第145話 極み構想
ヒール草をポーション錬成する際に美肌ポーションを加えて作ったポーションが、翌日になってもキラキラ感が残っていたため、水龍ちゃんとトラ丸は、研究に進歩が見られたと喜びました。
俄然やる気になった水龍ちゃんは、ポーションケースから、キラキラ感の残るポーションを取り出して、テーブルの上に並べます。
「やっぱり、どれも美肌ポーションを加えて作ったものね。だけど、美肌ポーションを入れた量が違うのに、見たところキラキラ感は変わらない感じだわ」
「なー」
水龍ちゃんが、キラキラ感の残るポーションを観察していると、トラ丸も一緒になってポーションをまじまじと見比べて、そだねー とかわいらしく相槌を打っていました。
「美肌ポーションの量がどれも十分過ぎるのか、それともキラキラ感に差はなくても治癒効果に違いが出るのか、どちらにしても治癒効果の確認がしたいわね」
「なー?」
水龍ちゃんが腕を組んで考え込んでいると、トラ丸が、水龍ちゃんの顔を見上げて首を傾げてみせました。
「ん? どうするのかって? そうね、取りあえず、ダンジョンへ行って怪我した魔獣にでも使ってみたいわね」
「なー!」
水龍ちゃんが考えを述べると、トラ丸は、狩りだー! と喜びの声を上げました。
水龍ちゃんが、ダンジョンへ行く準備をしていると、ピンポーン♪と、玄関チャイムの音が鳴りました。
「あら? マーサお姉さんが来たみたいだわ」
「なー」
水龍ちゃんは、気配でマーサさんだと分かったようで、トラ丸を連れて、トテトテと玄関へ出迎えに行きました。
「おはようございます。マーサお姉さん」
「なー!」
「んまっ♡ おはようさん♡ 天使ちゃんもトラ丸ちゃんも早起きねん♡」
水龍ちゃんとトラ丸が元気に挨拶をすると、マーサさんは、嬉しそうにくねくねと体を捩りながら挨拶を返してくれました。
「ばばさまが、美容商品の開発について話があるって言ってたわ」
「あらん♡ それは楽しみねん♡」
水龍ちゃんが、にっこり笑顔で告げると、マーサさんもにこやかに返して、おばばさまの待つリビングへと向かいました。
マーサさんは、おばばさまへ軽く挨拶をすると、自らハーブティーを入れて話をする準備を整えました。もちろん世話好きなマーサさんは、おばばさまと水龍ちゃん、そしてトラ丸にもハーブティーを出すのを忘れません。
「さて、まずは開発時間の確認じゃが、早朝の2時間で良いのじゃな?」
「そうなのよねぇん♡ 病院で診察が始まると、次から次へと薬の調合指示が入って来るのよん♡ あそこは夜間診療までやってるから夜の遅い時間か早朝くらいしか時間が取れないのよん♡ まぁ、その分、お給料はいいんだけどねん♡」
おばばさまの確認に、マーサさんは頬に手を当てながら困った顔で答えます。どうやらマーサさんは、かなりハードな職場で働くことになったようです。
「うむ、了解じゃ。それで、お前さんは、美肌ポーションを使って具体的にどんな商品を開発するつもりじゃ?」
「むふふっ♡ そんなの決まってるじゃない♡ まずは究極のドロくさパックを作るのよん♡ 名付けて、『ドロくさパック極み』よん♡」
おばばさまからの次の質問に、マーサさんは、とても嬉しそうに頬を緩めて答えました。マーサさんのドロくさパックへの思いの深さが感じられます。
「はぁ……。それで? その究極のドロくさパックとやらについて、もっと詳しく話すのじゃ。いろいろ考えておるのじゃろ?」
「むふふふふっ♡ さっすがお師匠様ねん♡ ドロくさパック極みはねぇ、——」
おばばさまが、やっぱりかという表情で大きく溜息を吐いて詳細を尋ねると、マーサさんは、嬉々として『ドロクサパック極み』について語ってくれました。
しかし、マーサさんの考えでは、ドロくさパックのベースとなる泥の部分にもかなり希少で高価な素材をふんだんに使う計画のようで、いったいいくらの値段で販売しようとしているのか心配になって来るほどでした。
「却下じゃな」
「なんでぇぇぇぇ!?♡」
案の定、おばばさまに、計画を却下されて、マーサさんは信じられないとばかりに悲嘆の叫び声を上げました。
「希少な素材を使い過ぎじゃ」
「それだけ、美肌効果が見込めるのよん!♡」
「ふん、どうじゃかのう。そこまで希少な素材を合わせなくとも、同等の効果が出せると思うが?」
「ダメよ、ダメ♡ どれもお肌にとても良い素材なのよん♡ 究極を求めるためには1つも外せないわん!♡」
おばばさまが、レア素材の使い過ぎを指摘して嗜めようとしますが、マーサさんの思いは相当強いようで、一歩も後に引くつもりはないようすです。
「マーサお姉さん、そもそも美肌効果の良し悪しって、どのように確認するの? ポーション鑑定装置じゃダメなんでしょ?」
「うむ、そうじゃ。ほれ、その辺はどうするのじゃ?」
水龍ちゃんが、素朴な疑問を投げつけると、おばばさまも同意して、マーサさんへと問いかけました。
「そんなの、簡単よん♡ 舐めてみれば分かるわん♡」
「分かるか! ぼけぇっ!!」
マーサさんが、にっこり笑顔で自信満々に答えると、おばばさまが鋭くツッコミを入れました。水龍ちゃんは苦笑いで、トラ丸は小首を傾げています。
結局、美肌効果の確認をどうするかという話で、あーだこーだと言い合っているうちに、マーサさんの出勤時間が近付いてしまい、今日のところは時間切れでお開きになってしまうのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます