第167話 お金を貸して!

「ええっ!? 白金貨がこんなに!? ぜ、全財産出しても足りないわ!」


 高額請求金額を見て、水龍ちゃんは、金額の多さに顔を真っ青にして叫びました。トラ丸が、すぐ隣で、どうしたらいいのかとおろおろしています。


「さすがの水龍ちゃんでも無理だったかー……」

「まぁ、普通は無理だよなぁ……」

「信じられん金額じゃからのう……」


 プリンちゃん、ミランダさん、おばばさまが、残念そうに呟きました。


「水龍ちゃん、足りない分は、あたしの預金を使ってもらっていいぞー!」

「そうだな。私の預金も使ってもらおう」

「わしの分もな」

「みんな……、ぐすっ、ありがとう」

「なー」


 プリンちゃんを筆頭に自分たちの預金を使ってくれという皆の言葉に、水龍ちゃんは瞳を潤ませてお礼をいいました。


「それでも足りない分は、銀行から借り入れできないか相談しよー!」

「そうじゃな。何としても金をそろえて薬師ギルドの思惑を跳ね返してやるのじゃ」

「プリンちゃん、ばばさま……。ぐすっ、そうね、私、頑張るわ!」

「なー!」


 プリンちゃんとおばばさまの言葉に励まされたのでしょう、水龍ちゃんは涙をぬぐって頑張ろうと決意しました。トラ丸も、がんばるぞー! と意気込みを見せます。


 水龍ちゃんは、準備をすると言って部屋にため込んでいたお金をすべて持ち出してきました。銀行口座を開設する前に稼いだお金で、そこそこの金額があります。


 それから、皆で青龍銀行へと向かいました。


「ところで、どれくらい足りなそうなんだー?」

「う~ん、魔物ショップからの入金が……、あーっ!!」


 青龍銀行へ向かう途中、プリンちゃんと話していると、水龍ちゃんが、何かに気づいたのでしょう、大きな声を上げました。


「どうしたのだー?」

「そういえば、以前、ミノタウロスを捕まえたとき、魔物ショップのお爺さんにオークションに出すからって言われて、その入金がそろそろだったと思うわ」


「おー! オークションかー! 高く売れてるといいなー!」

「そうね! でも、まだまだ足りなそうだわ……」


 オークションの入金について思い出し、希望が湧いてきたように思えましたが、水龍ちゃんの見込みだと、まだまだ足りていないようです。




 青龍銀行へ着くと、水龍ちゃんは、すぐに口座残高を確認しました。


「魔物ショップから入金が入ってるわ! ミノタウロスが思ったよりもずっと高く売れたみたい」

「おおー! よかったなー!」


「だけど、やっぱりお金が足りないよぉ、プリンちゃん、お金貸してもらっていいかなぁ……」

「お、おおー! ま、任せとけー! ど、ど、どれくらい足りないんだー?」


 オークションの入金が思ったより多かったようですが、やはり請求金額には届かなかったようで、涙目でお願いしてくる水龍ちゃんに、プリンちゃんは、珍しく緊張したようすで不足金額を確認します。


 プリンちゃんには、いったいどれだけの金額が不足しているのか分かりませんし、白金貨数枚にもなると、さすがに無理でしょうから緊張するのも無理はありません。


 おばばさまとミランダさんも息をのんで見守ります。


「ぐすっ、金貨5枚足りないの」

「「「へっ?」」」

「ぅな?」


 水龍ちゃんの言葉に、皆、呆けた声を漏らしました。トラ丸も頭にはてなを浮かべて小首を傾げます。


「お願い! プリンちゃん、金貨5枚貸して!」

「白金貨5枚じゃなくて、金貨5枚なのかー?」


 水龍ちゃんが、プリンちゃんの手を取って、再び涙目でお願いすると、プリンちゃんは目をぱちくりさせて問い返しました。


 水龍ちゃんは、こくり頷きました。やはり、金貨5枚ほど足りないようです。


「ぶわっはっはっはー! 金貨5枚くらい、いつでも貸すのだー!」

「やれやれ、そのくらいなら家に置いてある素材を売れば良いだけじゃな」

「ってか、あの金額をほぼ払えるだけの預金があるのか……」


 プリンちゃんは大声で笑いだし、おばばさまは胸をなでおろして、すぐにでも稼げると言い、ミランダさんは、水龍ちゃんがそんな大金を持っていたことに驚いていました。


「何とかなりそうかなぁ……」

「ぅなー……」

「大丈夫だぞー!」

「奴隷落ちにはならずに済むな」

「うむ、最悪の状況は回避できそうじゃ」


 心配そうな水龍ちゃんとトラ丸に、プリンちゃん、ミランダさん、おばばさまは元気づけるように明るい笑顔で言葉を掛けました。


「よかったー」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、みんなの言葉にほっと胸をなでおろし、ちょっと笑顔を取り戻しました。


「ふはははははー! ここから反撃開始だぞー!」

「まずは、異議申し立てだな」

「不当に高額な金額を是正して金を取り戻すのじゃ」


 プリンちゃん達は、すでに戦闘モードに入ったようで、やる気満々です。


 すぐにプリンちゃんは、青龍銀行の支店長を呼び出し、事情を話して裁判所からの支払い令状への対応を話し合いました。


 この国では、裁判所の支払い令状が出た場合、指定の日時に裁判所で支払い手続きを行うことになっています。今回の場合だと、賠償金の請求をした薬師ギルドと、請求された水龍ちゃんが、明日、裁判所へ出頭して、裁判官の立ち合いの下に賠償金の支払い手続きをするのです。


 裁判所へは、第三者の同行も許されているため、今回、プリンちゃんは、青龍銀行の支店長に同行と手続きの代行をお願いしていました。銀行では、こういった支払い手続きの代行業務を引き受けていて、それなりの料金は掛かりますが、安心して任せられます。


 不足していた金貨5枚と支払い手続き代行料金については、水龍ちゃんがダンジョンから取ってきたレア素材の在庫がたくさんあるので、この後、すぐに商業ギルドで買い取ってもらい、水龍ちゃんの口座へ振り込んでもらいました。

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