第165話 問題点

 ダンジョンのお花畑で特大瓶1本分のヒールポーションを作った水龍ちゃんは、少し早めの昼食を食べることにしました。


 今日のお弁当は、魚の佃煮を具にしたおにぎりを主食に、唐揚げをメインとしたおかずの詰め合わせです。もちろん、たこさんウインナーも入っていて、野菜で彩を加えてあります。


「いただきまーす」

「な~♪」


 水龍ちゃんとトラ丸は、いただきますをしてお弁当を食べ始めます。ヒールジカちゃん達もいただきますに合わせて可愛らしく首を縦に振り、近くに生えているヒール草をむしゃむしゃと食べ始めました。


「やっぱり、大きな錬金釜の方がたくさん作れるわね。特大瓶1本だけなら午前中だけで十分だわ」

「なーなー」


「もっといっぱい作ればいいのにって? う~ん、特大瓶をたくさん運べるといいのだけど、難しいのよね」

「なー」


 トラ丸は、そっかー、とのんきに返して、おにぎりをもぐもぐします。


 今回、水龍ちゃんは、特大瓶を1本だけ抱えて持ってきました。いつも使っているバックパックには、特大瓶はうまく収まらなかったのです。


 ヒールポーションは、採れたてのヒール草で作らなければならないため、どうしても群生地で作らないとならないのです。そのため、ヒールポーションをどうやって運ぶのかが大量生産する上での問題となるのです。


「なーなー」

「ん? お昼からは魔獣を捕まえようって? あー、残念だけど、魔獣を捕まえても運べないわ」


「ぅな?」

「どうしてって? だって、特大瓶を抱えて運ばないとならないから魔獣が持てないのよ」


「うなっ!? なー!!」

「ふふっ、そうよ、大問題なのよ」


 トラ丸にとっては、魔獣を捕まえるのが楽しみなのでしょう、魔獣が持てないと理解してトラ丸が、大変だー! と目をまん丸にして叫ぶと、水龍ちゃんは微笑みながらそうなのよと強調しました。


「もっと大きなカバンがあればいいんだけど、それでも、中で錬金釜とぶつかって割れそうなのよね」


 水龍ちゃんは、おにぎりを食べながら呟きました。


「なーなー」

「専用のカバンを作ればいいって? う~ん、それもありかも。サラさんに相談したら、いいものを作ってくれるかもしれないわね」


「なー」

「そうね、特大瓶を2本とか3本とか入るカバンを作ってもらうのもありだわ。そうすれば生産量を増やせるだろうし、いいことずくめね」


 そんな話をしながら、水龍ちゃんとトラ丸は、おいしくお弁当を食べるのでした。


 昼食を終えると、水龍ちゃんは、荷物をまとめにかかりました。特大瓶は、敷物にしていた布を巻いて紐で縛り付けます。こうしておけば、多少なりとも瓶が割れにくくなりますし、紐の部分を持つことができるようになります。


 水龍ちゃんは、バックパックを背負い、特大瓶を抱えて帰る準備を終えました。


「それじゃ、また来るわね」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸は、ヒールジカちゃん達に挨拶をすると、タタっと駆け出し、ひょいっと断崖絶壁を飛び降りました。


 お花畑のある岩山は、相当な高さがあるのですが、水龍ちゃんもトラ丸もいつも通りにすちゃっと着地しました。


「う~ん、着地の時にぐっと重みが掛かるわね。カバンを作るなら相当丈夫なものにしてもらわないと、肩紐が千切れてしまいそうだわ」


 水龍ちゃんは、悩まし気な顔で、これから作ってもらおうと考えているバックパックの心配をします。着地の衝撃だけで瓶が割れていてもおかしくないのですが、そこは気にしていないようです。


「なーなー」

「えっ? 飛び降りるときは、カバンを両手で持てばいいって? なるほど。確かにそれなら肩紐が千切れたりとかしなさそうね。ありがと、トラ丸。今日は冴えてるわね」


 トラ丸のアドバイスに、水龍ちゃんは、お礼を言ってトラ丸の頭を優しくなでなでしました。トラ丸は、目を細めて気持ちがよさそうです。


「さぁ、帰りましょ」

「ぅな?」


「もう帰るのかって? う~ん、特大瓶で手が塞がってるから魔獣は捕まえられないし、素材採りにもやっぱり特大瓶が邪魔よねぇ。まぁ、今日はおとなしく帰るとしましょ」

「なー」


 トラ丸が、どこか寄り道したそうにしていましたが、水龍ちゃんは、少し考えてから帰ることに決めました。トラ丸も、そっかー、とあっさりしたものです。





 水龍ちゃんとトラ丸が帰宅すると、お客さんが来ていたようです。


「おー! 水龍ちゃん、やっと戻ってきたかー!」

「こんにちは、プリンちゃん、何か用事なの?」

「なー!」


 待っていたとばかりに元気よく声を掛けてきたプリンちゃんに、水龍ちゃんは、挨拶がてら軽く用件を尋ねます。トラ丸は元気に挨拶です。


「おばばが、水龍ちゃんの大ピンチだっていうから対策に集まったんだぞー!」

「えっ? 私が大ピンチ? どういうこと?」

「ぅな?」


 プリンちゃんの話を聞いて、水龍ちゃんもトラ丸も頭にはてなを浮かべてしまいました。


「それがなー! 水龍ちゃん宛てに高額請求が来たんだぞー!」

「えええええっっっ!!!?」


 プリンちゃんから高額請求と聞いて、水龍ちゃんは、ものすごく驚いた声を上げるのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る