第160話 中間報告
「天使ちゃん♡ デビットが、ヒールポーションについて話しをしたいそうなのよねん♡ 天使ちゃんの都合を聞いて来てくれって頼まれちゃったわん♡」
「ん? 評価の速報なら、いつもマーサさんが教えてくれてたけど、それとは違う話なのかしら?」
「なー?」
ある朝、マーサさんに言われて、水龍ちゃんは、小首を傾げて言いました。トラ丸も水龍ちゃんの真似をしているのか、小首を傾げます。
マーサさんも、詳しい話は知らないらしくて、とにかく水龍ちゃんの都合の良い時に合わせて、家を訪ねたいと言っていたそうです。
「なんの話か気になるし、マーサさんと中央病院へ行きましょ」
「ふむ、わしも一緒に行って話を聞くとしようかの」
水龍ちゃんが、朝から中央病院へ行くと決めると、おばばさまも何か気がかりがあるのでしょうか、一緒に行くと言い出しました。
マーサさんが、朝の研究を終えると、早めに朝食を終えた水龍ちゃん達は、中央病院へと向かいました。
病院の休憩所でしばし待つこと、デビットさんがやって来ました。突然の来訪に驚くデビットさんでしたが、熱いコーヒーを飲んで一息つくと話を切り出しました。
「ヒールポーションの評価については、マーサから報告してもらっていると思うが、改めて中間報告としてまとめてみたよ」
そう言って、デビットさんは、鞄から取り出した資料を差し出してきました。そこには中間報告と題して、これまでの評価試験結果をまとめてありました。
「結果から言うと、ヒールポーションは、ハイポーションに近い治癒効果があったということだ。加えて、ハイポーションには見られない特徴もあって、とても興味深いポーションだと分かったよ」
デビットさんは、いい笑顔で結論だけを話してくれました。詳細は資料に分かり易くまとめてあるようです。
「この結果を踏まえ、病院としては、ヒールポーションを使った治療の研究を進めて治療薬の1つとして前向きに検討することに決めたんだ。だから、研究に使うヒールポーションを売って欲しいんだけど、どれくらいの値段なのか教えて欲しい」
デビットさんの話は、これが本題だったようです。
「えーっと、まだ、いくらで売るのか決めてないです。だけど、評価用というのでしたら無料で提供しますよ」
「いやいや、病院から研究費用も出ることだし、これ以上は無償で頂くわけにはいかないよ。だから、そうだなぁ、ヒールポーションを作るのに掛かる費用を教えてもらえれば、それに上乗せした金額を払うよ」
水龍ちゃんが、正直に答えると、デビットさんは、一瞬ニヤリと口角を上げて、ポーションの生産にかかる費用を尋ねて来ました。
「えっと、——」
「まったく、油断も隙もあったもんじゃないのう。残念じゃが、生産に関することは教えられんと言ったはずじゃ。費用についても教えるつもりはないのじゃ」
水龍ちゃんが答えようとするのを遮って、おばばさまが、怪訝な顔で代わりに答えました。
「しかし、それでは、値段が決められないだろう?」
「ふん、そう言って、作る費用はこれだけなんだから、値下げしろとか言って来るつもりじゃろ? その手には乗らんのじゃ」
デビットさんが、澄ました顔で問いかけてくると、おばばさまは、鼻を鳴らして、彼の考えを見透かしたように指摘しました。
「あはは、手厳しいなぁ。だけど、値段が決まっていないと購入が出来ないじゃないか。それは、困るんだけどね」
「そんなもん、ハイポーション並みの治癒効果があるのじゃから、ハイポーションの取引価格で良いじゃろ?」
デビットさんが、苦笑いで困ると言うと、おばばさまは、評価結果をもとにハイポーションの値段だと言い出しました。
「いやいや、確かにハイポーションに近い効果があったのだけど、ハイポーションとは別物だからね。同じ値段はさすがに厳しいだろ?」
「ほう、もっと高い値を付けてくれると言うのじゃな?」
「いや、そうじゃなくて」
「どれほど色をつけようかのう」
デビットさんは、先ほどまでの涼しい顔とは打って変わって、焦ったようすで、おばばさまと値段交渉を始めてしまいました。
そのようすを見ている水龍ちゃんとトラ丸は、ちょっと困り顔なのですが、マーサさんは面白そうに笑みを浮かべていました。
しばらく、あーだこーだと言い合った結果、今回は、特別サービス価格として、今は生産をやめてしまった1級ポーションの取引価格で売買することになりました。
「はぁ……、おばばには敵わんな」
「ふん、言っておくが、今回は、大サービスじゃぞ。正式に販売が始まれば、もっと高額になるのは確実じゃからな」
盛大に溜息を吐くデビットさんに、おばばさまは、容赦してやったとばかりに鼻を鳴らして、実際の価格はもっと高額だろうとの予測を示しました。
価格交渉も終わり、ヒールポーションの販売数を決めると、水龍ちゃんとおばばさまはトラ丸を連れて中央病院を後にしました。
「もう少し安くしてあげても良かったかな?」
「あれでも十分安いはずじゃよ。それより、お前さん、生産の費用を聞かれて、何と答えるつもりだったのじゃ?」
「ん? 素材とかダンジョンで採取するから素材のお金は掛からないって、正直に言おうとしてたわ」
「やはりのう。いいかい、——」
正直な水龍ちゃんに、おばばさまは、眉尻を下げて、ポーション生産にかかる費用は安易に話さないように言い聞かせるのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます