第166話 高額請求

 ダンジョンから帰った水龍ちゃんは、プリンちゃんから高額請求が来たと聞いて驚きの声を上げたのでした。


「ど、ど、ど、どうしてそんなことにぃぃぃ???」

「水龍ちゃんってば、ちょっと落ち着こうなー!」


「な、な、な、ぅなー???」

「トラ丸も落ち着こうなー!」


 狼狽える水龍ちゃんとトラ丸に、プリンちゃんが落ち着かせようと声を掛けます。プリンちゃんの後ろでは、おばばさまとミランダさんが心配そうな顔をしています。


「とりあえず、深呼吸をするのだー!」

「すー、はー、すー、はー」

「ふー、なー、ふー、なー」


 プリンちゃんから促されるまま、水龍ちゃんとトラ丸は、深呼吸をして少し落ち着いたようです。


「詳しい話は、お茶を飲みながらするぞー!」

「うん。プリンちゃん、ありがとう」

「なー」


 プリンちゃんの言葉に、水龍ちゃんとトラ丸は、お礼を言いながらリビングのソファーへと座りました。


 おばばさまが入れてくれた気持ちが落ち着くハーブティーを飲んで、水龍ちゃんとトラ丸は、ほっと息を吐くことが出来ました。


 そして、詳しい話は、まず、おばばさまが話してくれました。


 おばばさまの話によると、今朝、水龍ちゃんとトラ丸がダンジョンへ向かった後、薬師ギルドの新ギルドマスター、ダクラカスの取り巻きの男が水龍ちゃんを訪ねて来たそうです。


 水龍ちゃんは不在だと言うと、彼は、請求書だと言って封書を手渡してきたといいます。おばばさまが、請求される覚えはないと突っぱねようとしたところ、男は懐から裁判所の令状を出して見せ、裁判所も認めた正式な請求だと鷹揚に告げて帰って行ったというのです。


 おばばさまは、請求書の確認が必要だと思い、水龍ちゃんに悪いとは思いながらもすぐに封書を開けて書状を確認したところ、なんと、以前、水龍ちゃんが作って販売していた1級ポーションが特許侵害に当たるため、その損害賠償金を支払えという内容だったそうです。


 これについては、前薬師ギルドマスターのミランダさんから、薬師ギルドの幹部であるダクラカスが不問にすると明言したと聞いていたので、まさかの展開です。


 しかも、相当高額な金額だったため、おばばさまも抱え込むのはまずいと思って、すぐに商業ギルドへ駆け込んだということでした。


 それから先はプリンちゃんが話してくれました。


 おばばさまから話を聞いたプリンちゃんとシュリさんは、憤りながらもすぐに事実確認へ動いたそうです。


 まずは、裁判所へ出向き、令状が出されていたことを確認すると、異議申し立てによる令状の効力一時停止について問い合わせたそうです。しかし、手続きに時間が掛かるだろうと言われ、さらには、改めて本人または本人の承諾した代理人により手続きをするよう告げられたそうです。


 次に、ミランダさんを訪ねて事情を話し、直接ダクラカスに抗議しようと一緒に薬師ギルドへ向かったそうです。しかし、ダクラカスに面会を求めたところ、取り巻きが出てきて門前払いをされた上、裁判所の令状を盾に、文句があるなら裁判所を通じて異議を申し立てるよう通告されてしまったというのです。


 そして、現在、金策について話し合っていたということです。ちなみに、シュリさんは、商業ギルドで異議申し立ての書類作りをしてもらっているそうです。


「問題はだなー! 高額な賠償金額の支払い期日は明日ということだー! そして払えなかった場合は奴隷落ちして薬師ギルドに引き取られるってところだなー!」

「ええええっ!!!? 高額請求の期限が明日で奴隷になっちゃうの!?」


 ここまでの経緯を話し終え、プリンちゃんが当面の問題点を簡潔に話すと、水龍ちゃんがパニック気味に叫びました。


「水龍ちゃんってば、落ち着こうなー! よく分かんないことを言ってるぞー!」

「はっ!? そうね、落ち着かなくちゃ! すー、はー、すー、はー」

「ふー、なー、ふー、なー」


 プリンちゃんに宥められ、水龍ちゃんは、はっとして、深呼吸をして落ち着こうと試みます。トラ丸も隣で一緒に深呼吸です。


 おばばさまは、こんなに取り乱すのは初めてじゃ、と心配そうに小さく呟き、ミランダさんも心配顔です。


「普通に考えて、裁判所がこんな令状を出すのはありえないのだー!」

「そうじゃな。異常に高い賠償金額に極端に短い請求期限じゃ、裁判所がまともに審査したとは思えんわい」

「裏で汚い真似をしてるのだろうな。薬師ギルドは、水龍を奴隷落ちさせて拘束する気なのだろう」


 プリンちゃん、おばばさま、ミランダさんが、今回の件、薬師ギルドが汚い手を使って動いているのだろうと話します。


「腹が立つことに、異議申し立てが間に合わないんだなー!」

「今すぐに異議申し立てをして令状の効力一時停止を求めても、明日までに手続きが完了しないだろうからな。一時的に水龍は奴隷落ちになり、薬師ギルドに拘束されることになる」

「まったく悪辣な手を使いよるもんじゃわい」


 プリンちゃんとミランダさんが、事の難しさを話すと、おばばさまが眉間に皺を寄せて薬師ギルドを非難しました。


「つまりだなー! 水龍ちゃんが奴隷にならないためには、明日、支払いをするしかないのだー!」

「水龍、この金額なのだが、支払えそうか?」


 プリンちゃんが当面の対策を示すと、ミランダさんが賠償金額の書かれた書面を水龍ちゃんに手渡して問いました。


「ええっ!? 白金貨がこんなに!? ぜ、全財産出しても足りないわ!」


 恐る恐る書面を見た水龍ちゃんは、金額の多さに顔を真っ青にして叫びました。トラ丸が、すぐ隣で、どうしたらいいのかとおろおろしています。


 プリンちゃんもミランダさんもおばばさまも、皆、さすがの水龍ちゃんでも無理だったかと残念そうに肩を落とすのでした。

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