第155話 既視感
水龍ちゃんが、ハンターギルドでヒールポーションの効果確認の依頼に関して、アーニャさんに相談をしていると、そこへポムさんが颯爽と?現れたのでした。
「ここで会ったが、こんにちは。ようやくポーション効果の確認依頼を出しに来たのですね、水龍ちゃん。さぁ、私が受けて差し上げましょう。ありったけの黄色いポーションを出すのです!」
ポムさんは、受付カウンターまで詰め寄ると、なぜか自信満々にそう言いました。その後ろでは、フランさんが頭を抱えています。
「今日は、ヒールポーションを持ってきていませんよ」
「なんと! それは残念です。しかし、あの黄色いポーションはヒールポーションと呼ぶのですね。そして、ようやく完成した! そういうことですよね!」
水龍ちゃんが、淡々と事実を述べると、ポムさんは、なぜか、水龍ちゃんがヒールポーションを完成させたと確信したようで、確認の言葉を投げてきました。
「ええ、完成しましたよ」
「素晴らしいです!! それは即ち、再びあのポーションを飲める日が訪れたということ!! いつですか!? いつ発売されるのですか!?」
水龍ちゃんが、にっこり笑顔で答えると、ポムさんは、テンション爆上げとなって前のめりに尋ねて来ました。ポムさんの顔が水龍ちゃんの顔にくっ付きそうな勢いです。
「いい加減にしなさい!」
「あ痛っ!?」
フランさんが、ポムさんの後頭部をペチンと平手で勢いよく叩いて、ポムさんの暴走を止めてくれました。どこか既視感のある展開に、ポムさんは涙目です。
「うちのポムがすみません。すみません」
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
ぺこぺこと謝るフランさんに、アーニャさんが、優しく声を掛けました。
「あの、ヒールポーションの効果確認の依頼なんですが、出来たらうちのパーティーにも声を掛けてもらえると嬉しいです」
「当然、私に依頼するべきです!」
「あなたは黙ってなさい!!」
「あ痛っ!!」
フランさんが、なんとか依頼が受けられるように頼み込むのですが、ポムさんの横やりで台無しです。そして、またしてもポムさんは、後頭部を叩かれて涙目です。
「依頼については、今、打ち合わせ中ですよ。それと、どのパーティーに依頼を出すかは、依頼内容を吟味したうえでギルドの方で検討しますのでご理解願いますね」
「そ、そうですよね。あの、うちは、いつでも受けたいと思うので、よ、よろしくお願いします!」
アーニャさんが、にっこり笑顔で、依頼に対するギルド側の姿勢を説明すると、フランさんは、何か言いだそうとするポムさんの口を押さえながら、引き攣った笑顔でパンプルムースの思いを告げて、ポムさんを引きずるように去って行きました。
ポムさん達が立ち去って、落ち着いたところで、アーニャさんと水龍ちゃんが、再び話を始めました。
「それで、そのヒールポーションは、1級ポーション並みに高い治癒効果がありそうだって話だったわね」
「そうなの。どういう風に依頼を出すのがいいのかしら」
「そうねぇ……、それなら、普通のポーション1瓶じゃ治らないような怪我に使ってみてもらうのはどうかしら。それだけ危険な条件を付けることになるから依頼料が高くなるけどね」
「なるほど。危険を承知で受けるからには、それに見合った依頼料が掛かるのは仕方がないですね」
アーニャさんからの提案に、水龍ちゃんは、ふむふむと頷きました。
「まぁ、今回に限っては、依頼料を抑える方法もあるわよ」
「えっ? そうなんですか?」
「ええ、先ほどのパンプルムースに頼めば、そう高い依頼料を払わずとも引き受けてくれると思うわ」
「確かに……」
アーニャさんの提案に、水龍ちゃんは苦笑いです。
そこへ、ひょっこりとギルマスがやって来ました。
「おっ、水龍ちゃんじゃないか。久しぶりに会えて嬉しいよ。そうだ、お昼ご飯でも食べに行こうか? もちろん私のおごりだぞ」
ギルマスは、久しぶりに孫の顔でも見たかのように、それはそれは、嬉しそうに食事に誘ってくれました。
「ご飯ですか! あっ、でも、まだ相談が終わってなくって、もう少し時間が掛かるかも……」
水龍ちゃんは、ご飯と聞いて、キラリと瞳を輝かせましたが、用件が済んでいないことを思い出して、ちょっとしょんぼりしてしまいました。
「そうかそうか。それなら私も相談に乗ろう。そして、その後、一緒にご飯を食べに行こう」
「ほんとうですか!?」
「なー!」
上機嫌なギルマスと、嬉しそうな水龍ちゃんに釣られたのでしょうか、トラ丸も元気に鳴き声を上げました。その傍らで、アーニャさんは、嫌な予感が……、と小さく呟きました。
そして、ギルマスも交えて、ヒールポーションの効果確認依頼の話をすると、ギルマスが、ニカっと満面の笑みを浮かべました。
「よし、それなら、私が確認してこよう。ついでに、ちょっとダンジョンの奥地まで行って、滞っている納品依頼を片付けてくれば一石二鳥だな。はっはっはっは」
どこか既視感のあるギルマスの対応に、アーニャさんは、やっぱりこうなっちゃうのよね……、と溜め息交じりに呟くのでした。
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