第150話 職員の思惑

 美肌ポーションと、ヒール草から作った黄色いポーションの毒性評価を終えたところで、水龍ちゃんは、病院の職員から、黄色いポーションの治療効果を調べさせて欲しいと声を掛けられました。


「そのハイポーションに似た新しいポーションについて、大変興味があるのです。是非とも調べさせていただきたい」

「えっと……」


 改めて、職員が、素直な思いをぶつけてきましたが、水龍ちゃんは、ちょっと戸惑い気味です。


「ちょっと、天使ちゃんが困ってるじゃないのん♡ そういう話は、お師匠様を通してちょうだい♡」

「あっと……、その……」


 マーサさんが、ずいっと間に入ってくれて、なぜか、おばばさまを通すように言うと、職員は、ちょっと気圧されたようすで口籠りつつ、おばばさまへと視線を移しました。


「ふむ、素材を含めて作り方については、一切教えるつもりはないのじゃが、それでも良いかの?」

「ええ、開発品ですから、それは当然のことでしょう」


 おばばさまが、片眉を上げて、ポーションの情報は教えられないと、どこか試すように言うと、職員は、真顔で即答しました。


「うむ。ならば、まず、お前さんらの考えを聞かせるのじゃ」

「もちろんですとも!」


 おばばさまは、即答した職員の態度に満足したのでしょうか、より詳しい話を求めると、職員の方も、どこか嬉しそうに話し始めました。


 その職員は、日頃から、さまざまな薬の効果を研究、評価しているそうで、評価したことのない薬やポーションを見つけると、ついつい効果の検証をしたくなるそうです。本人曰く、ある種の職業病だとか……。


 そして、病院側は、その評価によって、より効果の高い薬を購入し、治療効果を上げているといいます。ちなみに、同じ薬でも生産元によって大きく効果に違いが出ることも多々あるそうです。


 そんな訳で、今回、水龍ちゃんの黄色いポーションを評価してみたくてうずうずしていることと合わせて、十分な効果が見込めるならば、病院で患者の治療用に購入を検討したいというのです。


「なるほど。てっきり、お前さんの趣味で評価したいと言い出したのかと思ったのじゃが、病院での採用も考えているとはのう」

「いやいや、おばばさま、さすがの私でも病院の利益にならないようなことはしませんよ」


 おばばさまに揶揄われ、職員は苦笑いです。


「病院側も良いポーションが手に入るかもしれんし、開発者にとっては、第三者の評価が得られるのじゃ。わしは、悪くない話じゃと思うがのう、どうする?」


 おばばさまは、双方に利益があり、悪くない話だと言った上で、最終的に決めるのは水龍ちゃんだと言いたげに話を振ってきました。


「う~ん、まだ完成してないポーションなのにいいのかしら?」

「ああ、それなら、問題ありません。まず、ざっくりと、どの程度の治癒効果があるかをみるために実験を行うつもりです。そこで十分な治癒効果と判断できたなら、次の段階に進むために、改めて完成品をご用意いただければと思います」


「つまり、第一段階の評価は、完成品でなくてもいいのね」

「そういうことです。まぁ、それ以上の評価は必要ないと我々が判断すれば、そこで打ち切りとさせていただきますが」


 水龍ちゃんが、未完成なことを気にしていると、職員さんは、第一段階の評価は、未完成品で構わないと説明してくれました。


「それなら、第一段階の評価だけでもお願いしようかな」

「うむ、それがええじゃろう」


 水龍ちゃんが、職員の提案を受け入れると、おばばさまも大きく頷き、職員も嬉しそうに笑顔をみせました。ちなみに、この職員さんはデビットという名で、遅ればせながらと自己紹介をしてくれました。


 水龍ちゃんは、用意してきた黄色いポーションの残り2瓶をデビットさんに渡して病院を後にしました。





 帰りはマーサさんも一緒です。おばばさまの家でドロくさパック極みの研究をするようです。


 ちょうどお昼も過ぎた頃合いだったため、何か食べて行こうということになり、マーサさんが見つけたという隠れ家的なレストランへと入りました。


 マーサさん曰く、ここのクリームシチューはお肌に良いそうで、席に着くなり勝手に全員分を頼んでしまいました。


「ねぇねぇ、天使ちゃん♡ あの黄色いポーションだけど、なかなかにお肌に良さそうだったわねぇん♡ まぁ、美肌ポーションには敵わなそうだけどねん♡」

「マーサお姉さんって、そういうの分かるんだ」


 マーサさんの謎の嗅覚?に、水龍ちゃんは、素直に感心しているようです。


「うふふっ♡ 私、そういうのには敏感なのよん♡ それでね、まだポーション名が決まってないでしょ♡ ウルつやポーションなんてどうかしらん♡ お肌がうるうるのつやっつやになるって感じよん♡」

「あー、そっちへ行っちゃうのね……」


 なんというか、マーサさんのネーミングセンスに、水龍ちゃんは苦笑いです。


「まぁ、うるつやは微妙じゃが、名前は付けておいた方が良いのう。いつまでも黄色いポーションと呼ぶ訳にもいくまい」

「そうねぇ……」


 そんな感じで、黄色いポーションの呼び名について話していると、クリームシチューが出て来ました。


「うわぁ、おいしそう!」

「なー!」


 水龍ちゃんもトラ丸も目の前のクリームシチューにテンション上げ上げです。さっそく、トラ丸の分を取り分けると、いただきますをして食べ始めました。


「ん~、おいしいわね~♪」

「な~♪」

「このブロッコリーが、とっても美味しくてヘルシーなのよん♡」


 満面の笑みで食べる水龍ちゃんとトラ丸に、マーサさんのブロッコリー推しが来ました。クリーミーで具沢山なシチューにおばばさまも満足顔です。


 みんな、黄色いポーションの名前のことなど、すっかり忘れて、美味しくて幸せなひと時を過ごすのでした。

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