2.水龍ちゃん、イベントの重要人物です

第163話 イベント会議

 商業ギルドでヒールポーション販売について打ち合わせた翌日、水龍ちゃんとトラ丸はハンターギルドへ来ていました。プリンちゃんとシュリさんも来ていて、昨日の打ち合わせメンバーが応接室に集まっています。


「では、昨日話に上がった『狩猟祭』について打ち合わせたいと思います」


 アーニャさんの進行で打ち合わせが始まりました。まずは、確認ということで、アーニャさんの方から狩猟祭の概要が以下の通り示されました。


 ・主催は、水龍ちゃんとハンターギルド。

 ・入手難易度が高く不足しがちな素材の獲得競争イベント。

 ・素材に点数を付けて期間中に納めた素材の合計点数をパーティー毎に競う。

 ・具体的な素材の点数付けや、点数カウントなどの運営はハンターギルドで行う。

 ・開催期間は、20日程度とする。

 ・優勝者には、賞品としてヒールポーションを授与する。

 ・優勝賞品は水龍ちゃんが提供し、代わりに猫の手ブランドを大々的に宣伝する。


 ここまでは、誰も異論を唱えることはありませんでした。開催期間は、ダンジョン深くへ潜ることを考慮して決めたそうです。


 今日の打ち合わせはここからです。より良いイベントにするために、みんなで意見を出し合い、狩猟祭を盛り上げようというのです。


「まず、最初に議論したいのが、——」

「イベント名だなー!」


 進行役のアーニャさんの声を遮って、プリンちゃんが大きな声を上げると、ハンターギルドマスターとアーニャさんが、何で? と言う顔をみせました。


「いや、イベント名って『狩猟祭』だろ?」

「なんか味気ないと思ってなー! もっと、パーッとしたのが欲しいぞー!」


 ハンターギルドマスターが尋ねると、プリンちゃんは、あっけらかんと思ったことを言いました。


「はぁ……。イベント名よりほかに決めなきゃならないことがあるだろ?」

「名前は大事だぞー! インパクトのあるのが欲しいぞー!」


 ハンターギルドマスターが溜息交じりに言いましたが、プリンちゃんは譲らないようです。その傍らで、アーニャさんが思案顔です。


「では、『猫の手カップ』というのはどうかしら? これなら猫の手ブランドの宣伝にもなるし」

「なるほど、宣伝ですか。分かり易くていいですね」


 アーニャさんの宣伝アイデアに、シュリさんが賛同します。


「インパクトがいまいちだなー! 『ハンターキング決定バトル』とかどーだー? ハンター王に俺はなるー! とか、格好いいだろー!」

「それじゃぁ、宣伝になりませんよ」


 プリンちゃんもアイデアを出しますが、即座にアーニャさんが、苦笑いで突っ込みました。


 その後、にゃんこハンド選手権とか、猫の手ハンター王座戦などのアイデアが飛び交いましたが、結局、『猫の手カップ』として、『ハンターキング決定バトル、レア素材ハンティング大会』などと謳い文句を並べて宣伝することになりました。


 さらに、トロフィーを用意しようとか、メダルも作ろうなどと、イベントを盛り上げるためのアイデアが出ましたが、費用はどうする? となると、みんな口籠ってしまいました。


「それくらいは、ハンターギルドで出してはどうですか?」

「う、うむ、検討しよう……」


 シュリさんの声に、ハンターギルドマスターが、歯切れの悪い微妙な返事をしていました。


「う~ん……」

「水龍ちゃん、どうしたのだー?」


 水龍ちゃんの考え込む姿を見て、プリンちゃんが尋ねました。


「レア素材集めの競争だから参加できるパーティーは限られるわよね。そうすると今ひとつ盛り上がりに欠けるかなーって思うの」

「確かになー!」


 水龍ちゃんが思いを語ると、プリンちゃんも同意します。


「それは、どうしようもないな。力量の足りないハンター達には、いずれ参加できるように力を付けてもらうしかない」

「そうね。そもそもの目的がレア素材集めだから仕方がないわ」


 ハンターギルドマスターとアーニャさんは割り切っているようです。高難易度の素材を入手するのですから必然的に高ランクのハンター限定となるのです。


「それなら、投票券を販売してはどうだー?」

「ほう、ギャンブルか? 確かにハンター達は盛り上がるだろうな」


 それならばと、プリンちゃんが提案すると、ハンターギルドマスターが、すぐさま反応し、髭を撫でながらニヤリと口角を上げました。


「上手く行けば、投票券販売収益でトロフィーとかメダルとか、イベントに掛かるもろもろの費用くらい補えそうだわ……」

「ようし! 前向きに検討しようじゃないか!」


 アーニャさんが、ギャンブル収益の使い道を呟くと、ハンターギルドマスターが、今日一番のいい笑顔で検討すると決めました。


「あと、賞品が優勝したパーティーだけだと、途中であきらめちゃうパーティーが出ないかな」

「確かになー!」


 水龍ちゃんが、賞品についても思うところを話すと、プリンちゃんも同意してくれました。


「だよね。それじゃぁ、私、優勝以外の成績上位パーティーにも賞品を用意するわ」

「おー! どれくらい用意するのだー?」


「う~ん、優勝パーティーは、ポーションケースいっぱいのヒールポーションでどうかな? 2位、3位と順位が下がるほど、少なくしていくの」

「ふはははははー! さすが水龍ちゃんだなー! みんな喜ぶぞー!」


 水龍ちゃんが、賞品を増やすと言い出すと、プリンちゃんもノリノリで賛成してくれました。


「賞品の合計金額って、どれくらいになるのかな……」

「ギルマス、考えない方がいいですよ」


 ハンターギルドマスターとアーニャさんが、水龍ちゃん達のやり取りの傍らで苦笑いをしながら小さく呟いていたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る