第170話 イベントグッズ

 高額請求イベントを何とか乗り越えた水龍ちゃんは、なんだか懐が心許ないと言って、ヒールポーション作りの前に素材を採ってみたのですが、やはり、特大瓶が邪魔で仕方がありません。


 高値の魔物を捕まえて、魔物ショップへ売るのが一番懐が潤うのですが、魔物ショップも仕入れた魔物を捌くのが大変なので、毎日とはいかないです。


 そこで、水龍ちゃんは、特大瓶を背負えるようなバックパックを特注しようと、今日は、午後からソレイユ工房へとやって来ました。


「こんにちはー」

「なー」

「あっ、トラ丸ちゃん! いらっしゃーい!」


 水龍ちゃんとトラ丸が、元気に挨拶をしながら工房をのぞき込むと、ニーナさんがトラ丸目当てに飛び出してきました。ニーナさんは、相変わらずトラ丸を見るとテンションが上がるようです。


 工房の奥のテーブルには、サラさんとアーニャさん、そしてミリアさんの姿がありました。何か打ち合わせをしているようでしたが、水龍ちゃんに気付いたアーニャさんがにっこり笑顔で手招きしてきました。


 水龍ちゃんは、招かれるまま、奥のテーブルへと向かいます。


「こんなところで水龍ちゃんに会うなんて、びっくりだわ」

「カバンを作って欲しいなって思って、相談に来たんです」


「カバン?」

「ええ、実は、――」


 アーニャさんとの会話の流れで、水龍ちゃんは、特大瓶を持ち運ぶために丈夫なバックパックが欲しいこと、売ってないなら作ろうと考えて相談に来たのだと説明しました。


 サラさんは、水龍ちゃんのバックパック作りを歓迎してくれて、あとで詳しく打ち合わせようと言ってくれました。


「それでね、私達、猫の手カップの優勝カップを作る打ち合わせをしてるんだけど、水龍ちゃんの意見を聞かせてもらえないかしら?」

「ん? 私の意見ですか?」


「ええ、水龍ちゃんも主催者側ですからね。猫の手印をアピールするためにも是非意見を聞きたいわ」

「そういうことなら喜んで」


 アーニャさんとの話で水龍ちゃんも打ち合わせに参加することになりました。


 テーブルの上には、いろいろな形の優勝カップのデザイン画が並べられています。どれも猫の手印がデザインされていて、宣伝効果は抜群だと思えます。


 ちなみに、猫の手像のトロフィーをという案もあったのですが、ハンター達は勝利を祝う際に鍋とか大きなお椀を使って酒盛りをする習慣があるとのことで、優勝カップをトロフィーとして贈呈することにしたそうです。


 あのデザインが良いだのこのデザインが魅力的だのと盛り上がりましたが、最後は鶴のひと声ならぬトラ丸のひと鳴きで優勝カップのデザインが決まったのはご愛嬌でしょう。


 優勝カップのほかに、メダルを贈呈する予定です。優勝パーティーには金色、2位のパーティーには銀色、3位のパーティーには銅色のメダルをパーティーメンバーの数だけ贈呈するのです。


 ミリアさんが、メダルのデザイン画も描いてきていて、テーブルに広げて比較します。メダルには、当然、猫の手がデザインされていて、メダルの形も丸とか八角形とか種類があって、さらにリボンのデザインが違っていたりと見ていて楽しいです。


「あー、私も可愛い猫の手メダルが欲しいなー」

「そうですねー。私もこんなのあったらいいなーって描いてみましたー」


 ニーナさんとミリアさんが、メダルのデザイン画を眺めながら、ほんわかした顔で言いました。


「そうだわ、記念のメダルを作ったらどうかな? 猫の手のデザインかわいいし、きっと売れるわよ」

「そんなこと言って、ニーナが買いたいだけだろ?」


 ニーナさんが記念メダル作りを提案すると、すぐにサラさんが、呆れた顔で突っ込みました。


「もちろん私も買うわよ。だってかわいいもん」

「あ、私も欲しいかな」


 ニーナさんが当然とばかりに購入意欲を示すと、ミリアさんも欲しいと言います。2人とも可愛いものに目がないようです。


「あのなぁ、2人とも簡単に言うけど、どれだけ売れるのか分からないものを、ほいほいと作るわけにはいかないだろ? 見込みが外れて大量に売れ残ったら大赤字だからな」

「むぅ、そうだけど……」


 サラさんが窘めるように正論を言うと、ニーナさんは口先を尖らせて不服そうでしたが言葉が続きません。ミリアさんも苦笑いです。


「記念グッズもいいけど、宣伝も兼ねて何か飾りつけが欲しいわね」

「ポスターとか旗とか作りますか?」


 アーニャさんが、飾りつけの話をすると、すかさずミリアさんが、ポスターと旗を提案しました。


「旗もいいわね。小さめのかわいいやつを机の上に飾りたいわ」

「また、ニーナは……」


 ニーナさんの声に、サラさんが呆れ顔です。


「ふふっ、メダルはどうかと思うけど、旗とか記念グッズは作ってもいいかもしれないわね」

「数はどうするんだ?」


 水龍ちゃんが微笑みながら記念グッズについて意見すると、サラさんがちょっと驚いた顔つきで問いました。


「見本を用意しておいて、注文を受けてから作ればいいと思うわ」

「なるほど、受注生産か。それなら大量の在庫が余るということはなさそうだが、そこまでして買う人がどれくらいいるかだな……」


 水龍ちゃん意見に、サラさんは、やはり心配そうです。


「別に売れなくても構わないわよ。せっかくのイベントなんだから、少しでも盛り上がればいいなと思ってね」

「さすが、水龍ちゃんね! 私もかわいいイベントグッズをたくさん考えるわね!」

「私も、私も!」


 水龍ちゃんが、にっこり笑顔で儲けよりもイベントの盛り上げが目的だと言うと、ニーナさんが、キラキラした眼差しで、イベントグッズのアイデアを出すと言い出して、ミリアさんも続きました。


 その後、メダルのデザインを決めてしまうと、飾りつけの話とイベントグッズの話で盛り上がるのでした。


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