第七章 水龍ちゃんの猫の手ブランド

1.水龍ちゃん、新商品の販売準備をする

第154話 評価の依頼

 水龍ちゃんは、トラ丸を連れて、早朝の研究を終えたマーサさんと一緒に中央病院へやって来ました。昨日完成したヒールポーションの詳しい評価をお願いするためです。


 マーサさんを先頭に裏口から病院へ入ると、まだ、デビットさんが出勤してくるまで少し時間があるというので休憩所で一休みします。


「デビットはね、出勤したら、まずここで一服するのが日課なのよん♡ 熱いコーヒーを飲んで、眠気を吹き飛ばすんですって♡」


 温かいお茶を飲みながら、マーサさんが、デビットさんの朝の日課を教えてくれました。それからしばらくマーサさんの病院での仕事の話なんかを聞いていると、デビットさんがやって来ました。


「おっ、水龍ちゃんじゃないか。はっ!? もしや!?」

「おはようございます、デビットさん。ヒールポーションが完成したので、詳しい評価をお願いしにきました」

「なー!」


 寝ぼけ眼だったデビットさんが、水龍ちゃんを見て、もしかしてと目を見開くと、水龍ちゃんが挨拶と共に今日の目的を告げました。トラ丸は元気に挨拶です。


「おおー! ついに完成したか! 思ったより早かったねぇ。いやいや、これは目出たいことだ。ああ、少し時間いいかな? 私は、熱いコーヒーを飲まないと一日が始まらないんだよ」


 デビットさんは、嬉しそうにそう言うと、休憩所に置かれた備品を使って熱いコーヒーを入れるのでした。


 休憩所で一息入れながら、デビットさんは、前回渡した未完成のヒールポーションを評価した時の話をしてくれました。


 なんでも、小動物を使って治癒効果の確認をしてみたところ、あっという間に傷が治ってしまって、たいそう驚いたそうです。デビットさんの推測では、1級治癒ポーション並みの効果が期待できそうだといいます。


 デビットさんが、コーヒーを飲みえたところで、水龍ちゃんは、ヒールポーションの入ったポーションケースを彼に渡しました。


「うむ、これだけあれば、十分評価ができるだろう。さっそく今日から評価に入らせてもらうよ。結果の速報は、マーサに伝えてもらえばいいかな?」

「はい。よろしくお願いします」


 デビットさんは、ポーションケースの中を確認して笑顔をみせると、マーサさんに速報を伝えると言ってくれました。


 水龍ちゃんとトラ丸は、マーサさんに裏口まで送ってもらって病院を後にすると、今度はハンターギルドへと向かいました。




 ハンターギルドへ入ると、水龍ちゃんとトラ丸は、まっすぐ2階の受付へと向かいました。


「あら? 水龍ちゃん、どうしたの?」

「なー!」


 いち早く水龍ちゃんの来訪に気付いたアーニャさんが声を掛けると、トラ丸が元気いっぱいに飛び出して、受付カウンターへと飛び乗りました。


「こんにちは、アーニャさん。実は、新しいポーションの効果確認の依頼を出そうかと思って相談に来たの」

「うふふっ、研究していたポーションがついに完成したのね」


 水龍ちゃんが用件を伝えると、アーニャさんはトラ丸をなでながら嬉しそうに言いました。


「はい。ヒールポーションって名前を付けました」

「ヒールポーションね。以前パンプルムースのメンバーを助けたっていうポーションを完成させたってことでいいのよね」


「そうです。それでね、最終的な毒性評価は今お願いしているところなの。明日には結果が出ると思うわ」

「そうね。全く新しいポーションのようだから、実際にハンターに依頼するのは毒性評価結果の報告を受けてからになるわね」


 水龍ちゃんと、アーニャさんの間で、話のすり合わせが行われてゆきます。

 水龍ちゃんは、事前におばばさまから毒性評価についてもちゃんと話を通しておくよう言われていました。アーニャさんもその辺は理解しているようです。


「それでね、ヒールポーションは、1級ポーションくらいの治癒効果が期待できるとみてるんだけど、どんな感じで依頼を出せばいいかなって思って、その辺りを相談したいの」


「そうねぇ……、実はね、パンプルムースのメンバーから、水龍ちゃんがポーション効果の確認依頼を出したら是非とも受けたいと強くお願いされているのよねぇ……」


 水龍ちゃんが、具体的な相談内容を示すと、アーニャさんがちょっと苦笑いで、そう言ってきました。


「ひょっとして、ポムさんですか?」

「やっぱり、知り合いかしら? もう、何度も水龍ちゃんからの依頼は出たかって、尋ねて来ているのよ」


 水龍ちゃんが予想したとおり、何度も訪れていたのはポムさんだったようで、アーニャさんは、やはり苦笑いで答えてくれました。


 そこへ、階段を駆け上がってきた少女が声を掛けてきました。


「見つけましたよ。水龍ちゃん! そして、トラ丸ちゃん!」


 噂をすれば何とやらのごとく、ポムさんがフランさんと一緒に現れたのです。


 水龍ちゃんとアーニャさんは、思わず顔を見合わせ苦笑いです。そして、ポムさんの後ろでフランさんが、たいへん申し訳なさそうに、こちらも苦笑いを浮かべていたのでした。

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