第142話 ここで会ったが……

 魔物ショップの前で立ちはだかる女性2人に、、水龍ちゃんとトラ丸は、思わず誰かと小首を傾げてしまいました。


「ふっふっふ、ここで会ったが、ごきげんよう! 不思議な黄色いポーションを売ってください!」

「はぁ?」


 魔法使い風の少女が、なぜか自信満々に語気を強めて頼み事をしてきたため、水龍ちゃんは、思わず呆けた声を漏らしてしまいました。


「あの黄色いポーションを飲んだ時のですねぇ、体の内側からヒールの魔法がほわわ~と全身に広がってゆく感じが忘れられないのです! さぁ、売ってください!!」

「えーっと……」


 さらに魔法使い風の少女が、自分の世界に入り込んだように語るものですから、水龍ちゃんは、どうしたものかと、取りあえず頭の上の大きなクマを下ろしました。


「ちょっと、ポム! 落ち着いて! いきなりそんな言い方したら、売ってくれるものも売ってくれなくなるわよ!」

「うっ、それは、困ります……」


 白いローブの女性が嗜めると、魔法使い風の少女は、ばつが悪そうに縮こまってしまいました。


「改めまして、私は、フランボワーズ、フランとおよび下さい。以前、ダンジョンであなたの作ったポーションで命を助けられた者です。その節は、本当にありがとうございました」


「あー、あの時の人達ですね。お礼など要りませんよ。研究中のポーションだったので人体に影響が無いか心配だったんですけど、問題なさそうですね」


 フランボワーズと名乗った白いローブの女性の話で、水龍ちゃんは、彼女たちのことを思い出したようです。


「あの時は、名乗りもせずに申し訳ありませんでした」

「いえいえ、それは、お互い様です。あ、わたしは水龍。で、こっちはトラ丸です」


「トラ丸ちゃんもごめんなさいね。うちの連中が怒らせてしまったようで」

「なぅ?」


 フランさんに謝られてしまい、トラ丸は、もう忘れてしまったのか、首を傾げてしまいました。


「それにしても、大きなツキノワヒグマですね。傷もほとんどないですし、やっぱりまだ生きているんですか?」

「ん? もちろん生きてますよ。魔物ショップに売るんです」


 魔法使い風の少女が、大きなクマの魔獣を間近で見ながら尋ねてきたので、水龍ちゃんは、魔物ショップに売ると説明します。


 彼女たちは、やっぱりという顔で、特に驚くようすはありません。水龍ちゃんが魔物を運ぶ姿はよく目撃されているだろうし、魔物ショップの前で待ち構えていたということは、そういう噂を聞いていたのでしょう。


「改めまして、私はポムといいます。あの時の黄色いポーションを再び飲みたくてあなたを探していたんですよ。さぁ、水龍ちゃん、是非とも黄色いポーションを売ってください」


 なぜか、このタイミングで名乗ったポムという少女は、再びポーションを売って欲しいと言ってきました。


「まだ研究中なので、売ることはできませんよ」

「そこを何とか! 私は、あのポーションを飲んだ時の感動が忘れられなくて、どうしても再びあのポーションが飲みたいのです!」


 水龍ちゃんが断るも、ポムさんは、全く動じることも無く、自身の欲望を強く主張してきました。


「う~ん、あのポーションって、中毒性でもあるのかしら……」

「すみません。ポムは、マイペースというか何と言うか、いつもこんな調子なので、あまり気になさらないでください」


 水龍ちゃんが、少し考える仕草で小さく呟いていると、フランさんが、申し訳なさそうにポムさんのことを話してくれました。


「ほら、ポムもそんなに駄々を捏ねていないで、研究中のポーションが完成するのを待ちましょう」

「むむむ……、だが、しかし、ポーション研究が終わるのなんて何年かかるか分かりませんよ。私はそんなに待てないのです!」


 フランさんが窘めるも、ポムさんは、なかなか諦めそうにありません。


「はぁ……。では、聞きますけど、ポムは、研究中でお値段もお高いであろうポーションを買えるだけのお金を持っているのですか?」

「うっ……」


 フランさんが、大きく溜め息を吐いてから淡々とお金の話をすると、ポムさんは怯みました。


「普通の治癒ポーションより、明らかに効果が高かったですよね。その効果からすれば、かなりお高い買い物になりそうですけど、大丈夫なのですか?」

「いや、その……、大丈夫かなぁ……と、たぶん……」


 さらにフランさんが、これ見よがしにポーション価格について推察すると、ポムさんは明らかに動揺しているのでしょう、視線が彷徨っていて、歯切れが悪いです。


「そんなに持ち合わせが無いんですね?」

「うっ……。そうだ! 良いことを思いつきました!」


 フランさんが、ジト目で確認の言葉を投げつけると、ポムさんは図星だったのでしょう、一旦、怯みましたが、そこで何かを思いついたようで、ポンっと手を打ち鳴らしました。


「あの黄色いポーションが研究中というのならば、私が、そのポーションを飲んで効果を確認して差し上げましょう!」

「えっ?」


 ポムさんが、ドヤ顔でいきなりな提案をしてきたため、水龍ちゃんは、驚きの声を漏らしました。


「何を言い出すのかと思えば……。ポム、あなた、ポーション効果確認のためだと言えば、研究中のポーションがタダで飲み放題になると考えているわね?」

「その通りです!!」


 フランさんが、呆れた顔で指摘すると、ポムさんは、堂々と、そして名案でしょうとばかりにドヤ顔で肯定するのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る