アーニャさんはメンチカツを食べてご機嫌です。そして、トラ丸は2人から取り分けてもらい、両方を味わって大満足です。


「イベントの飾りつけとかは、これからですか?」

「ええ、午後からギルドの1階部分を大々的に飾り付けるわよ」


 水龍ちゃんが話を振ると、アーニャさんが、にっこり笑顔で答えてくれました。


「手伝います!」

「なー!」

「ふふっ、ありがとう。だけど、ギルド職員でもない水龍ちゃんに手伝ってもらうのもなんだか悪いし、水龍ちゃんも忙しいでしょ?」


「大丈夫です。私も主催者側だし、今日は午後からの予定はないですから」

「なー!」

「そお? なら、少し手伝ってもらおうかしら」


 こうして、水龍ちゃんとトラ丸は、アーニャさんと一緒にハンターギルドへ戻って飾りつけを手伝いました。


 ハンターギルド1階に特設ブースを作って、大々的に優勝トロフィーやメダルを飾りつけ、エントリーパーティーの得点を表示する大きなボードも用意されるなど、なかなか気合が入っていました。


 水龍ちゃんとトラ丸は、アーニャさんをはじめとしたギルド職員達と一緒に、猫の手印の描かれた旗を特設ブース周辺に飾りつけるのを手伝いました。


 ときおり、ハンター達が近寄って来て、ギルド職員にイベントについて話を聞いていました。やはり、ハンター達は、お祭り好きなのでしょう、みんな猫の手カップを歓迎していたようでした。

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