第146話 治癒効果
マーサさんが帰った後、水龍ちゃんとトラ丸は、おばばさまと朝食を食べてから、今日もダンジョンへと向かいました。
水龍ちゃんとトラ丸は、ダンジョンへ入ると、いつものようにハンター達を避けるようにして道なき道を爆走します。
「どこかに怪我をしている魔獣はいないかなぁ……」
「なー」
水龍ちゃんが、爆走しながら呟くと、トラ丸も並走しながら、どうかなー、とのんきに返します。
水龍ちゃんは、一夜明けてもキラキラ感が消えていなかった黄色いポーションが、治癒効果を失っていないかどうかを早く確かめたいのです。
そうして怪我して弱っている魔獣を探しながら、とある階層へと爆走してきた水龍ちゃんは、ん? と、何かに気づいて立ち止まりました。
「この気配、そして血のにおい。怪我した魔獣じゃないかしら?」
「なー?」
「とにかく行ってみましょ」
「なー!」
水龍ちゃんとトラ丸は、血のにおいと気配のする方へと向かいました。
すると、岩陰に蹲る大きな猪のような魔獣を見つけました。
「いたわ。前足を怪我しているみたいね。お腹の辺りも血が滲んでいるわ」
「なー」
水龍ちゃんの呟きに、トラ丸は、そだねー、と相槌を打ちます。
そして、水龍ちゃんとトラ丸が、怪我をした大きな猪魔獣へ近付いて行くと、気付いた猪魔獣はむくりと起き上がり、逃げ出そうと怪我した足を引きずるように、ひょこひょこと動き出しました。
「逃げなくてもいいわよ。怪我が酷くなるわ」
水龍ちゃんがトラ丸と共に、逃げようとする大きな猪魔獣の前へと回り込んで声を掛けると、大きな猪魔獣は、もう逃げられないと思ったのでしょうか、その場へゆっくりと横たわりました。
「よしよし、あなたにはポーション効果の確認に付き合ってもらうわね。上手くいけば、怪我が治るはずよ」
「なー」
水龍ちゃんは、バックパックに入れておいたポーションケースから黄色いポーションを1つ取り出すと、蓋を開けて大きな猪魔獣の怪我した前足と血のにじむお腹のあたりへとポーションをかけました。
すると、ほんわかと淡い光を放って大きな猪魔獣の傷口がみるみるうちに塞がってゆきました。
「ふふっ、予想通り傷口が治ったわ。検証は大成功ね!」
「なー!」
にっこり笑顔で嬉しそうに話す水龍ちゃんに、トラ丸も、やったねー、と喜んでいます。
そして、大きな猪魔獣はというと、少し驚いた様子で目をパチクリさせた後、ゆっくりと立ち上がり、怪我をしていた前足のようすを確かめるように足を踏みしめていました。
「うふふっ、元気になって良かったわ。実験に付き合ってくれてありがとね」
水龍ちゃんは、そう言って、大きな猪魔獣の鼻面をなでました。大きな猪魔獣は、そんな水龍ちゃんを不思議そうに見つめています。
「なー」
そこへ、トラ丸が鳴き声を上げると、大きな猪魔獣はビクッとして、じりじりと後ずさりを始めました。何だか血の気が引いたような顔をしているように見えます。
「おいしそうだって? う~ん、確かに……」
「ブヒー!!!!」
水龍ちゃんがトラ丸の声を拾って、改めて大きな猪魔獣に視線を向けると、猪魔獣はヤバいと思ったのでしょうか、血相を変えて逃げ出しました。
「なー?」
「仕留めて食べようって? だめよ、ポーション効果の検証に協力してもらったんだから見逃してあげましょ」
トラ丸が、ペロリと舌なめずりして水龍ちゃんに打診するも、水龍ちゃんから待ったが掛かりました。
「なぅ……」
「そんな顔しないの。あれだけ大きいと、捌いて料理するのは大変なのよ。料理道具も無ければ、調味料も持ってきてないわ」
残念そうに、逃げていく猪魔獣の背中を見送るトラ丸に、水龍ちゃんは、今の状況では料理をするのもひと苦労だと言ってきかせるのでした。
「それより、治癒効果が確認できたから、この先の研究が楽しみだわ」
「なー?」
「えっ? おいしいのかって? ポーションの味のこと? う~ん、どうかしらね。そう言えば、以前ポムさんがちょっと苦いって言ってたかも……。一度、味見をした方が良さそうね」
「なー」
水龍ちゃんは、ポーションケースから新たに黄色いポーションを取り出すと、蓋を開けて、魔法で少しばかりポーションを空中へ浮かせて、パクリと口の中へと放り込みました。
「うん、確かに、ちょっと苦いわね……」
「なー?」
なんだか微妙な顔をする水龍ちゃんを見て、トラ丸は、だいじょうぶ? と心配顔です。
「う~ん、これくらいなら美肌ポーションの量を決める実験と並行して、ハーブやスパイスで味を調えれば、なんとかなるんじゃないかなぁ」
「なー」
水龍ちゃんが、顎に指を当てて考えを口にすると、トラ丸が、そだねー、と相槌を打ちます。
「よーし、なんか見えて来た気がするわ! ヒール草を使ったポーションの完成も近いわよ!」
「なー!」
小さな拳をきゅっと握りしめて、ふんすとやる気を漲らせる水龍ちゃんに、トラ丸は、がんばれー! とエールを送るのでした。
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