3.水龍ちゃん、新商品の販売開始です
第171話 発売初日
水龍ちゃんは、猫の手カップのイベントグッズを考案したり、飾りつけの備品制作を頼んだりと忙しい日々を過ごしていました。
そんな中、ハンターギルドに依頼していたヒールポーション効果の追加確認が完了して、いよいよヒールポーションの競売が開始されることとなりました。
ヒールポーション発売初日のお昼過ぎ、ダンジョン帰りの水龍ちゃんは、トラ丸を連れて商業ギルドを訪れました。その手には、布で包んだヒールポーション入りの特大瓶が抱えられています。
いつものように101番窓口へ行くと、ちょうどシュリさんが立っていて、軽く挨拶をしてから、水龍ちゃんは作ったヒールポーションを納品しました。
その後、シュリさんから競売の結果を伝えるのでと言われて応接室へと案内されました。
「あたしが商業ギルドのギルドマスター、プリンだー!」
プリンちゃんが、応接室の扉をバーンと開けて、元気に名乗りを上げて入ってきました。そして、軽く挨拶を交わすと、水龍ちゃんの隣へドカッと腰掛けました。
「こちらが、ヒールポーションの競売落札価格です」
「やっぱり、高値が付いたぞー!」
シュリさんが、さっと落札結果を記した書面を差し出すと、プリンちゃんが嬉しそうに言いました。
「うわっ! こんなに高く!? 予想以上だわ……」
「なー!」
書面を見てびっくりする水龍ちゃんの膝の上で、トラ丸がドヤ顔で胸を張って見せました。
「新しいもの好きの連中が多いのだろうなー! あっという間にハイポーションの取引価格を超えたぞー!」
「そんなに!?」
プリンちゃんが、実に楽し気に競売の様子を話すと、水龍ちゃんが、目を見張って驚きました。
ハイポーションと同額程度で落ち着くのではないかと、以前シュリさんと話していたので、予想以上の高値が付いた結果だったのです。
商人たちからは、早くも増産して欲しいという要望が上げられたそうですが、生産の都合でそう簡単にはいかないと説明しておいてくれたとのことです。
「あとは、薬師ギルドがどう出てくるかだなー!」
「はっ!? また高額請求してくるとか!?」
「ぅな!?」
プリンちゃんの言葉に、水龍ちゃんが、はっとして声を上げました。先日の高額賠償請求がトラウマになったのでしょうか、顔を真っ青にしています。
そんな水龍ちゃんにつられて、トラ丸もびっくりしたように鳴き声を上げ、どうしよう、という感じでうろうろしています。
「水龍様、ご安心下さい。先日の一件より、商業ギルドと裁判所の間で情報交換を密に行っておりますゆえ、今後、裁判所を通じて水龍様に高額請求が行われることは、まずありえません」
シュリさんが、水龍ちゃんを安心させようと再発防止に取り組んでいることを教えてくれました。何も言わずとも既に対策が取られているあたり、商業ギルドは頼もしいです。
水龍ちゃんが、少し安心したように、ほっと息を吐いて胸をなでおろすと、トラ丸も落ち着きを取り戻したようです。
「薬師ギルドの連中が、ヒールポーションの発売を知って、どんな顔をしているのか見てみたいなー!」
「この革命的なポーションに全く関与できていないのですから、さぞや悔しがっていることでしょうね」
「水龍ちゃんに酷いことしたから、さっそく罰が当たったなー!」
「そのようですね」
プリンちゃんとシュリさんが、いい笑顔で薬師ギルドのことを話しています。先日の高額請求の件で2人とも薬師ギルドに対していろいろ思うところがあるようです。
そして、夕刻、いつものようにお姉さん達が集まって来て美発部の開催です。
「水龍ちゃん、ヒールポーション発売おめでとう!」
「「「「おめでとう!」」」」
お姉さん達は、みんな、まるで自分のことのように嬉しそうにヒールポーションの発売を祝ってくれました。
「えへへ、ありがとうございます」
「なー!」
はにかみながらお礼を言う水龍ちゃんの隣では、トラ丸が、どうだ! とドヤ顔で胸を張っていました。おばばさまもミランダさんも微笑ましく見つめています。
「だけど、今日の薬師ギルドはピリピリしてたわね」
「ギルマスが荒れていたそうよ」
「なんで?」
「そりゃぁ、噂のヒールポーションが売りに出されたからよ」
「ギルマス、知らなかったらしいわ」
「で、高値がついたって聞いて、激怒してたそうよ」
「うわぁ……」
お姉さん達は、今日の薬師ギルドのようすを口々に話し出しました。みんな薬師ギルドで働いているのですが、部署が違ったりしているため、美発部は情報交換の場にもなっているのです。
「くくくっ、ダクラカスの奴め、いい気味じゃわい」
「まったくだ。あいつが水龍にしたことを思えば、まだまだ足りないくらいだな」
おばばさまとミランダさんが、薬師ギルドマスターに対して厳しいことを言っていますが、まぁ、これまでの行いを考えれば無理もないでしょう。
「そういえば、裁判官の話は聞いておるかの?」
「ああ、水龍に法外な賠償請求の令状を出した裁判官が、姿をくらましたっていう話だろう?」
「そうじゃ。おかげで、異議申し立ての審査が滞っておるそうじゃ」
「経緯を知っている人間がいないんじゃぁ、そうなるのも無理はないな」
おばばさまとミランダさんは、裁判所の動向の話を始めました。水龍ちゃんが、高額請求された件に関する話なのですが、どうやらその中心人物が行方不明となっているようです。
「まさかとは思うのじゃが……」
「さすがに、そこまではな……」
おばばさまとミランダさんは、眉間に皺を寄せて、考えたくないことを想像してしまっているようでした。
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