第152話 良かったのう
今朝、マーサさんから吉報が届きました。
「天使ちゃんのヒールポーションが、もの凄い治癒効果があったらしいわよん♡」
「ほんと? 嬉しいな」
「なー!」
どうやら中央病院での評価で良い結果が出たようで、水龍ちゃんもトラ丸も嬉しそうです。
「デビットが興奮気味に言ってたわよん♡ ヒールポーションが完成したら是非とも詳しく評価がしたいって♡」
「良かったのう」
「なー」
「ふふっ、頑張らなくっちゃね」
マーサさんが、デビットさんの言葉を伝えると、おばばさまとトラ丸も一緒に喜んでくれました。水龍ちゃんは、にっこり笑顔でヒールポーションの完成に向けて、さらにやる気を出したようです。
「私も天使ちゃんに負けないように、ドロくさパックの開発を頑張るわよん♡」
マーサさんは、水龍ちゃんの意欲に触発されたのでしょうか、いつもよりもやる気に満ち溢れているようです。
新しいドロくさパックの開発は、マーサさんとおばばさまが、品質とコストの戦いという感じで、素材の質が良いだの高額過ぎるだのと毎日真剣バトルが繰り広げられているのです。
いつもおばばさまが勝利するのですが、マーサさんは、めげずに何かと理由をつけては、レアな素材を使おうとするのです。
そんなバトルがマーサさんの敗北によって決すると、マーサさんは、渋々とシンプルで入手性の良いクレイ(泥)をベースに、試作品を作り、今一つ気に入らないので破棄するという毎日が繰り返されています。
今日もマーサさんは、新たな素材の使用を勝ち取るべく、おばばさまに挑みましたが、結果は、またしても大敗北でした。
「くうっ……♡ このままじゃ、究極のドロくさパックを作るという私の夢が叶いそうにないわん……♡」
マーサさんは、いつにも増して、気を落としてしまったようで、がっくりと膝を付いて涙しました。
「マーサお姉さんは、いったい誰のためにドロくさパック極み?を開発したいの?」
「えっ?♡ ……そ、それは、もちろん全ての女性の為よん♡」
水龍ちゃんが、ふと尋ねると、マーサさんは、きょとんとした声を漏らして顔を上げ、少し間を置いてから答えました。
「つまり、どんな女性にも使ってもらおうと思っているってこと?」
「そうよん♡ 世界中の女性に使ってもらってね♡ みんなを美しくするのが夢なのよん♡」
「だから、いろいろお肌にいい成分を含んだ素材をたくさん使いたいってことなのかしら?」
「そうなのよん♡ さすが天使ちゃんねん♡ 世の中、いろんなお肌の女性がいるのよん♡ その全ての女性のお肌を綺麗にするためにもレアな素材をふんだんに使う必要があるのよん♡」
水龍ちゃんとの会話の中で、マーサさんは、涙で濡れた顔を拭おうともせずに、嬉しそうに夢を語ってくれました。
「う~ん、だけど、マーサさんの理想のドロくさパック極みを作っても、たくさんのお姉さん達に使ってもらうのは無理だと思うわよ」
「えっ!?♡ そんなことないわよん!♡ 絶対に使ってくれるはずよん!♡」
水龍ちゃんが、首を傾げて言った言葉に、マーサさんは、驚きの声を上げ、感情的に否定しました。
「だって、そんなに高価な美容商品、普通のお姉さん達には買えないわ」
「んなっ!?♡ 何でぇ!?♡ お肌に最っ高な美肌パックなのよん!♡ 買わないなんて選択肢、ありえないわ!!♡ 私なら借金してでも買うわよん!!!♡」
高いから買えない。水龍ちゃんが、そう告げると、マーサさんは、信じられないとばかりに声を荒げて反論しました。
「それは、マーサお姉さんだけよ。普通のお姉さん達は、もっとお金にシビアなの。自分のお給料やお小遣いで手が届かない商品なら、スッパリ見切りをつけて、自分の手の届く範囲で一番いい物を選ぶわ」
「うそおおぉぉぉぉぉん!!?♡」
水龍ちゃんが、淡々と説明すると、マーサさんは、今日一番のショックを受けたようでした。そんな姿を見て、おばばさまは、やれやれとばかりに溜め息をついて大きく首を横に振っていました。
「もし、マーサお姉さんが開発するドロくさパックをたくさんのお姉さん達に使って欲しいのなら、安い商品から高い商品まで各価格帯毎にお値段に見合った最高の商品を作らないとだめよ」
「でもぉ……♡」
「それに、いろんなお肌のお姉さん達がいるなら、お肌に合わせた商品を作るのも手だと思うわ」
「でもでもぉ、究極のパックさえ作れば、どんなお肌でも問題ないのよん♡ 面倒がなくていいじゃない♡」
水龍ちゃんが、普通に当たり前の話をしているのですが、マーサさんは、自分の思いをぶつけてきました。
「お肌のお手入れに面倒くさがっていちゃダメだって、美発部のお姉さん達が言ってたわよ」
「うぐっ♡ そ、それはそうだけど……♡」
「それに、お姉さん達は、いろんな美容商品の中から自分に合ったものを選ぶのを楽しんでいるみたいよ」
「えっ?♡ 楽しんでる?♡」
水龍ちゃんの話を聞いて、マーサさんは反論も出来ず、しまいには素で驚いた顔をみせました。
「そうよ。まるで、自分に似合う洋服を選ぶみたいに、美容商品の話をするお姉さん達って、とっても楽しそうなのよ」
「そ、そう……♡」
「だからね。マーサお姉さんもいろんな商品を開発すればいいんじゃない? 世の中のお姉さん達が、楽しめるような魅力あふれる製品をたくさんね」
「ああ……♡ そうねん♡ そうなのよねん♡ すっかり忘れていた気がするわん♡ 楽しいって感じることが、お肌にとっても良いことなんだってことをねん♡」
マーサお姉さんは、いつの間にやら祈るような仕草で水龍ちゃんを見つめていました。そして、その目には、とめどなく涙が溢れてきました。
「ぐすっ♡ 私が間違っていたわん!♡ 天使ちゃんの言う通り、世の中の女性たちが楽しんで美しくなれる、そんな美容商品の開発を目指すことにするわん♡」
すっかり改心したマーサさんの姿に、おばばさまは、うんうんと頷きながら、良かったのう、と、小さく呟くのでした。
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