第151話 ポーション名

 今日も水龍ちゃんは、トラ丸と一緒にヒール草のお花畑を訪れて、ヒール草を使った黄色いポーションの研究に励んでいます。


 トラ丸とヒールジカちゃん達は、楽しそうにお花畑を駆け回ります。そして、水龍ちゃんが試作をするたび、ヒールジカちゃん達は、ろ過して取り除いたヒール草を食べに集まって来るのです。


 水龍ちゃんは、適当な頃合いを見て実験を切り上げ、お昼ご飯にしました。いつもながらヒールジカちゃんに囲まれてのお昼ご飯です。


 今日のお昼は、おばばさまが作った佃煮を具にしたおにぎりが主食で、おかずにはミニハンバーグをメインに たこさんウインナーや卵焼き、ブロッコリーやミニトマトで彩を取っています。


「なー?」

「ん? ポーションの名前? そうね、まだ決めてなかったわね」


 お昼ご飯をもぐもぐと食べていると、研究中の黄色いポーションに名前を付ける話となりました。開発者である水龍ちゃんが決めることになっています。


「そうねぇ……。ヒール草から作ったから、ヒールポーションでいいんじゃない?」

「なー」


 水龍ちゃんが、少し考える仕草をした後、シンプルな名前を上げると、トラ丸も、そだねー、と軽い感じで同意してくれました。


 お食事中に、あっさりとポーション名を決めた水龍ちゃんは、食事を終えると、ヒールポーションの研究を再開しました。


「うん、これはいいかも。ほんのりした甘みと酸味がいい感じ。ずいぶんと飲みやすくなったわ」

「なー?」


 水龍ちゃんが、試作したヒールポーションの味見をして嬉しそうにしていると、ヒールジカちゃん達と一緒に寄って来たトラ丸が、どうしたのー? と首を傾げて水龍ちゃんを見上げてきました。


「ようやく、ヒールポーションと相性の良いハーブが見つかったのよ」

「なー」


 水龍ちゃんが、そう言うと、トラ丸が、よかったねー、と嬉しそうに言ってくれました。


 そして、ヒールジカちゃん達は、何か感じるものがあったのでしょうか、キラキラと瞳を輝かせて水龍ちゃんを見つめてきます。


「うふふっ、あなた達にもおいしそうに見えるのかしら? ちょっと待っててね」


 水龍ちゃんは、そう言って、空中に浮かせたままにしていた、ろ過後のヒール草を3つに分けて、ヒールジカちゃん達の口元に浮かせました。


「はい、食べていいわよ」

「なー」


 水龍ちゃんとトラ丸の声で、ヒールジカちゃん達は、一斉に小さなヒール草の塊にパクついて、ひと噛みすると目を見開きました。そして、むしゃむしゃと、それはもう美味しそうに咀嚼して、ごくんと飲み込んでしまいました。


 あっという間に食べ終えたヒールジカちゃん達は、水龍ちゃんの周りへすり寄って来て、もっともっとと瞳をキラキラ輝かせておねだりしてきました。


「とてもおいしかったみたいね。仕方がない、もう少し作ろうかしら」

「な~♪」


 水龍ちゃんが、ヒールジカちゃんの頭を順に撫でながら嬉しそうに言うと、トラ丸も嬉しそうに鳴きました。


 そして、水龍ちゃんは、ヒール草と相性の良いハーブの量を変化させて、味見をしながら良い塩梅の分量を探りました。もちろんヒールジカちゃん達は大喜びでした。




 ダンジョンからの帰宅途中で、プリンちゃんと会いました。


「おー! 水龍ちゃんとトラ丸じゃないかー!」

「プリンちゃん、こんにちはー」

「なー!」


 陽気に挨拶を交わして、ちょっと立ち話です。


「先日、薬師ギルドが、新しいポーションレシピを公開してだなー!」

「そうね、なんか特許料が高くて、みんな大変だって聞いたわ」


 新ポーションの話で、水龍ちゃんは、お姉さん達の噂話を思い出したようです。


「そーそー! 高価な新ポーションと、安いが苦い旧ポーションが混在していて商人達も仕入れや販売をどうしようかと試行錯誤してるぞー!」

「商人達も苦労してるのね」


「ぶわっはっはっはー! そこは商売人の腕の見せ所だー! みんな嬉々として競い合ってるぞー!」

「さすが、商人、逞しいわね」


 作る側に買う側は混乱しているようですが、商人達には、商いの腕をみせるチャンスらしいです。


「それよりもだー! 1級ポーションが、全然出回ってないのが問題だなー!」

「そうなの?」


「それがなー! ——」


 プリンちゃんは、1級ポーションの流通事情をいろいろと話してくれました。


 聞けば、1部の者が1級ポーションを作れたようなのですが、数が作れないため、なかなか市場に流れてこないのだそうです。しかも、水龍ちゃんが作ったものよりも品質が劣っていて、かろうじて1級の判定が得られる程度の限りなく2級に近いものだといいます。


 当然、水龍ちゃんの作った新型治癒ポーションを仕入れていた大手商会から、プリンちゃんのところへ問い合わせが来たそうですが、もろもろの事情を話して、文句があるなら薬師ギルドへ言えと回答したそうです。


 その結果、大手商会は、薬師ギルドへ問い合わせを入れ、当初は、じきに1級ポーションが出回るようになると自信満々の回答を受けていたそうですが、なかなか出回らないため、最近、薬師ギルドに対して早く1級ポーションを売れと、催促の声が大きくなっているそうです。


「そんなことになってるのね……」

「今日あたり、商業ギルド本部の方から薬師ギルド本部の方へ状況確認という名の圧力をかけてるからなー! これからもっと面白くなるぞー!」


 ちょっと心配気味の水龍ちゃんに対して、プリンちゃんは、これから喜劇を観に行くかのように、ワクワクと楽しそうな笑顔を見せるのでした。

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