第143話 お断りします!

 ポムさんは、水龍ちゃんがヒール草から作った研究中のポーションをどうしても飲みたいがために、自分がポーション効果の確認をしてあげるのだと言い出しました。


「ちょうど、3日後にダンジョンへ入る予定ですから、そこで、効果を確認してきましょう! さぁ、ありったけの黄色いポーションを寄越すのです!!」

「ちょ、ちょっとポム! 何、勝ってなこと言ってんのよ!!」


 さらにポムさんが、調子よくポーションを寄越せと手を差し出すと、フランさんがこれは不味いと思ったのでしょう、慌てて声を上げました。


「お断りします!」

「なんですとぉぉ!? なぜ断るのですかぁ!?」


 水龍ちゃんが、毅然とした態度で断ると、すっかりテンション上げ上げだったポムさんは、信じられないとばかりに頭を抱えて叫びました。


「もう、いい加減にしなさい!!」

「あ痛っ!!」


 もう堪りかねたのでしょう、フランさんが、ポムさんの後頭部をペチンと平手で勢いよく叩くと、ポムさんは涙目で声を漏らしました。


「ほんと! ごめんなさい。ごめんなさい。ポムが迷惑かけてごめんなさい!」

「あの、いえ、そんな……」


 フランさんが、強引にポムさんの頭を下げさせながら、自身も頭を下げて何度も謝ってきたので、水龍ちゃんは少し戸惑い気味です。


「この子も根は悪い子じゃないんです。ちょっと、マイペースというか、頭のネジが緩んでるというか、とにかくごめんなさい!」

「ちょっと待て。頭のネジが緩んでるとは、どういうことですか?」


「あなたは、ちょっと黙ってなさい!!」

「あ痛っ!!」


 再びフランさんが、ポムさんの後頭部を平手で勢いよく叩き、ポムさんは、またしても涙目です。


 そんなドタバタしている2人のようすを見て、水龍ちゃんは苦笑いです。


「えっと、あのポーションは、実は日持ちがしなくって、翌日には、治癒効果が無くなってしまうんですよ」

「なんですとぉぉ!?」


 水龍ちゃんが、黄色いポーションの問題点を述べると、ポムさんは、頭を抱えてしまいました。1日で効果が無くなるのでは、今、ポーションを手に入れてもダンジョンへ行くころには、既に効果が無くなっていて使い物になりません。


「それに、ポーション効果の確認は、満足のいくポーションができ上がってからで十分ですし、ハンターギルドやおばばさまに相談してからにします」

「そ、そうですよね」


 さらに水龍ちゃんが、自身の考えを述べると、フランさんがなぜか少しほっとした顔で相槌を打ちました。フランさんにとっては、ようやくポムさんの暴走が止まると思ったのかもしれません。


 その一方で、ポムさんは、黄色いポーションを手に入れる手段が絶たれてしまい、がっくりと膝を折って項垂れてしまうのでした。


 そんなドタバタ劇が終わると、フランさんが、水龍ちゃんに改めてお礼を言って、生気のなくなったポムさんを連れて帰って行きました。




 その後、水龍ちゃんは、予定通り生け捕りにしたツキノワヒグマを魔物ショップへ売りました。


 魔物ショップのゲン爺さんは、ツキノワヒグマを見てホクホク顔で、なかなかの値段で買い取ってくれましたが、次は5日以上、日を空けてから持ち込んでくれと言われてしまいました。魔物も生き物なので、扱いが大変らしいです。




 水龍ちゃんとトラ丸が帰宅して、おばばさまとお茶を飲みながら、ポムさん達とのドタバタ劇の話をしていると、ピンポーンと玄関チャイムが鳴りました。時間的にも薬師ギルドのお姉さん達がやってきたに違いありません。


「みなさん、いらっしゃい」

「なー」

「こんにちは、水龍ちゃん。おじゃまするわね」

「「「「おじゃましまーす」」」」


 水龍ちゃんとトラ丸が出迎えると、お姉さん達は賑やかに挨拶をして、リビングへと向かいました。そして、その最後方には、なぜか元薬師ギルドマスターのミランダさんの姿がありました。


「よう、水龍、おじゃまするぞ」

「ミランダさんもポーション入りドリンクですか?」

「なー?」


 ミランダさんの挨拶に、水龍ちゃんとトラ丸が、軽い感じで尋ねます。


「いや、なんか倶楽部活動を始めたから参加しないかと誘われてな。まず話だけでもというので来てみたんだ」

「そうなんですね。美発部へようこそ!」

「なー!」


 ミランダさんから目的を聞いて、水龍ちゃんとトラ丸は、にっこり笑顔で歓迎の声を送りました。


 リビングへ場所を移すと、さっそくお姉さん達がテキパキとポーション入りのドリンクを用意して、おしゃべりに興じていました。


 ミランダさんが、お姉さん達に案内されるままソファーに座ると、お姉さんの1人が立ち上がって、にっこり笑顔で声を上げました。


「おばばさま、今日は美発部部長を連れて来たわ!」

「「「「ミランダ部長! よろしくお願いしまーす!」」」」

「なっ!? 部長って、どういうことだ!?」

 パチパチパチパチ!


 突然、みんなに部長と呼ばれて戸惑うミランダさんに、お姉さん達から盛大な拍手が送られます。


「美発部部長就任にあたって、一言お願いします!」

「「「「わー」」」」

 パチパチパチパチ!


「おい、勝手に話を進めるな! 誰が引き受けると言った? 取りあえず、部長の話はお断りだ!」

「「「「ええーっ!!!!」」」」


 お姉さん達の強引な部長決定の進行に、ミランダさんが、お断りだと告げると、お姉さん達は、信じられないとばかりに声を揃えて嘆くのでした。

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