4.水龍ちゃん、ポーション名をつける

第148話 中央病院

 水龍ちゃんとトラ丸は、おばばさまに連れられて中央病院へとやって来ました。中央病院は、ロニオンの街一番の大きな病院で、先日からマーサさんが働いている病院です。


 おばばさまと一緒に病院の裏口へ向かうと、マーサさんが待っていました。


「天使ちゃん、いらっしゃ~い♡」

「おはようございます!」

「なー!」


 マーサさんが嬉しそうな笑顔で歓迎すると、水龍ちゃんとトラ丸は元気よく挨拶をしました。


「マーサお姉さん、何だか、いつもと違う感じね」

「なー」

「うふっ♡ これ、病院の制服なのよん♡ もちろん女性用よん♡」


 水龍ちゃんが、にっこり笑顔でマーサさんの雰囲気の違いを指摘すると、マーサさんは嬉しそうにくるりと回り、白地で清楚な服装を見せびらかします。そんなマーサさんを見て、おばばさまは、やれやれといった表情です。


 そのままマーサさんの案内で、水龍ちゃん達は、中央病院のとある一室へと入りました。そこには水龍ちゃんが見たことのない魔道具がいくつもあって、病院の職員2名が働いていました。


 水龍ちゃん達は、職員達と軽く挨拶を交わしました。どうやら職員達は、おばばさまと知り合いのようで、世間話に花を咲かせていました。


「さぁ、天使ちゃん♡ これが今日の主役の魔道具よん♡」

「毒性評価の魔道具ね! 初めてみるわ!」

「なー!」


 マーサさんが指し示した毒性評価の魔道具を目の当たりにして、水龍ちゃんとトラ丸の目がキラキラと輝きました。


「それじゃぁ、美肌ポーションの毒性評価を始めましょうか♡ まぁ、飲んでも問題ないのは、私が証明しているのだけどねん♡」


 マーサさんは、にこやかにそう言って軽くウインクをしてみせました。実際、マーサさんは、初めて美肌ポーションを見た時に、丸ごと1瓶飲んで何ともなかったのですから、毒など入ってないと証明したようなものです。


「普通は飲む前に毒性評価をするものじゃぞ」

「てへっ♡」


「それに、こいつは過去に類のない真新しいポーションじゃ、世に出す前にきちんと評価しておく必要があるじゃろ」

「うふっ♡ そうだったわねん♡」


 おばばさまに窘められ、改めて目的を説明されて、マーサさんは、今回の毒性評価の意義を思い出したようです。


「う~ん、私、苦くない治癒ポーションとか、青毒ポーション、赤毒ポーションを作ってきたけど、毒性評価なんてしてないわよ?」


 水龍ちゃんは、素朴な疑問を抱いて小首を傾げました。


「それらは、主となる素材が既存のポーションと一緒じゃから毒性評価の必要はないのじゃよ。それにのう、ポーション鑑定魔道具では、ある程度の毒素が混じっていると警告音で教えてくれるのじゃ」

「そうなの?」


「うむ。まぁ、念のために、わしが薬師ギルドの魔道具を使って評価しておいたが、問題なかったのじゃ」

「ふふっ、ありがとう、ばばさま」

「なー!」


 おばばさまが、ひそかに確認しておいてくれたと聞いて、水龍ちゃんとトラ丸は、笑顔でお礼を言いました。


「それじゃぁ、天使ちゃん♡ 私が使い方を教えるから一緒にやってみましょ♡」

「はーい」

「なー」


 世話好きなマーサさんが、四角い箱型の毒性評価魔道具の前に立ち、これから使い方を教えてくれるそうです。


 毒性評価の魔道具は、前面が引き出しのようになっていて、中に試験管をいくつか入れる場所がありました。


 マーサさんの指示の下、水龍ちゃんは、5つの試験管に美肌ポーションを少しずつ注ぎ入れて、魔道具の引き出しの中にセットしました。


 そして、引き出しを閉めると、魔道具正面の右側についているスタートボタンをぽちっと押しました。すると、毒性評価の魔道具についている緑色のランプが点灯しました。


「正常に動き出したわねん♡」

「静かなものね」

「なー」


 魔道具自体は静かなもので、ランプがついていないと動いているのかどうか分からないほどです。水龍ちゃんとトラ丸は、音もなく動き出した毒性評価の魔道具をじーっと見つめ、ちょっと物足りなさそうな顔をしました。


「毒っていっても、赤毒、青毒を始めとして、いろんな毒があるわよね。この魔道具は、どんな毒でも分かるのかしら?」

「うふふっ♡ この魔道具はねぇ、主だった毒性を持つ物質を検出することが出来るのだけど、世の中すべての毒を検出できるわけじゃないわよん♡」


「そうなのね」

「そうよん♡ だけど、この魔道具の良いところは、間違って飲んじゃった場合を想定していて、胃液が混じることで初めて毒性が出るような物質を毒性物質として検出してくれたりするのよねん♡」


 水龍ちゃんの疑問に答える形で、マーサさんが、毒性評価の魔道具について、その概要をざっくりと説明してくれました。水龍ちゃんとトラ丸は、キラキラと瞳を輝かながら聞いていました。


「毒性評価が終わるまで、もうしばらく時間が掛かるから、良かったらほかの魔道具についても説明するわよん♡」

「ほんと? 是非ともお願いします!」

「なー!」


 マーサさんの提案に、水龍ちゃんとトラ丸は瞳をキラキラ輝かせました。どうやら水龍ちゃんとトラ丸は、見たことも無い魔道具達に興味津々といったようすです。

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