第157話 販売の相談

 レストランを後にして、にっこり笑顔のアーニャさんに連行されるギルマスを見送ると、水龍ちゃんとトラ丸は商業ギルドへと向かいました。


 いつもの101番窓口へ向かい、シュリさんの姿を見つけて軽く挨拶を交わすと、本題を切り出します。


「新しく開発したポーションの販売について相談しに来ました」

「なー」

「なるほど。それでは、応接にて詳しい話をお聞かせください」


 水龍ちゃんとトラ丸が、元気よく用件を伝えると、シュリさんは少し嬉しそうに応接室へと案内してくれました。


 シュリさんに促されるまま、水龍ちゃんとトラ丸がソファーに腰かけた途端、応接室の扉がバーンと開きました。


「あたしが商業ギルドのギルドマスター、プリンだー!」


 どこから聞きつけたのか、プリンちゃんが元気よく現れました。


「プリンちゃん、こんにちは」

「なー」

「こんにちはなのだー! 水龍ちゃんもトラ丸も元気そうだなー!」


 にこやかに挨拶を交わしながら、プリンちゃんは、水龍ちゃんの隣にドカッと腰を下ろしました。


「プリンちゃんは、どうしてここに来たの?」

「おもしろそうな商談の匂いがしたからなー! 来てみたぞー!」


 水龍ちゃんの問いに、プリンちゃんは軽く答えました。


「商談の匂いが分かるなんて、さすがプリンちゃんね!」

「なー!」

「ふははははははー! あたしは、商業ギルドのギルドマスターだからなー!」


 水龍ちゃんとトラ丸に褒められて、プリンちゃんは上機嫌です。


「水龍様、さっそくですが、新ポーションの件、詳しい話をお聞かせください」

「はい。ヒールポーションという新しいポーションを開発して、今、評価してもらってるんですけど、評価が終わった後、どんな風に販売するのがいいのか相談に乗って欲しいんです」


 シュリさんに促されて、水龍ちゃんが、まず簡単に用件を伝えました。


「ヒールポーションかー! 名前からすると治癒系のポーションみたいだなー!」

「ええ、1級ポーション並みの治癒効果があるみたいで、中央病院で詳しく調べてもらっているわ」


「おー! 1級ポーション並みかー! さすがは水龍ちゃんだなー!」

「それと、ハンターギルドの方でもポーション効果の確認をしてもらう予定よ」


 さっそく、プリンちゃんがヒールポーションに興味を持ったようで、水龍ちゃんは現状分かっている情報を伝えます。


「水龍様、そのヒールポーションを見せて頂くことは出来ますか?」

「ごめんなさい。今は持ってないんです。今朝、中央病院に評価用として全部渡して来ちゃったわ」


 手持ちがないと聞いて、シュリさんとプリンちゃんは残念そうな顔をしました。


「そのヒールポーションは、薬師ギルドが公開した新しいポーションとは見た目で違いが分かりますか?」

「もちろんよ。ヒールポーションは黄色くって、ぱっと見、ハイポーションに見えるみたいね」


「ハイポーションですか……」

「ふははははははー! それじゃぁ、薬師ギルドも見た目で文句をつけることは出来ないなー!」


 ハイポーションと聞いて、シュリさんが少し驚いたようすで小さく呟き、プリンちゃんが高らかに笑い出しました。2人とも、薬師ギルドが、また何か言って来るのではないかと心配していたようです。


「それでは、以前のように競売に掛けるのが良さそうですね」

「えーっと、ハンターギルドにも卸して欲しいって言われているんです」


 シュリさんが、顎に手を当て競売の話をしたところで、水龍ちゃんは、ハンターギルドの話を持ち出しました。


「何でハンターギルドが欲しがるんだー? ハンター達は、普通に商会から買うだろー?」

「それがね、——」


 プリンちゃんが、頭にハテナを浮かべて疑問を述べると、水龍ちゃんはアーニャさんから聞いた限定販売の話をしました。


「なるほどなー! それで、水龍ちゃんはハンターギルドにも卸したいというのだなー?」

「う~ん、どうするのがいいかなって、そこも相談したいところなの」


 プリンちゃんに問われて、水龍ちゃんは正直に答えました。


「ところで、どれくらいの量を作れるんだー?」

「そうですね。生産量によっては、販売方法を変えた方が良いかもしれません」


「う~ん、当面は一日特大瓶1本くらいかな。新型治癒ポーションと違って、一度に多くは作れないのよね」


 プリンちゃんとシュリさんが、生産量について聞いて来たので、水龍ちゃんは、納品できそうな量を告げました。素材の入手から生産まで、ダンジョン内を駆け回らなければならないため、結構大変なのです。


「それはまた……。いつぞやのように価格が青天井に高騰して行くようすが目に浮かびますね」

「ぶわっはっはっはー! それに加えて、ハンターギルドに卸すとなれば、そっちの価格をどうするかも問題だなー!」


 生産量を聞いて、シュリさんが天井を仰ぎ見るようにして呟き、プリンちゃんは、大笑いしてさらなる問題点を指摘しました。


 シュリさんもプリンちゃんも、過去に水龍ちゃんが作り出した1級治癒ポーションを競売にかけた際にどんどん価格が高騰していった時のことを思い出し、今回もその再現が起きるとみているようです。


「どうするのがいいのかしら?」

「難題だなー!」

「難問ですね……」

「なぅ?」


 みんなで頭を悩ませてしまいました。


 しばらく、あーだこーだと話していましたが、残念ながら良いアイデアは出てこないまま、また時間を置いて打ち合わせることとなったのでした。

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