第153話 よーし!

 今日も水龍ちゃんは、ヒール草のお花畑を訪れて、ヒールポーションの開発に励んでいます。


 水龍ちゃんは、いつになく真剣な眼差しで、手にした青い掻き混ぜ棒に魔力を込めて、じっくりと錬金釜を掻き混ぜてゆきました。


 そこへ何かを感じたのでしょうか、いつもは、お花畑で遊んでいるトラ丸とヒールジカちゃん達が、水龍ちゃんを囲むように集まってきました。


 やがて、錬金釜の中のぽわわとした淡い光が消えてゆくと、水龍ちゃんは、ポーション錬成の手を止め、水流操作で錬金釜の中身を空中へと浮かせました。


 そして、水龍ちゃんが、人差し指をピッと立てて、ひょいひょいっと動かすと、ふよふよと浮いたヒール草混じりのポーションから2つの細い水の流れが立ち上り、くるくると螺旋を描きながら降りて来て、いつの間にやら手にしていたポーション瓶の中へと注がれてゆきました。


 2つのポーション瓶に、きれいにろ過されたポーションが収まると、水龍ちゃんはにっこり笑顔をみせました。


「色、よーし! キラキラ感、よーし! 香り、すんすん、よーし!」


 水龍ちゃんは、ポーション瓶を手に、ヒールポーションの状態を順に確認してゆきました。そして、最後に魔法で少量のヒールポーションを空中へ浮かせると、パクリと口の中へと放り込みました。


「…‥味、よーし! ヒールポーション完せーい!」

「なー!」


 しっかり味も確認して、水龍ちゃんが、満面の笑みで完成宣言をすると、トラ丸とヒールジカちゃん達が、わーい! と嬉しそうに飛び跳ねて喜びました。


「うふふっ、みんなありがとう!」

「なー!」


 水龍ちゃんが、みんなの祝福にお礼を言うと、トラ丸が、のみたーい! とおねだりしてきました。ヒールジカちゃん達も瞳をキラキラと輝かせて、飲みたいアピールをしています。


「仕方がないわね」


 水龍ちゃんは、そう言って、人差し指をピッと立てて、水流操作でポーション瓶から出来立てのヒールポーションを空中へ浮かせると、4つに分けてトラ丸とヒールジカちゃん達の前へと差し出しました。


「さぁ、どうぞ」


 水龍ちゃんの声で、トラ丸とヒールジカちゃん達は、一斉に小さなヒールポーションの玉へとパクつきました。


「!? な~♪」


 トラ丸とヒールジカちゃん達は、揃いも揃って、何か衝撃を受けたかのように目をまん丸に見開いてから、どこか幸せそうな顔へと変わりました。トラ丸に至っては、おいし~♪ と、とろけるような声を漏らすほどです。


「なかなか、おいしいでしょ?」


 水龍ちゃんは、微笑みながらそう言うと、空中に浮かせたままにしていたヒール草の出涸らしを3つに分けて、ヒールジカちゃん達へと食べさせてあげました。


「さぁ、デビットさんに評価してもらう分を作らないとね」


 そう言って、水龍ちゃんは、もくもくとヒールポーションを作り始めました。途中でヒールジカちゃん達にせがまれ、ヒールポーションを飲ませてあげることになりましたが、何とかポーションケース1つ分のヒールポーションを作り上げました。


「それじゃ、また来るわね」

「なー!」


 水龍ちゃんと、トラ丸は、名残惜しそうなヒールジカちゃん達に笑顔で挨拶をすると、タタッと駆け出し、断崖絶壁をひょいっと飛び降りました。


「ヒールジカちゃん達、すっかりヒールポーションが気に入っちゃったみたいね」

「な~♪」


 ダンジョン内を走りながら、水龍ちゃんがヒールジカちゃん達のことを話すと、トラ丸は、おいしもんね~♪ と上機嫌で答えます。


「はっ!? やっぱりヒールポーションには中毒性があるのかしら!? ポムさんの例もあるから心配だわ!」


 水龍ちゃんは、はっと気付いて心配そうに呟きながら、トラ丸と共にダンジョン内を爆走するのでした。





 家に帰って来た水龍ちゃんは、嬉しそうな笑顔で玄関ドアを開けました。


「ただいまー」

「なー!」


 元気な声を上げて、帰宅した水龍ちゃんとトラ丸は、そのままリビングへと向かいました。


「早かったのう。なにかあったのかい?」

「ばばさま! ヒールポーションが完成したの!」

「なー!」


 おばばさまの問いかけに、水龍ちゃんとトラ丸は、少し興奮気味に、とても嬉しそうな笑顔で報告しました。


「それは朗報じゃのう。どれ、その完成したヒールポーションをおばばにも見せて貰えるかの?」

「もちろんよ!」

「なー!」


 水龍ちゃんは、バックパックからポーションケースを取り出してテーブルの上に置くと、ポーションケースを開けてヒールポーションを手に取りました。


「ふふん、これが、完成したヒールポーションよ」

「なー!」


 水龍ちゃんが、胸を張ってヒールポーションを掲げてみせると、トラ丸もドヤ顔で胸を張りました。


「うんうん、よく頑張ったのう」

「だけどね、もしかしたらなんだけど、ヒールポーションに中毒性があるかもしれないの」


「どういうことじゃ?」

「それがね、——」


 笑顔で労いの言葉を掛けてくれたおばばさまに、水龍ちゃんは、ヒールジカちゃん達とポムさんの例を話して中毒性の懸念を伝えました。


「ふむ、ひと口飲んでも良いかの?」

「いいけど……」


 おばばさまは、ひと言断ると、心配そうに見つめる水龍ちゃんの前でポーション瓶の蓋を開け、くぴっとひと口飲みました。


「なるほど、ヒールポーションと言うだけあって、体の内からヒールの魔法が掛けられたような感覚があるのじゃな。この心地よさは癖になるのも頷ける」

「やっぱり……」


 おばばさまが、納得顔で感想を述べると、水龍ちゃんは、しょんぼりと残念そうに呟きました。


「そんな顔をするでない。別に中毒性というほどではないじゃろう。例えるなら美味しいラーメンを食べるようなものじゃな。ほれ、病み付きになるじゃろ? その程度のものじゃよ」


「そっかー。良かった」

「なー!」


 おばばさまの言葉に、水龍ちゃんの顔がパァっと晴れるのでした。

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