第162話 課題の整理
商業ギルドの応接室で、ヒールポーションの販売について打ち合わせを始めたのですが、どうにも難航しそうな雰囲気です。
「こんな時は、一度状況を整理しよーじゃないかー!」
「そうですね。では、——」
プリンちゃんの声に、シュリさんがヒールポーション販売の課題を順に話し始めると、アーニャさんは手早くメモを取りながら真剣に話を聞いていました。
ハンターギルドのギルドマスターとアーニャさんは飛び入り参加のため、状況整理はちょうど良かったようです。
ヒールポーション販売の課題は、以下のとおりでした。
・ハイポーション並みの治癒効果があるため各商会の争奪戦となりそう。
・生産数が少ないこともあり価格高騰は避けられそうにない。
・ハンターギルドが水龍ちゃんから直接購入を希望している。
・中央病院も直接購入を希望しそう。
・ハンターギルドや中央病院に直接販売する場合、価格や数量をどうするか。
ひと通り課題を整理したところで、アーニャさんが書いたメモをみんなで覗き込みました。書き出してみると、頭の中もすっきり整理されるものです。
「数が少ないし、やっぱり競売だなー!」
「しかし、それですとハンターギルドや中央病院への販売価格が決められません。競売価格より安くなれば各商会からクレームが殺到するでしょうからね」
プリンちゃんの発言に、シュリさんが冷静に問題点を指摘します。
「じゃぁ、全部競売にしよー! ハンターギルドと中央病院には、どこかの商会を通じて購入してもらえばいいだろー!」
「いやいや、それはダメだ。我々は直接購入を希望する」
「そうです! 限定販売の意味が無くなってしまいます!」
プリンちゃんが全部競売にしちゃおうと言い出すと、ハンターギルドマスターとアーニャさんが強く反発しました。ハンター達も普通に商会から購入できるので、限定販売の効果がなくなってしまうのです。
「それじゃぁ、他に良い方法があるのかー?」
「それは……」
「思いつかないわね……」
プリンちゃんが口を尖らせて問い返すと、ハンターギルドマスターもアーニャさんも言葉が出なくなってしまいました。
「それとだなー! ハンターギルドは、いくつのヒールポーションを買うつもりなのだー? 数が少ないのだから各商会からクレームがくるぞー!」
「むぐぅ……」
「……」
さらにプリンちゃんが畳み掛けるように尋ねると、ハンターギルドマスターもアーニャさんも顔を見合わせるだけで明言できませんでした。
「えーっと、ハンターギルドはレアな素材を取ってきてもらうためにヒールポーションが必要なのよね」
「そうよ。滞りがちの依頼を達成してくれたパーティーに限定販売するつもりなの」
水龍ちゃんが確認するように尋ねると、アーニャさんが、プリンちゃんとシュリさんにも分かるように答えてくれました。
「それなら、指定した素材を一番多く取って来たパーティーに限定販売するのはどうかしら。同時に複数の素材を指定すれば、あまり数はいらなくなるわ」
「なるほど、ハンター達に競わせるのね。うまく期限を決めれば、ヒールポーションの数をかなり減らせそうだわ」
水龍ちゃんの提案に、アーニャさんが、なるほどと納得顔です。
「しかし、複数の素材を指定すると、比較的手に入れやすい素材に偏らないか?」
「そこは、素材ごとに点数を付けて合計点数の高いパーティーの勝ちとすればいいのよ。難易度の高い素材ほど高い点数を付ければバランスがとれると思うわ」
ハンターギルドマスターが懸念点を指摘すると、水龍ちゃんが、すかさずアイデアを出します。
「なるほど、そういう手もあるか。さすが水龍ちゃん、上手いこと考えるものだな」
「えへへ、前に読んだ本の中に、そんな話があったのよ」
ハンターギルドマスターが感心しながら褒めそやすと、水龍ちゃんは、はにかみながら図書館で読んだ本からヒントを得たのだと言いました。
「しかし、水龍様、必要な数は減らせそうですが、価格の話はいっこうに解決しません。何か妙案でもあるのですか?」
今度は、シュリさんが尋ねてきました。どうやら妙案を期待しているようです。
「う~ん、そんなに数がないなら無料で提供しても――」
「それはいけません。商人たるもの益のない取引はしないものです。それに、各商会から問い合わせがあった場合、彼らを納得させられるような回答が出来るとは思えませんからね」
水龍ちゃんが無料でと言いかけて、ピシャリとシュリさんに却下されてしまいました。理由を聞けばもっともなので、水龍ちゃんも苦笑いです。
「いいこと思いついたぞー!」
突然、プリンちゃんが大声を上げて立ち上がり、皆の注目を集めました。
「水龍ちゃんとハンターギルドでコラボして、狩猟祭を開催するのだー!」
「「「「狩猟祭?」」」」
「なー?」
なんと、プリンちゃんの提案に、皆驚きの声を上げました。
「つまりだなー! ——」
プリンちゃんの説明では、水龍ちゃんのアイデアを使って狩猟祭なる素材獲得競争イベントを開催するのだといいます。そして、優勝賞品として水龍ちゃんがヒールポーションを提供し、その見返りにイベントで猫の手ブランドを大々的に宣伝するというのです。
「なるほど、宣伝ということであれば、無料で提供しても問題ないという訳ですね」
「そーゆーことだー!」
シュリさんが感心しきりに頷くと、プリンちゃんがドヤ顔で肯定しました。みんな異論はないようです。
「ハンターギルドは良いとして、中央病院の方はいかがいたしましょうか」
「商会を通じて買ってもらえばいいだろー! その上でヒールポーションの販売を全て競売とするのだー!」
「競売価格高騰の対策はいかがいたしましょう」
「そんなの無視だぞー! 希少品だから仕方がないというやつだー!」
シュリさんとプリンちゃんが、残りの課題を半ばやけっぱち気味に次々と解決してしまい、詳細は近日中に決めるということで、本日の打ち合わせは終わりとなったのでした。
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