第169話 一段落

 裁判所にて薬師ギルドへ対する高額な損害賠償請求の支払いを終えて、ほっとした水龍ちゃん達は、青龍銀行の支店長さん達と別れて、おばばさまの家へと場所を移しました。


 来てくれたのは、プリンちゃん、シュリさん、ミランダさんで、おばばさまと水龍ちゃん、そしてトラ丸を交えて今後の対応を話し合うようです。


「水龍様、お疲れ様でした」

「とりあえず、水龍ちゃんの高額請求イベントも一段落だなー!」


 シュリさんが、水龍ちゃんに労いの言葉を掛けたのに続き、プリンちゃんが、にこにことイベント一段落発言をしました。しかし高額請求イベントとはよく言ったものです。


「みんな、ありがとう。だけど、こんなイベント、もう懲り懲りよ」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸が、笑顔でみんなにお礼を言いました。

 おばばさまとミランダさんも微笑んでいます。


 それからしばらく裁判所での出来事について話をしました。

 途中で現れた上級裁判官についてですが、予めプリンちゃんの指示でシュリさんが傍聴するように頼んでいたのだそうです。


「裁判所の中に怪しいやつが居るのは確実だったからなー! こちらも信頼できる人間に見張っていてもらったのだー!」


 そう言って、プリンちゃんは胸を張っていました。

 今後、あの上級裁判官が中心になって、今回の賠償金支払い令状に関する異議申し立ての審査を進めてくれるだろうといいます。


 シュリさんの調べでは、そもそも水龍ちゃんの新型治癒ポーションは、特許申請中と明確に示した上で製造販売しており、特許を取れなかったと知った時点で製造販売を中止したため、この国の法律では特許侵害に当たらないはずなのだそうです。


 したがって、今回支払った多額の賠償金は、その全額が返ってくるのではないかといいます。


 では、なぜ、薬師ギルドが高額な賠償金の請求をしてきたかということに話は移ってゆきました。あとで返金となる可能性が高いのにです。


「おそらくは、1級ポーションを作る秘訣を探ろうということじゃろうかのう」

「そんなのあるのかー?」


 おばばさまの推測に、プリンちゃんが首を傾げて問いました。


「無いじゃろうな。じゃが、ダクラカスなら、何かあるのではと考えそうじゃ」

「確かに。奴は、水龍のことを子供と侮っていたからな。子供が作れるのに他では作れないのは、レシピに書いていない何かがありそうだと考えたわけだな」


 おばばさまが考えを述べると、ミランダさんが、分かりやすくダクラカスの心理を推察しました。2人ともダクラカスのことをよく知っているようなので、ありえそうな話なのでしょう。


 そんなこんなで、いろいろ話しましたが、当面は、異議申し立ての審査状況をシュリさんが時々確認してくれることになりました。また、商業ギルド側で、薬師ギルドの情報を今以上に詳しく集めることにするそうです。


「話は変わりますが、近いうちにヒールポーションの競売を始めたいと思います。水龍様、いつごろから納品が可能でしょうか?」


 シュリさんが話題を変えてきました。現在、ハンターギルドによる追加のヒールポーション効果の確認が行われていて、もうすぐ結果の報告が来るはずですから、その後すぐに競売を開始するつもりなのでしょう。


「昨日、特大瓶1本分作って来たけど、持っていきますか?」

「なんと、既に作っていたのですか。もちろん受領させて頂きます。それと、今後は家に保管せずに商業ギルドへ直接お持ちください。セキュリティー強化の一環です」


「へっ? セキュリティー?」

「ええ、実はですね、――」


 突然、セキュリティー強化の発言を受けて、水龍ちゃんがオウム返しに首を傾げると、シュリさんは詳しく理由を話してくれました。


 商業ギルドでは、ヒールポーションは治癒効果の高さから貴重な品であることに加えて、これは水龍ちゃんしか作れないので、万全の態勢で売り出すために盗難などに対するセキュリティー強化を実施することにしたそうです。


 まず、水龍ちゃんの身の安全は、まぁ、不要だとして、在庫の保管は、すべて商業ギルド内とし、特大瓶から小瓶への移し替えも商業ギルド内で実施する体制にするといいます。


 なので、水龍ちゃんには、作ったヒールポーションは、すぐに商業ギルドへ納品して欲しいというのです。ただし、ハンターギルドのイベント用など売りに出さない分については、水龍ちゃんの判断で納品しなくても良いということです。


「なるほど。私が不在の時に、盗賊団が家を襲うかもしれないということね。それは大変だわ」

「ぶわっはっはっはー! 水龍ちゃんらしい例えだなー! だけど、そういうことだから、よろしくなー!」


 水龍ちゃんが、自分なりの解釈を示すと、プリンちゃんが大笑いしました。

 家には、既に水龍ちゃんが採ってきた貴重なレア素材がたくさん保管してあるのですが、そこは誰も気にしていないようです。


「ヒールポーションの競売が始まると、次は、ハンターギルドのイベントだなー!」

「優勝トロフィーを授与することにしたようですよ。先日、うちのミリアがトロフィーのデザインを請け負うことになりました」


 プリンちゃんが話題を変えると、シュリさんが、嬉しそうに優勝トロフィーの話を聞かせてくれました。ミリアさんは、猫の手印のシンボルマークをデザインしてくれた商業ギルドの女性職員です。


「素敵なトロフィーが出来そうね。楽しみだわ」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、次のイベントへ向けて思いを馳せるのでした。

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