第161話 争奪戦?

 水龍ちゃんとトラ丸が、ハンターギルドを訪れると、アーニャさんがにっこり笑顔で迎えてくれました。


「水龍ちゃん、ギルマスが帰って来たわよ」

「ほんと? 早くヒールポーションの効果がどうだったか聞かせて欲しいわ!」

「なー!」


 挨拶もそこそこに、アーニャさんからギルマスの帰還を告げられて、水龍ちゃんは嬉しそうに話を聞きたがりました。トラ丸も喜んでいます。


 ハンターギルドのギルマスは、水龍ちゃんが作ったヒールポーションの効果を確認するため、数日前からダンジョンの奥地へ潜っていたのです。


 先ほど、帰還したギルマスは、たいそう腹が減ったと言って、荷物を置いてお昼ご飯を食べに出ているところだそうです。


 しばらくアーニャさんと雑談しながら待っていると、ギルマスが戻って来ました。


「おお、水龍ちゃん、ヒールポーションは素晴らしかったぞ!」

「お帰りなさい、ギルマス。詳しい話を聞かせてもらっていいですか?」


「もちろんだとも!! ——」


 ギルマスは、食事から帰って来るなり、水龍ちゃんにヒールポーションを使った効果について熱く語ってくれました。


 ギルマスによると、ヒールポーションの治癒効果はハイポーションに匹敵するといい、デビットさんの評価結果とも合致しました。なによりハイポーションよりも断然美味いと大絶賛でした。


 ハイポーションとの違いを尋ねると、味が段違いに美味しいことと、体の内側からヒールを掛けられている感覚があり、その感覚はハイポーションを飲んでも感じられないとのことでした。


「ギルマス、やはりハンターギルドでヒールポーションを仕入れて、滞りがちな素材を収めるハンターに限定販売するべきです!」

「うむ、ヒールポーションが買えるとなれば、ハンター達も喜んで素材を集めてくるに違いないな!」


 アーニャさんが、改めて限定販売の計画を持ち出すと、ギルマスも計画の成功は間違いないと確信めいたことを言います。


「あー、そのことなんですけど、ヒールポーションをどこでどう販売するのか、まだ決まってないんですよね。これから商業ギルドへ相談しに行くところです」

「なんと! それは大変だ! 私達もその会議に参加させてもらおうじゃないか!」


 水龍ちゃんが、苦笑いして販売について未定だと伝えると、ギルマスは、勢いのままに打ち合わせに参戦することを決めました。


 かくして、水龍ちゃんとトラ丸、そしてハンターギルドのギルマスとアーニャさんは、商業ギルドへと向かうのでした。





 水龍ちゃん達が商業ギルドに着くと、すぐにシュリさんに応接室へと案内されました。そして水龍ちゃん達がソファーに腰かけたところで、ドアがバーンと勢いよく開け放たれました。


「あたしが商業ギルドのギルドマスター、プリンだー!」


 プリンちゃんが楽しそうに名乗りを上げながら入って来ました。相変わらずの登場にハンターギルドのギルマスとアーニャさんは苦笑いで、水龍ちゃんとトラ丸は、にっこり笑顔で軽く挨拶をしました。


「ハンターギルドのヒゲマスが来るとは珍しいなー!」

「ヒゲマスって、まったく、相変わらずだなぁ……」


 プリンちゃんに軽く揶揄われ、ヒゲマスことハンターギルドのギルマスは、ちょっと困り顔です。


「中央病院で行っていたヒールポーションの評価だけど、中間報告としてまとめてくれたから持ってきたわ。病院の方では、治療に使うためにもう少し研究評価するそうよ」


 さっそく本題とばかりに、水龍ちゃんは、そう言って、デビットさんがまとめてくれた中間報告の資料をテーブルに置きました。


「おー! 治療に使うために研究するってことは、中央病院の方でも将来的にヒールポーションを欲しがる可能性が高いってことだなー!」

「ますます、販売方法が悩ましくなりますね」


 プリンちゃんの言葉に、シュリさんが、問題が増えたとばかりに眉根を寄せて言いました。


「ハンターギルドの方にも回してもらいたいから、よろしく頼むぞ」

「ぶわっはっはっはー! これはもう、ヒールポーションの争奪戦だなー!」


 ハンターギルドマスターが、忘れては困るとばかりに声を上げると、プリンちゃんは大笑いして争奪戦だと言い出しました。


「ところで、ハンターギルドでもヒールポーションの効果の確認を行っていると聞いておりますが、そちらはどうなったのでしょうか?」

「おう、それがな、——」


 シュリさんに尋ねられて、ハンターギルドマスターがヒールポーションの素晴らしさを熱く語って聞かせました。


 ハンターギルドのトップが直々に試して来たとあって、プリンちゃんもシュリさんもその効果の高さに感心していたようす。


「ハンターギルドマスターの報告に加えて、中央病院の評価においてもハイポーションに近い治癒効果が確認されたとありますから、その治癒効果の高さは疑いの余地がありませんね」

「ぶわっはっはっはー! 争奪戦になることは確実だなー!」


 シュリさんが、補足するようにハンターギルド側と中央病院の評価結果が一致すると述べると、プリンちゃんが再び大笑いしました。


「ふぅ、効果確認も終わったからには、難題ですが、販売方法を決めてしまわねばなりませんね」

「そうだなー! だけど、どうすんだこれー?」


 シュリさんが、珍しく大きく息を吐いて今日の課題を口にするも、プリンちゃんからは、心もとない言葉が漏れだしてきたのでした。

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